原題:“警察故事3 超級警察” / 英題:“Police Story 3” / 監督:スタンリー・トン / 脚本:エドワード・タン、フィレー・マー、リー・ウェイイー / 製作:ウィリー・チェン、エドワード・タン / 製作総指揮:レナード・ホー、ジャッキー・チェン / 撮影監督:アンディ・ラム / 音楽:ジョナサン・リー / 出演:ジャッキー・チェン、ミシェル・ヨー、マギー・チャン、トン・ピョウ、ユン・ワー、ケネス・ツァン / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Twin
1992年香港作品 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:?
1992年12月12日日本公開
2010年12月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon|Blu-ray Disc Box Set:amazon]
大成龍祭2011上映作品
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/10/30) ※『1911』記者会見編集版上映ほかイベントつき
[粗筋]
中国の公安当局は、香港をはじめアジア各国に跨って版図を拡大する犯罪組織のボスを捕えるため、1ヶ月に及ぶ潜入捜査を計画する。そのために中国公安は香港国際警察に対し、“超人刑事”の派遣を要請した。上層部の不毛な責任の押し付け合いの結果、選ばれたのはお馴染み、チェン刑事(ジャッキー・チェン)である。
早速中国へと送りこまれたチェン刑事は、特殊操作の専門家であるヤン(ミシェル・ヨー)の指導のもと、金で動く犯罪者・ラムという役柄を与えられて、刑務所の作業場へと送りこまれる。折しも、犯罪組織の幹部であるパンサー(ユン・ワー)が脱走計画を実行に移そうとしていたときであり、チェン刑事は協力者のふりをして接触、本物の共犯が捕らえられるなか、見事にパンサーの脱走を手助けして、彼の信頼を得た。
チェン刑事=ラムはパンサーに同行し、彼らのボスであるチャイバ(ケネス・ツァン)のもとに赴こうとするが、その途上に“ラム”の故郷として伝えてあった土地・佛山があったために、パンサーは立ち寄ることを提案する。動揺しながらも現地でどうにかこの窮地を乗り切ろうとしたチェン刑事だったが、佛山には公安当局が張っており、ラムの家族を装った人々が潜入していた。しかも、ラムの妹として現れたのは他ならぬヤンである。同様に、何故か母親役を務めていたチェン刑事の上司(トン・ピョウ)は巧みな口車で、パンサーたちにヤンも同行することを受け入れさせてしまう。
そうしていよいよ、敵の中枢へと潜りこんだチェン刑事とヤンであったが、チャイバたちの組織は、ふたりに気を許した証のように、彼らの前で、聞きしに勝る凶悪な姿を見せるのだった……
[感想]
『プロジェクト・イーグル』の感想で記したように、この頃にジャッキー・チェン作品には、なまじ道を極めてしまったがゆえの限界が見え隠れしていた。自分なりのルールを守りながらも、より新しい興奮、笑い、面白さを、とひたすら追求していった結果、突飛すぎる部分が目立つようになった。『プロジェクト・イーグル』ではまだ辛うじてバランスを保っていたが、恐らく同じ路線を辿り続ければ、いずれ観客の関心も失っていったのではないか、と思える。
だが、そもそもロー・ウェイ監督によって再デビューを飾った時点から、ブルース・リーの二番煎じでは通用しないことを悟り、独立以降も紆余曲折を重ねてキャリアを高めていったジャッキー・チェンという映画人が、易々とその罠に陥るはずもなかった。続いて発表した本篇で早くも、次のステップに踏み出したことを窺わせる。
とは言い条、映画としての個々の要素は、概ねこれまでのジャッキー映画の基本を踏襲している。ヒットした『ポリス・ストーリー/香港国際警察』以降定番になっていた感のある、狭い空間でのすれ違いの繰り返しを中心としたドタバタ喜劇のシーンこそ今回は見当たらないが、観ているだけで命の危険を感じるスタントの数々、重量感のあるアクション、そして随所でコミカルな動きを組み込む、といった、従来のジャッキー作品の愉しさは健在だ。
本篇の変化は端的に言って、人気を不動のものにして以来、基本的に自らが兼任していた監督というポジションを第三者に委ねた、という一点に絞られる。だが、これこそが作品の手触りの大きな変化に繋がっているのだ。
依然として香港映画らしい、大仰で荒唐無稽なストーリー展開の傾向はあるが、しかしジャッキーが出演しながら監督する、というスタイルではなく、第三者にメガフォンを委ねたお陰だろう、だいぶ整頓されて、どうしようもないほどの無茶、雑な連携は見られない。ヤン捜査官が合流するに至る過程は普通に考えてコントロールが困難で、計画としては危険極まりないが、臨機応変に望む潜入捜査として決して不自然ではない。その後の予測が難しい筋書きにしても、本筋から浮いたアクションなどがないので、テンポがいい。このあとも繰り返しコンビを組むことになるスタンリー・トン監督との相性が良かった、ということもあるだろうが、以降ほとんどジャッキー自らメガフォンを取ることがなくなったことを思うと、やはりアクションや演技に集中したことが、彼にとってもいい効果を齎したのではなかろうか。
そしてこの作品で最も注目すべきは、ジャッキーと同等ぐらいの比重で、ミシェル・ヨー(当時はミシェル・キング)が素晴らしいアクションを披露していることだろう。これまでもサモ・ハン&ユン・ピョウとの競演作では彼らに見せ場を譲ることはあったが、自身の主演作、しかも大ヒット・シリーズの続篇において、他の人物をここまで大々的にアピールしたことはなかったのではないか(だいぶジャッキー作品を鑑賞したが、まだ抜けがあるので断言はしない)。ミシェル・ヨーもその期待に応え、『ポリス・ストーリー』を彷彿とさせる、ワゴン車にぶら下がっての追跡劇や、更にはバイクで列車の上に飛び乗る大技まで披露している。アクションの流れとはいえジャッキーに胸を触られる(※服の上です)なんて場面まであって、その文字通り身体を張った活躍ぶりはジャッキー目当てで鑑賞しても魅せられる。のちにこのヤン捜査官を主人公としたスピンオフ作品『プロジェクトS』が製作されているが、それも宜なるかな、だ。
もうひとつ、これまでになく悪役が悪役らしい、という点も興味深い。従来はどれほど悪辣非道を重ねている連中であっても、どこか愛嬌があったものだが、本篇の悪党たちは本当に許し難い行動に及ぶ。だからこそ、ジャッキーたちの容赦ない追撃で仕留めていく様に爽快感があり、クライマックスのスピード感が増しているのだ。
それまでのジャッキー・チェンらしさを踏まえながらも、新しい息吹を感じさせる作品である。想像であるが、本篇で自分以外の監督の下で己を活かす方法を発見したからこそ、『新ポリス・ストーリー』のような新しい切り口に挑むことも出来たのだろうし、もういちどハリウッドに進出する覚悟も固まったのではなかろうか。そう考えると、ジャッキー・チェンにまたしても訪れた、重要なターニング・ポイントなのかも知れない。
関連作品:
『七福星』
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