原題:“RED” / 監督:ロベルト・シュヴェンケ / 脚本:エリック・ホーヴァー&ジョン・ホーヴァー / 原作グラフィック・ノヴェル:ウォーレン・エリス、カリー・ハムナー / 製作:ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、マーク・ヴァーラディアン / 製作総指揮:グレゴリー・ノヴェック、ジェイク・マイヤーズ / 共同製作:デイヴィッド・レティ / 撮影監督:フロリアン・バルハウス / プロダクション・デザイナー:アレックス・ハモンド / VFX監修:ジェームズ・マディガン / 編集:トム・ノーブル / 衣装:スーザン・ライアル / キャスティング:デボラ・アキラ,CSA、トリシア・ウッド,CSA / 音楽:クリストフ・ベック / 音楽監修:ジュリアン・ジョーダン / 出演:ブルース・ウィリス、モーガン・フリーマン、ジョン・マルコヴィッチ、ヘレン・ミレン、メアリー=ルイーズ・パーカー、カール・アーヴァン、ブライアン・コックス、ジュリアン・マクマホン、レベッカ・ピジョン、アーネスト・ボーグナイン、ジェームズ・レマー、リチャード・ドレイファス / ディ・ボナヴェンチュラ・ピクチャーズ製作 / 配給:WALT DISNEY STUDIOS MOTION PICTURES. JAPAN
2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間51分 / 日本語字幕:菊地浩司
2011年1月29日日本公開
公式サイト : http://RED-MOVIE.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2011/01/29)
[粗筋]
カンザス・シティにある保険会社で年金の窓口を担当しているサラ・ロス(メアリー=ルイーズ・パーカー)の日常は、突然に崩壊した。はかばかしくないデートから帰宅したアパートに、見知らぬ初老の男が忍びこんでいたのである。
いや、知らない人物ではなかった。彼の名はフランク・モーゼス(ブルース・ウィリス)――サラが担当する顧客であり、相談と称して年中雑談を繰り返している人物である。彼の弁解はこうだった。自分は元CIAで、何らかの理由により命を狙われている。恐らく彼らは電話を盗聴しており、声の調子で、君に好意を持っていることも悟られているはずだ。次に狙われるのはサラだ、と。
当然信用しないサラを、フランクは拘束して車に放り込んだ。辿り着いたのはニューオーリンズ。フランクはサラをモーテルのベッドに縛りつけ、介護福祉施設を訪れた。フランクの元同僚であるジョー・マシスン(モーガン・フリーマン)は癌を患い、現在はこの介護施設でのんびりと余生を過ごしている。フランクはそんな彼の情報解析能力を頼んで襲撃者たちの素性を洗わせたのだ。結果判明したのは、彼らがれっきとしたCIAの特殊部隊であり、フランクの前にNYタイムズの女性記者を殺害している、という事実だった。
同じ頃、サラは必死にもがいた結果、どうにか拘束を解き、警察への通報に成功していた。だが、彼女の行動はさっそく、フランク襲撃のあとでその任務を引き継いだウィリアム・クーパー捜査官(カール・アーバン)に感知される。サラは警官の力を借りたクーパーによって拉致されそうになるが、すんでのところで駆けつけたフランクが無事救出した。
ようやく狙われていることを自覚したサラは、この窮地を脱するべく、フランクへの態度を改めた。ふたりはニューヨークへ赴き、殺された記者の実家を訪ねて、背後関係を探ろうとする。
しかしこのとき、謎の魔手はフランクだけではなく、ジョーの元へも伸びつつあった……
[感想]
いくら様々な役柄を演じる俳優であっても――いや、だからこそだろうが、あまり娯楽に大きく傾いたアクション大作に出演し、異能のプロフェッショナルに扮することはあまりない。精気に満ちあふれた若手がメインを張るなかで、ピンポイントで存在感を発揮することはあっても、終始スポットライトを浴び続けることはあまりない。
本篇は、そうした稀有なシチュエーションで全篇を支えている、という最初の発想がまず面白い。そこへ更に、アカデミー賞など様々な賞レースに名前を連ねるキャストを揃えているのだから、映画好きとしてはこれだけでもワクワクするが、仮に映画に対して通り一遍の関心しかなかったとしても、惹きつけられる看板であるのは間違いない。
ただ、そうした名優達の“活躍”にどんな期待を抱くか、によって本篇の評価は大幅に変わってしまうはずだ。
傑出したアクション映画にはひとつならず、銃撃戦やカーアクション、或いは格闘の部分にひねりや迫力のある描写があり、それらがさほど違和感を与えない、もしくは違和感を払いのけるぐらいの優れた物語性を持っている。なまじ名優揃いであるだけに、そういう部分にも期待を寄せすぎてしまうと、少々物足りなさを覚えるはずだ。
派手なアクションも豪快な銃撃戦も盛り込まれてはいるが、分量としては控えめだし、力押しのわりに引き際も早いので、そうしたものを楽しみにしている人ほど拍子抜けする可能性がある。背後関係は、本質的にはシンプルなのだが、語り口の問題で妙に複雑に描いてしまっているのでいまひとつ呑みこみにくく、随所のアクションに必然性を欠いた印象を与えがちなのも勿体ないところだ。
本篇が目指しているのは、そうした一般のアクション映画に多くの観客が期待するような派手さ、爽快感ではなく、本来アクション映画や、外連味たっぷりの娯楽大作には出演しないような俳優たちが参加し、彼ららしさを示しつつも意外な、奇想天外な活躍を示す、いわばシチュエーション・コメディ的な面白さだったのだろう。
そう考えると非常に腑に落ち、そして実にうまく考えられた構成になっている。各キャラクターの人物設定に登場のタイミング、意味深なやり取りがあとあと結びつくあたりなど、ニヤリとさせられる描写が多いのだ。中盤でフランクがあえてロシアの諜報員に手助けを求めるくだりの味わい深さ、それが終盤でまた別のところと結びつく面白さこそ、本篇を象徴するものと言える。
通常あまりアクション映画に出演しない俳優ばかりだが、いずれもそれぞれが好んで演じるタイプの人物像から隔たっていないのに、そのままプロの諜報員、工作員になっているのも本篇の味わいのひとつだ。特に、エリザベス女王の役でオスカーを獲得し、高貴な女性を演じて当代随一と言ってもいいヘレン・ミレンが、気品はそのままに凄腕のスナイパーに変貌する驚きと、お得意の切れ切れな人物像が振り切れた挙句に、一種フリークめいた存在感を発揮していたのに、その突き抜けた個性のまま気づけばマスコットのようになっているジョン・マルコヴィッチの“可愛さ”は、他のタイプの作品では決して味わえないものだろう。
そんな中で、一同を引っ張る立場にあるブルース・ウィリスはヴェテランながら逆にエンタテインメント中心に出演しており、別の俳優にしてもよかったのではないか――と配役を聞いた時点では私もそんな印象を受けたが、彼もまた心得た使い方をされている。あまりアクション映画に慣れていないメンバーばかりであるだけに、不足しがちなアクションの見せ場を、彼の活躍がうまく補っている。また、本篇では引退したと言いつつも相変わらずタフガイな彼が、電話だけで繋がっていたサラに対する恋心で、明らかにプロらしからぬ行動に及んで、従来の作品では見せなかった、いじらしさというか、キュートな側面を覗かせているのも、本篇の個性的な魅力のひとつとなっている。
大作ならではの派手さもあるにはあるが、本篇の面白さはそういった、役者の魅力を活かした設定や演技のやり取りにこそある、と思う。そういう、ちょっと渋い“大人”の楽しみ方が出来る人にこそお薦めの、ひと味違うエンタテインメント作品である――宣伝文句、“若造は引っ込んでな”は実に言い得て妙だ。
関連作品:
『フライトプラン』
『クイーン』
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