『ゴダール・ソシアリスム』

『ゴダール・ソシアリスム』

原題:“Film Socialisme” / 監督:ジャン=リュック・ゴダール / 製作:ルート・ヴァルトブルゲール、アラン・サルド / 監督部:ファブリス・アラーニョ、ポール・グリヴァス、ルーマ・サンバール、アンヌ=マリー・ミエヴィル、ジャン=ポール・バタジア / 撮影監督:ファブリス・アラーニョ、ポール・グリヴァス / 音響:フランソワ・ミュジー、ガブリエル・アフネール / 出演:マチアス・ドマイディ、ナデージュ・ボーソン=ディアーニュ、ジャン=マルク・ステーレ、アガタ・クーチュール、マリー=クリスティーヌ・ベルジェ、カンタン・グロセ、モーリス・サルファティ、オルガ・リャザーノワ、ドミニク・ドヴァル、ルーマ・サンバール、ロベール・マルビエ、ベルナール・マリス、パティ・スミス、レニー・ケイ、アラン・バディウ、エリアス・サンバール、クリスチャン・シニジェ、カトリーヌ・タンヴィエ、マリーヌ・バタジア、ギュリヴェール・エック、エリザベート・ヴィタリ、アイ・アイダラ / ヴェガ・フィルム製作 / 配給:フランス映画社

2010年スイス、フランス合作 / 上映時間:1時間42分 / 日本語字幕:2010映画史字幕集団

2010年12月18日日本公開

公式サイト : http://www.bowjapan.com/socialisme/

TOHOシネマズシャンテにて初見(2011/01/06)



[粗筋]

 海。海の上を漂う船。カジノ、ディスコ、狂奔する老若男女。資本主義について、文明について。海に沈んだ金塊。ガソリンスタンド。BE動詞で話す人間を信じるな。レポーターを拒む親子。世界の歴史。映像の歴史。ふたたび海。女の笑い声……

[感想]

 ……と、いちおうモチーフを羅列はしてみたが、これはいくら文字にして語ったところで、理解には届かないだろう。

 本篇ははなから、物語というものを拒絶している。根底に一貫したテーマのようなものを匂わせながらも、それを解りやすい形で連携させて観客に示すということをせず、ひたすらに観客が自発的に感じ取るままに委ねている。

 たとえば私の場合なら、冒頭の台詞に喚起される形で、序盤は終始“資本”を巡る描写が積み重ねられているように読み取ったが、人によって注目する部分は違うだろう。どう考えても普通の子供ではあり得ないレベルの語彙で、秘密や文明について語る少年少女に着目する人もあるだろうし、映画について広範な知識を持つ人ならば怒濤のような引用に何かを見出すのかも知れない。

 どれほど深甚なテーマを扱っていても、基本的に明確な筋がひとつは存在する作品が中心になっている中で、これほど物語ることを拒否し、観客に挑戦するかのような作りにしながら、世界的に受け入れられていることがそもそも驚異的だ。確かに、まるっきり奔放に綴っているわけではなく、そこに重厚なメッセージ性が嗅ぎ取りやすいからこそ、映画ファンを惹きつけているわけなのだが、こうも極端に出ることが出来るのは、ジャン=リュック・ゴダールという監督の作家性の為せる技だろう。

 デジタルで制作したのちフィルムに変換した、という本篇は、映像的にもデジタルならではの加工が施されているが、それよりも印象的なのは音の組み立てだ。5.1chの立体的音響を駆使して、一方からは環境音が響き、一方からは人物の声だけが聴こえてきたり、音楽を荘重に流したかと思うと、唐突にばっさりと切り、人物の声を強調してきたりする。様々な書籍や映画からの引用で成り立っているらしい台詞もさることながら、こうした映像と音響の作りでも観客を触発しようとする。その表現趣向の豊かさは、いっそ偏執的と言いたくなるほどだ。

 如何せん、把握しうるストーリーというものがなく、観客側で解体と再構築をするよう徹底的に要求する内容なので、受動的に物語の中に浸りたいという人には間違いなく向かない一方で、挑発的な作品を望む人であっても、かなり気力を奪われる作品ゆえ、お薦めするのは難しい。だが、解りやすいものばかりで辟易している、などと嘯くような人には、是が非でも劇場に足を運んでいただきたい――少なくとも、この5.1chを活用した音響効果は、劇場で味わうべきだ。

関連作品:

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