『マイティ・ソー バトルロイヤル(字幕・2D)』


『マイティ・ソー バトルロイヤル』MOVIE-NEX版のAmazon.co.jp商品ページ。

原題:“Thor : Ragnarok” / 原作:スタン・リー、ジャック・リーバー、ジャック・カービー / 監督:タイカ・ワイティティ / 脚本:エリック・ピアソン、クレイグ・カイル、クリストファー・L・ヨスト / 製作:ケヴィン・ファイギ / 製作総指揮:ヴィクトリア・アロンソ、ルイス・デスポジート、トーマス・M・ハメル、スタン・リー、ブラッド・ウィンダーバウム / 撮影監督:ハビエル・アギーレサロベ / プロダクション・デザイナー:ダン・ヘンナー、マシュー・スウィフト、ラ・ヴァンサン / 編集:ジョエル・ネグロン、ゼン・ベイカー / 衣装:メイス・C・ルベオ / 視覚効果スーパーヴァイザー:ジャスティン・ブロムリー / キャスティング:サラ・ハリー・フィン / 音楽:マーク・マザーズボー / 出演:クリス・ヘムズワース、トム・ヒドルストン、ケイト・ブランシェット、イドリス・エルバ、ジェフ・ゴールドブラム、テッサ・トンプソン、カール・アーバン、マーク・ラファロ、アンソニー・ホプキンス、ベネディクト・カンバーバッチ、レイチェル・ハウス、浅野忠信、スカーレット・ヨハンソン、ルーク・ヘムズワース、サム・ニール、マット・デイモン / 声の出演:タイカ・ワイティティ、クレイシー・ブラウン / マーヴェル・スタジオ製作 / 配給&映像ソフト発売元:Walt Disney Japan
2017年アメリカ作品 / 上映時間:2時間10分 / 日本語字幕:林完治
2017年11月3日日本公開
2019年4月3日映像ソフト日本最新盤発売 [MOVIE-NEX]
公式サイト : http://marvel-japan.jp/Thor_BR/
WOWOW放送版(録画)にて初見(2021/8/15)


[粗筋]
 アスガルドの雷神・ソー(クリス・ヘムズワース)はアベンジャーズの仲間たちを離れ、《インフィニティ・ストーン》の手懸かりを探して宇宙を旅していたが、その最中に煉獄の巨人スルトに囚われてしまう。スルトは神々の黄昏――《ラグナロク》が迫っている、と告げた。
 スルトはアスガルドの守護神であるオーディン(アンソニー・ホプキンス)に激しい怨みを抱いている。ソーはスルトの炎を鎮火させ、封印するためアスガルドに帰還するが、そこで見たのは、死を偽装していた弟・ロキ(トム・ヒドルストン)だった。オーディンの姿を装って王位に就き、自らを英雄に仕立てていた。
 ロキに案内されて、ミッドガルド――地球にいるはずの父を訪ねるが、そこにオーディンはいない。しかし、ロキの到来を快く思わないドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)の魔術によって、ノルウェイで隠遁生活を送るオーディンのもとに送り届けられる。
 だが、オーディンの命は残り僅かだった。オーディンもまたラグナロクが迫っていることを告げ、その背後にソーたちの姉にあたる死の女神・ヘラ(ケイト・ブランシェット)がいる、と言った。ソーとロキに協力し合うよう忠告してオーディンが滅すると、それを察知したかのように、ヘラがふたりの前に現れた。
 かつて、その凶暴さ故にオーディンによって封印されたヘラはあまりに強すぎた。ソーの持つ最強の武器ムジョルニアがあっさりと粉砕されるのを目の当たりにしたロキは、アスガルドへの道を開いて逃走を図るが、それがヘラにアスガルドへの侵入を許してしまう。
 アスガルドに通じる《虹の橋》から放り出されたソーは、宇宙空間から落ちるガラクタで満ちた惑星サカールに漂着する。《スクラッパーズ》と呼ばれるゴミ収集人に囚われたソーは、サカールを支配するグランドマスター(ジェフ・ゴールドブラム)に売り払われる。
 莫大な富でサカールを支配するグランドマスターは、戦士たちを支配下に収め、闘技場で戦わせていた。こうして、異星の闘技場に放り込まれたソーが対峙した“チャンピオン”は、彼もよく知る人物だった――


『マイティ・ソー バトルロイヤル』予告篇映像より引用。
『マイティ・ソー バトルロイヤル』予告篇映像より引用。


[感想]
 ……評判のいい作品を、遅れて自宅にて鑑賞していると、「なんで映画館で観なかったんだぁ?!」と後悔する。率直に言って本篇は、プロローグの時点で後悔していた。
 監督のタイカ・ワイティティは、紆余曲折の末、唐突に大抜擢された人材に見えたが、恐らく既に知る人ぞ知る才能だったのだろう。本篇に先駆けること3年前の『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』で、吸血鬼という定番のモチーフを新しい切り口から魅力たっぷりに描き出し、本篇の2年後にリリースした『ジョジョ・ラビット』では、どうしても陰鬱に語られがちだったナチスやユダヤ人の虐殺を、少年の純粋な視線を利用することで、メッセージ性を損なうことなく陽性に表現し、賞レースを騒然とさせる高い評価を得た。この2作にも見える、既に確立された素材に新しい光を当て、コミカルに描き出す手管は、本篇プロローグから序盤に至る展開で充分すぎるほど発揮されている。
 この陽性で、ひとを食ったような語り口は物語が深まっていっても一貫している。父の行方を捜すソーと、彼がロキを地上に連れ出したことを快く思わないドクター・ストレンジとのやりとり、囚われとなった惑星サカールでのグランドマスターとの会話など、状況的には緊迫しているにも拘わらず、絶妙な肩透かしとユーモアを挟みこんで、“緩急”という言い方では収まらない笑いを誘ってくる。《マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース》は伝統的に、シリアスかつリアルな設定と描写のなかに大人のユーモアを鏤めるのがお約束のようになっているが、本篇はそれが特に巧い。タイカ・ワイティティ監督が前後する作品で見せた作家性が、神話の世界をMCUに取り込んだ、この《マイティ・ソー》シリーズの特異性と思いのほかよく溶けあっている。
 本篇のストーリーそのものは決して解りやすいものではない。間違いなく、《マイティ・ソー》旧作は最低限観ておかなければならないし、MCU全体でもせめて《アベンジャーズ》を冠したこの時点での2作品くらいは観ておかないと確実に追いつかない。観ていたとしても、前作からの極端な状況の変化、そのうえで一気に展開していく事態についていけなくなる可能性もある。しかし困ったことに、なんならストーリーを理解しないままでも楽しめてしまうくらい、本篇は描写が面白く、魅せられてしまう。マーヴェル作品ならではの、物量と行動半径の広さで魅せるアクション・シーンもむろん単独で見応え充分な仕上がりだが、アクションも本筋も絡まない、キャラクター性を活かしたやり取りが、細かいことを抜きに面白い、というのが本篇の、ひいてはタイカ・ワイティティという監督の強みなのだろう。
 かと言って、ストーリーも手を抜いているわけではないのだ。《マイティ・ソー》としての前作からも、MCUとしてのストーリーラインにおいても、本篇冒頭に至るまでの経緯をだいぶ端折っているきらいはあるし、咄嗟に理解するためには予習すべきだが、最悪、ほかの作品を観なかったとしても成り行きは把握出来る。偉大な存在であった父から指導者の地位を受け継いだ苦悩、奔放すぎる弟との関係性、そして中盤以降登場する“友人”との微妙な距離感、といったものを、ユーモアをふんだんに用いながらも着実に物語へと編み上げていく。そうやって積み上げた描写が、意外性のある打開策とともに昇華されるクライマックスは、爽快なだけでなく様々な感情をもたらす。脇役にまでしっかりドラマ、見せ場を作っていて、間違いなく充実感を得られる仕上がりだ。
 およそそのトーンはヒーローものらしくないが、そもそもソーがキャラクター的にヒーロー像からは逸脱しているのだ。神話の登場人物にしてヒーロー、というMCUでも癖のあるキャラクターを描くには、このタイカ・ワイティティ監督の語り口こそ相応しかったのだろう。それゆえに、タイカ・ワイティティ監督は2022年に予定されているシリーズ第4作『Thor : Love and Thunder』に続投する。MCU全体が、ヒーローごとに監督を固定し作品の作家性を高める方向へとシフトしているので、これほど成功させた作品の監督なのだから当然の判断ではあるが、本篇を観ると、もはやほかの監督はあり得ない、という気さえする。


関連作品:
アイアンマン』/『インクレディブル・ハルク』/『アイアンマン2』/『マイティ・ソー』/『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『アベンジャーズ』/『アイアンマン3』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』/『アントマン』/『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』/『ドクター・ストレンジ』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』/『スパイダーマン:ホームカミング』
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大脱走』/『ゴッドファーザー』/『ゴーストバスターズ(1984)
ベオウルフ/呪われし勇者』/『ヴァルハラ・ライジング』/『タイタンの戦い』/『インモータルズ-神々の戦い-

コメント

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