『乱れからくり ねじ屋敷連続殺人事件』

『乱れからくり ねじ屋敷連続殺人事件』

原作:泡坂妻夫 / 監督:佐藤肇 / 脚本:大和屋竺 / 撮影:横手丘二 / 音楽:木森敏之 / 出演:古城都柴田恭兵新藤恵美中尾彬岸田森菅貫太郎草野大悟、坪田直子、ガッツ石松、峰のぼる / 制作著作:日本テレビ円谷プロダクション / 放映:NTV系列

1982年日本作品 / 上映時間:1時間35分

1982年3月23日NTV系列(火曜サスペンス劇場枠)にて放送

本格ミステリ作家クラブ10周年記念企画『美女と探偵〜日本ミステリ映画の世界〜』(2011/6/4〜2012/7/1開催)にて上映

神保町シアターにて初見(2011/05/17) ※関係者向けテスト上映



[粗筋]

 元タカラジェンヌ、という来歴を持つ探偵・宇内舞子(古城都)のもとに、浮気調査の依頼が舞い込んだ。依頼主は老舗の玩具メーカーを経営する一族の長男、馬割朋浩(菅貫太郎)。調査対象はその妻、真棹(新藤恵美)である。舞子と助手の勝敏夫(柴田恭兵)はすぐに浮気相手が朋浩の弟・宗児(中尾彬)であることを突き止めるが、その話をする前に、朋浩と真棹の夫婦は海外へ向かおうとした。

 このまま金を払わずに消える気か、と思ったふたりが尾行すると、あろうことか朋浩夫婦の乗った車に隕石が落下、真棹はどうにか勝が助け出したが、朋浩は車の爆発に巻き込まれ、病院に担ぎ込まれたのち息を引き取る。

 後日、勝は真棹を助けた際に預かったままになっていたバッグを届けるべく、折しも朋浩の葬儀が催されていた屋敷へと赴く。だがそこで、新たな悲劇が起きた――朋浩と真棹の幼いひとり息子・透一が、毒を飲み死んでしまったのである。

 悲嘆に暮れる真棹は、ふたたび訪ねた勝に、宗児と不倫関係に陥った経緯を語った。それは馬割家が横浜に構える邸宅、通称ねじ屋敷に併設された巨大迷路に連れこまれ、疲労困憊になった挙句に過ちを犯し、以来その出来事を理由に脅され、宗児の気の赴くままに抱かれるようになったのだという。

 しかし、悲劇はこれに留まらなかった。朋浩に替わって調査費を払いに来た宗児に招かれ、舞子と勝がねじ屋敷を訪れたその日、ふたたび馬割家から死者が出たのである――

[感想]

 こう言っては何だが、推理小説、探偵小説とテレビドラマとの相性はあまり良くない。山村美紗に西村京太郎、内田康夫といった、比較的相性のいい作家の作品以外は、おおむね原作ファンにとって不本意な出来になる。ここで具体的なタイトルを挙げると、それだけで魘されるファンもいると思われるので、ひとまず触れずに置くが。

 しかし、1982年に放映された本篇は、そういう定説が根付いているなかにあって、珍しい成功例と言えるだろう。

 原作は泡坂妻夫初の長篇にして、日本推理作家協会賞を受賞した、好事家のあいだでは極めて評価の高い小説である。手品師というもうひとつの顔を持つ著者がこの作品に仕掛けたトリックは実に大胆で、恐らくいま読んでも決して色褪せてはいない。それだけに、愛着を寄せる読者も多くハードルは高い。いちど松田優作主演で映画化されており、私は未見なのだが、ミステリ読者からの評価が低いのも致し方のないところだろう。

 だが本篇は、時間的にも表現的にも制約の強いテレビ放送という枠のなかで、ほとんど理想的なほどに原作の面白さを再現している。

 導入部分をはじめ、宇内探偵と助手の勝のやり取りは全体にコメディタッチで、そのあたりは如何にもテレビドラマ的だ。構図や音楽の使い方もかなりチープだが、しかし物語の肝要なポイントはすべて押さえているのである。私立探偵小説めいた導入から、隕石の墜落という意表をついた展開、そしてからくりが目白押しの壮絶な事件の本筋まで、テレビドラマらしいチープなアレンジを施しつつも、計略に満ちた物語が繰り広げられる。

 配役もかなり絶妙だ。女だてらに探偵稼業を立派にこなす宇内舞子に古城都はハマっているし、まだ『あぶない刑事』出演以前で少々なよっとした雰囲気を醸した柴田恭兵もやや頼りない助手の人物像に合っている。とりわけ、重要人物のひとり馬割宗児に中尾彬を配したのは実に炯眼だった。極端な手癖の悪さで周囲を不幸に陥れながら、一方でお坊ちゃま的な気さくさを示す、その微妙な人物像を見事に演じきっている。

 実質1時間半程度の尺に詰めこむために、いささか省略が過ぎている印象は否めないが、事件も伏線も盛り沢山で、原作を知らない人が接すれば、終盤の謎解き部分でもたらされる衝撃は極めて大きいはずだ。有り体のテレビドラマならここもお涙頂戴の脚色を施したりして艶消しにすることが多いが、その驚きを削らずに描き出したことは賞賛に値する。

 しかし本篇の最大の見所は、巨大迷路を見事に再現してしまったことだろう。よく見ると、簡素なブロック塀を必要に応じて構成を変えて巨大迷路のように見せかけているだけ、ということは察しがつくが、その熱意と工夫には頭が下がる。そのうえ終盤では更に驚くべきセットも繰り出してきて、単発のテレビドラマと考えると非常に贅沢な作りになっている。

 如何せん、テレビドラマという体裁であったために、観る機会を得るのはなかなかに困難だが、もしその機に恵まれたなら、どうせドラマだろう、という先入観を捨ててご覧いただきたい。謎解き要素の色濃い小説や映画を好む人でも、かなり唸らされる仕上がりとなっている。

関連作品:

獄門島

デッド・サイレンス

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