原題:“The Funeral” / 監督:アベル・フェラーラ / 脚本:ニコラス・セント・ジョン / 製作:メアリー・ケイン / 製作総指揮:マイケル・チェンバース、パトリック・パンツァレッラ / 撮影監督:ケン・ケルシュ / 美術:チャールズ・ラゴーラ / 編集:ビル・パンコウ、メイン・ロー / 衣装:メリンダ・エシェルマン / 音楽:ジョー・デリア / 出演:クリストファー・ウォーケン、クリス・ペン、ヴィンセント・ギャロ、ベニチオ・デル・トロ、イザベラ・ロッセリーニ、アナベラ・シオラ、アンバー・スミス、フィル・ニールソン、グレッチェン・モル / 配給:GAGA×HUMAX / 映像ソフト発売元:GAGA Comunications
1996年アメリカ作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:栗原とみ子
1997年5月24日日本公開
2007年6月1日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2011/09/24)
[粗筋]
ジョニー(ヴィンセント・ギャロ)が殺された。
ギャング一家に生まれた彼は最近、共産主義に傾倒し、過激な労働者運動に携わったり、何かと兄弟や家族を悩ませることが多かった。だがそれでも、家族を手にかけた者を許すわけにはいかない、と長兄のレイ(クリストファー・ウォーケン)は復讐を決意し、葬儀の準備と並行して犯人捜しに躍起になる。
一方で、次男のチェズ(クリス・ペン)は苦悩していた。3兄弟の中で唯一、真っ当な仕事をしているチェズだが、彼の経営するバーには日頃からジョニーたちが出入りし、取引の場にも用いられている。常に争いごとと近しく、そしてチェズ自身、ギャングの一族故の荒々しい気性を持て余していた。厄介者であっても愛していた弟を殺害され、チェズは怒りのやり場を失い、街を彷徨う。
ジョニーは労働者運動の場でも厄介者扱いされていたが、誰よりも彼を憎んでいるのは、ガスパー(ベニチオ・デル・トロ)と思われた。レイたち一家とはかねてから対立しつつも、仕事の上でしばしば折り合いをつけていたが、最近はジョニーがガスパーの店を荒らし、更にガスパーの妻ブリジット(アンバー・スミス)を公然と寝取っている。レイは仲間たちと共に、ガスパーを捕らえに向かった……
[感想]
『ゴッドファーザー』よりも設定的には少し前、だが実質同時代のギャング一家を扱ったドラマであるが、両者を並べると、監督の視線が違うとこうも別物になるのか、という驚きがある。
あちらは映画そのものが一種、歴史をそのまま織りこんだような重厚さがあるが、本篇は基本的に群像劇として描かれているにも拘わらず、広がりがない。ただ、勘違いはしないでいただきたいが、決して否定的な意味合いではない。マフィアという組織のなかでの立ち居振る舞いを終始意識した『ゴッドファーザー』に対し、本篇は悪の世界に身を置きつつも、本質的に弱く、思い込みで動きがちな愚かな人間である彼らの姿を、ある意味では過大評価せずに描いている。それは逆に、『ゴッドファーザー』のように巨大な責任を負った人物を中心に据えていてはなかなか捉えられない実像であり、また別の価値を備えた表現である。
本篇の登場人物の“卑小さ”には異様な生々しさがある。誰よりもギャングらしいが、しかしそれ故に理性よりも打算で振る舞わねばならない長兄レイ。店を営み、暴力からは一線を置いているはずが、血筋故の狂暴さに懊悩する次兄チェズ。労働者運動に従事しているが、本質的には思想のない悪党であり、思慮の乏しい振る舞いで周囲を振り回す三男ジョニー。この3兄弟を軸に、しばしば彼らの妻や女の視点を絡めて、悪徳の世界に身を置く者が、ひとりの死を契機に、彼に対する心情と併せて己の境遇について思いを馳せる。
冒頭の愁嘆場の描写から、もっと本格的な犯人捜しを行うかのような印象を受けそうだが、同じアベル・フェラーラ監督の『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』がそうであったように、謎解きの興趣はない。きちんと犯人は見つかるが、それは過程で描かれるレイたちの行動とは別のところから現れてくる。そして、謎が解かれるカタルシスではなく、彼らの業の深さを浮き彫りにするために、犯人の存在は用いられる。
『バッド・ルーテナント』もそうだったが、この作品の顛末から色濃く滲むのは“虚しさ”だ。並の家族と同様に平穏や幸せを望みながらも、しがらみや自尊心、或いは生来の気質が故に決して手に入れられない。幼くして、ギャングとしての“掟”をその身に刻まれてしまったレイの姿もさることながら、誰よりも象徴的なのは次男チェズの振る舞いだ。弟の遺骸を前に取り乱して粗暴な口を聞くかと思えば、家族の前では常識人として行動しようとする。そのくせ、娼婦に手を出し、相手が幼いと知ると家に帰るよう命令し、従わないと一転して暴力的に扱う。このあまりに不安定な言動が、しかし本人の意志では抗いようもないことが感じられ、その苦悩や嘆きがビリビリと伝わってくる。クリス・ペンは本篇の演技で幾つかの賞に輝いているが、それもまた宜なるかな、である(本篇の撮影から10年ほどのちに40歳の若さで急逝していることが惜しまれる)。
『ゴッドファーザー』ほどの大きさはなく、銃撃戦のインパクトや暴力描写の重みもない。カタルシスを求めているわけでもない締め括りは、どうしても受け手を選ぶに違いない。しかし、暴力の間近に生きる人々の姿は、観終わったあともいつまでも胸に残って離れないだろう。暴力で他人を圧倒する人々の本質的な“弱さ”を、暗いトーンながら落ち着いて美しい映像で描き出した、いちど観て忘れがたい佳品である。
関連作品:
『ゴッドファーザー』
コメント
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