『暗戦 デッドエンド』

暗戦 デッドエンド [DVD]

原題:“暗戦 Running Out of Time” / 監督&製作:ジョニー・トー / 脚本:ヤウ・ナイホイ、ロラン・クルティオ、ジュリアン・カーボン / 共同製作:クリスティーナ・リー / 撮影監督:チェン・シュウキョン,HKSC / 美術監督:ジェローム・ファン / 編集:チャン・チーワイ,HKSE / 特殊メイク:MASTERSFX,INC. / 音楽:レイモンド・ウォン / 出演:アンディ・ラウラウ・チンワン、リー・チェーハン、ヨーヨー・モン、リー・チーホン、ホイ・シウハン、ラム・シュー、ルビー・ウォン / 配給:JCA / 映像ソフト発売元:ANEC

1999年香港作品 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:?

2000年6月1日日本公開

2001年1月12日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2010/12/25)



[粗筋]

 ホー刑事(ラウ・チンワン)は腕利きの交渉人だが、直情的な上司ウォン警部(ホイ・シウハン)と反りが合わず、大事件が発生していない折には嫌がらせめいた雑務を任せられがちだった。

 あるとき、ビルの金融会社で立て籠もり事件が発生する。当初ホー刑事は呼ばれず、ウォン警部は特殊部隊を招いた強硬策に及ぶが、犯人(アンディ・ラウ)は最初ウォン警部が寄越した交渉人を拒み、結局遅れて到着したホー刑事が対峙した。

 いざホー刑事が現れると、犯人は意外な要求をした。76時間、自分とゲームをしよう。捕まえられればお前の勝ちだ、と。そして、奇手を連発し、警察を翻弄して現場から脱出してしまう。単独で追ったホー刑事が辛うじて肉迫するも、犯人は通行人を人質に取った大胆な作戦で逃げ切ってしまった。

 ホー刑事は相手が極めて優れた知能を持ち、緻密に計画を組んだ上で犯行に臨んだことを悟る。だとすれば、金融会社を標的にしたことも、自分が交渉人として現れることも想定していたはずだ。そう睨むと、ホー刑事は単身、金融会社の様子を探りに向かうが、そこには既に犯人の仕掛けが随所に張り巡らされていた……

[感想]

 アンディ・ラウが地元香港の映画賞で主演男優賞に輝いた作品、だが既にジョニー・トー監督の映画を多く観てきた目には、むしろいつも通りのジョニー・トー節が炸裂するサスペンスである。プロフェッショナル、或いはその道を究めた男たちが交錯し、熱い戦いを繰り広げる。

 そうは言いつつも、しかし実は本篇のような、刑事と犯人の知恵比べを中心とした作品、というものは意外と少ない。強いて言うなら『ブレイキング・ニュース』が近いが、あちらは第三者の目線を意識した政治的なやり取りも絡むうえ、着眼点はクライマックスのひねりにあるので趣が違う。終盤まで、観客まで巻き込んでの腹の探り合いが続けられる本篇は、ジョニー・トー監督作品としては珍しいのだ。トー監督お馴染みのスタッフのなかでも、ヤウ・ナイホイが脚本を手懸ける作品は特に企みに満ちており、こうした作品を生み出しそうな資質は感じられたが、1999年とかなり初期の段階で発表していたのは驚きだ。

 ただ、率直に言えば、駆け引きの内容にはところどころ強引さや恣意的なものが見出される。特に爆弾を巡る駆け引きと判断は、刑事側にも犯人側にも根拠が窺えない。中心二人の潔さ、凛々しさは感じられるが、他の部分の異様な計算高さと対比するとやや納得のいかない印象が残る。

 とはいえ、他の部分の緻密さは出色だ。序盤で描かれる犯人の謎めいた振る舞いが、きちんとあとあと意味を為していく。犯人のその計画性の高さもさることながら、それを巧みに読み解く刑事の頭脳にも魅せられる。全体に刑事が遅れを取っているようにも見えるが、それは犯人が刑事の知性に敬意を表したうえで、彼ならどう判断するか、どう行動に出るか、を予測して策を講じているからだ。むしろ、何よりも刑事の炯眼を信じているのである。

 ある意味、はじめから解り合えることが約束されているような男たちであるからこそ、中盤、一緒に窮地に追い込まれた際、ほとんどアドリブで共闘するのも、クライマックスで互いの提案を呑むのも、そしてあの結末も自然に感じられる。激しい戦いが描き出す男の絆、というのはジョニー・トー監督の定番要素だが、アクションよりも頭脳戦を介して描いているのが、彼の作品として眺めるとユニークであり、それでいてスリリングさを失っていないのがさすがだ。

 この本筋だけでも見事だが、本篇で効いているのは中盤、バスの場面で登場する女性である。一見したところ、死に臨む犯人の哀しみを浮き彫りにするための彩りに見えるが、ここに心憎い趣向が秘められている。そのために、直前まではクールだがやもすると自己陶酔的にも捉えられそうな顛末に、清々しい余韻を添えている。

 基本はジョニー・トー監督らしさが横溢する傑作だが、種類の近い面白さも、実は様々な手法を試していることが解る。近年の、壮絶な命のやり取りをスタイリッシュに描き出した作品群に魅せられた人であれば楽しめるはずだが、その違いに着目するとより興味深い1本であろう。

関連作品:

ヒーロー・ネバー・ダイ

フルタイム・キラー

PTU

マッスルモンク

ブレイキング・ニュース

天使の眼、野獣の街

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を

ウォーロード/男たちの誓い

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