『龍拳』

龍拳 デジタル・リマスター版 [DVD]

原題:“龍拳 Dragon Fist” / 監督&製作総指揮:ロー・ウェイ / 脚本:ウォン・チュン・ピン / 製作:スー・リーホワ / 撮影監督:チェン・ユン・シュー / 武術指導:ジャッキー・チェン / 音楽:フランキー・チェン / 出演:ジャッキー・チェン、ノラ・ミヤオ、ジェームズ・ティエン、リン・インジュ、カオ・チャン / 配給:東映 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan

1978年香港作品 / 上映時間:1時間30分 / 日本語字幕:?

1982年2月20日日本公開

2010年12月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

大成龍祭2011上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/06/05)



[粗筋]

 武術会で優勝したソウのもとに、“武林至尊”の銘を刻んだ看板が届けられた。ソウの経営する唐山道場は栄誉に沸くが、そこへチュンたち百勝道場の面々が乗り込んでくる。自分に勝たなければこの看板を掲げる資格はない、と言い放つチュンの挑戦にソウは快く乗るが、しかし急所を狙った卑劣な攻撃に倒され、絶命してしまう。

 意気揚々と自らの道場に戻っていったチュンだったが、その祝いの席の背後で悲劇が起きる。実はチュンがソウを狙ったのは、彼の妻がかつてソウと恋仲であり、それを妬んでのことだったが、そのことを察した妻は自らの命を以て夫を断罪した。己の傲慢さを悟ったチュンは、その場で自らを罰する――

 時は過ぎ、3年後。ソウの弟子ホーウェン(ジャッキー・チェン)が、ソウの妻子を連れての放浪の末に、ようやくチュンが構える道場を見つけ出した。師の死後、旅をしながら修行に励み、報復の時に備えていたホーウェンであったが、ようやく辿り着いたチュンの道場と、彼の姿を前に、愕然とする。

 妻の死で己の罪を知ったチュンは、その場で彼の最大の武器であった脚を片方、切り落としていたのだ。自らの驕りを絶つべく、道場の名前も“百忍道場”に改めていた。地元の治安維持にも協力し、民から慕われる存在ともなっていたのである。ホーウェンの怒りの拳は、完全に行き場を失ってしまった。

 だが、そんな彼の武術の腕前に、目をつけたものがいた。百忍道場と対立し、地元で悪辣非道な行いを繰り返すアィ(カオ・チャン)たちである。彼らはホーウェンの存在を利用して、邪魔なチュンたちを排除するべく、一計を講じた――

[感想]

 大成龍祭2011というイベントにて、ジャッキー・チェンの初期作品をほぼ制作順に鑑賞する機会に恵まれたが、その結果、ロー・ウェイという監督がとことん嫌いになってしまった。

 香港映画、カンフー映画の愛好家にとってはブルース・リージャッキー・チェン出演作を撮った人物として知られているが、そのいずれとも対立し袂を分かっているという意味で悪名高い。実際にこの頃の作品を立て続けに鑑賞してみると、確かにこの監督、俳優にとっては理想的とは言い難かったようだ。

 のちに世界的に支持されるふたりのアクション・スターの持ち味、センスをほとんど活かせなかったこともさることながら、話作りが実に拙い。香港映画は全般にいい加減な傾向にあるとは言い条、お馴染みの趣向をお座なりに並べただけ、という作品があるかと思えば、無意味に凝ったシナリオにしてカタルシスを殺してしまう場合もあったりする。

 それ故に、率直に言えば「もうロー・ウェイ監督作は勘弁」という気分で、しかしジャッキー・チェンの足跡を辿りたい一心で鑑賞した本篇だったが、そうした評価からすると本篇は意外なほどいい出来映えだった。

 構成する要素は、香港さんカンフー映画の定番と言っていい。武術大会に、武術家を襲う悲劇と復讐、悪党の陰謀に、カタルシスのある結末。そのモチーフにはロー・ウェイ監督や彼が製作に携わった作品群で登場したものが散見されるが、しかし巧みに構成することできちんと筋の通った物語に仕立てている。どちらかというと支離滅裂になりがちだった他の作品と比較すると、特にまとまりがいい。

 どうやらこの頃のロー・ウェイ監督の製作会社では相当に予算を押さえ込んでいたようで、ロケーションも『成龍拳』『蛇鶴八拳』などで目にした場所が再利用されているが、カメラアングルやアクションの見せ方に工夫があるので、よほど細かなことを記憶しているか、私のように立て続けに鑑賞しているのでない限り気づきにくいだろう。

 あくまでそつなくまとまっている、というだけで、相変わらず見せ方にぎこちなさはつきまとうし、折角仕込んでおいた、ちょっとした“驚き”を実に呆気なく晒してしまい、当事者を必要以上に愚かに見せてしまっている迂闊さなど、やはりどこか間違った印象も受ける。

 相変わらずジャッキーのアクションばかりを採り上げて、その多彩な表情をまったく汲み取っていないことや、『蛇鶴八拳』では輝かんばかりの魅力を放っていたノラ・ミヤオをすっかり埋没させてしまったことなど、相も変わらぬセンスの乏しさが随所に見受けられる。だが、そうした欠点を差し引いても、ロー・ウェイ監督作のなかではいちばん問題が少なく、綺麗にまとまった作品と言っていいと思う。

 ……ただ、この時期には本国でもすっかり「面白くない」という定評がついてしまったようで、本篇前後の作品はほとんどが制作当時は配給会社がつかずお蔵入りとなり、長いこと確執を生じていたジャッキーは間もなくレンタルという形で他社での映画撮影に参加、そうして完成させた『スネーキーモンキー/蛇拳』、そして『ドランクモンキー/酔拳』を経て遂にコメディ路線を完成させてブレイク、完全にロー・ウェイ監督の手から離れてしまった。もしどこかで心根を入れ換えていれば、或いはカンフー映画の名匠として名前を残す可能性も本篇から窺えるだけに、若干ながら同情を禁じ得ない――

関連作品:

ドラゴン 怒りの鉄拳

レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳

少林寺木人拳

成龍拳

蛇鶴八拳

カンニング・モンキー/天中拳

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