原題:“Fantastic Voyage” / 監督:リチャード・フライシャー / 脚本:ハリー・クライナー / 脚色:デヴィッド・ダンカン / 原案:オットー・クレメント、ジェイ・ルイス・ビクスビー / 製作:ソウル・デヴィッド / 撮影監督:アーネスト・ラズロ / 美術監督:デイル・ヘネシー、ジャック・マーティン・スミス / 特殊効果:L・B・アボット / 編集:ウィリアム・B・マーフィ / 音楽:レナード・ローゼンマン / 出演:スティーヴン・ボイド、ラクエル・ウェルチ、アーサー・ケネディ、エドモンド・オブライエン、ドナルド・プレザンス、アーサー・オコンネル、ウィリアム・レッドフィールド、ジェームズ・ブローリン、ジャン・デル・ヴァル / 配給&映像ソフト発売元:20世紀フォックス
1966年アメリカ作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:岡枝慎二
1966年9月23日日本公開
2010年10月8日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
第1回午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品
第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series1 赤の50本》上映作品
TOHOシネマズみゆき座にて初見(2011/07/21)
[粗筋]
重要人物を護送する任務から解放されたばかりの情報部員グラント(スティーヴン・ボイド)のもとに、ふたたび政府からの迎えがやって来た。
行き先も教えられぬまま連れこまれたのは、地下に建設された広大な施設。そこで待っていたカーター将軍(エドモンド・オブライエン)は、先刻グラントが空港まで護送した重要人物ベネシュ(ジャン・デル・ヴァル)が道中襲撃に遭い、脳の深部に血腫が出来る重傷を負ったと告げた。カーター将軍はグラントに、その困難な手術を手伝って貰いたい、というのである。
通常の外科手術では不可能な部分の治療に、カーター将軍たちは、あらゆる物体を縮小できる特殊技術を用いることにしたのだ。主治医のマイケルズ医師(ドナルド・プレザンス)、レーザー治療の専門家であるデュヴァル医師(アーサー・ケネディ)とその助手のコーラ(ラクエル・ウェルチ)、それに操縦士である海軍大佐オーウェンズ(ウィリアム・レッドフィールド)と、通信技術を持つグラントとが特別の潜水艇に乗り込み、それを血管内に問題なく侵入できるサイズにまで縮小したのち、頸動脈に注射で打ち込んで、患部を治療する、というのである。
縮小技術は未だ開発途上で、60分を超えると自動的にもとの大きさに戻ってしまう。それまでに“手術”を完了させて、潜水艇ごと摘出されなければ、ベネシュもグラントたちも一巻の終わりとなる。果たしてグラントたちは、無事に治療を済ませ、帰還することは出来るのか――?
[感想]
この作品、映画そのものは観たことはなくても、どういうアイディアが扱われているのかは知っている、という人は相当に多いはずである。そして、既に数十年前の作品であるが故に、アイディアなど古びてしまっているから、観る価値はないだろう、と決めこんでしまっている人も少なくないに違いない。かく言う私も、その程度の認識でいた。
だが、侮ってはいけない。
確かに、本篇のSF的な描写はもうだいぶ古びてしまっている。物質を小さくした場合の影響についての考証がかなり甘いことは否定できないし、その部分以外はオーソドックス窮まる冒険ものに留まっているが故に、実際に観ても「やっぱり昔の作品だ」程度の認識で終わってしまう人も多いに違いない。
しかしこの作品の真価は、人間を小さくして人体に送りこむ、という奇想天外なアイディアだけにあるのではない。そうして潜りこんだ人体の様子、病気の内容など、この時点での医学知識をきちんと盛り込んだ描写には、リアリティ――とはちょっと違うが、圧倒されるような説得力がある。脳の深層部を治療する難しさ、その繊細かつ緊急を要する様が、同時にこの作品の“冒険映画”としての面白さを際立たせている。
そして何より本篇の特異な価値を決定づけているのは、ユニークな美術だ。誰も肉眼で確かめたことのない体内の様子を、だからこそある意味自由に構築したその映像には、なまじCGが発達した現代では生み出せない独特の味わいがある。本篇の美術にはサルバドール・ダリが関わっていた、という噂があったそうで、実際にはデマなのだが、そんなふうに囁かれるのも頷けるほどにこの体内世界は独創的で、眩暈を誘うような魅力がある。
この魅力的な設定と美術のうえで繰り広げられる冒険は、だがその枠組だけを眺めるとストレート、はっきり言えば凡庸ですらある。ただ、土台がしっかりしている上に、時間との格闘、疑惑を齎す伏線など、堅実に組み立てることで、見事に観る者を惹きつける。
実のところ、人間を小さくして人体の中に侵入させる、というアイディアは本篇以前にも存在したようだし、その後も多く生み出されている。しかし、ある部分は虚構と意識して割り切り、医学知識などのディテールを緻密に織りこむことで、単純明快な冒険譚をスリリングに魅せる、という方法論を提言したこと、そしてレトロな雰囲気と独創性に満ちた美術という2点だけでも、本篇は際立った光芒を放ち続けるはずだ。繰り返すが、古典のSFだからと、侮ってはいけない。
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コメント
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