原題:“Real Steel” / 原作:リチャード・マシスン / 監督:ショーン・レヴィ / 原案:ダン・ギルロイ、ジェレミー・レヴェン / 脚本:ジョン・ゲイティンズ / 製作:ドン・マーフィ、スーザン・モントフォード / 製作総指揮:ジャック・ラプケ、ロバート・ゼメキス、スティーヴ・スターキー、スティーヴン・スピルバーグ、ジョシュ・マクラグレン、メアリー・マクラグレン / 撮影監督:マウロ・フィオーレ,ASC / プロダクション・デザイナー:トム・マイヤー / 編集:ディーン・ジマーマン / 衣装:マーリーン・スチュワート / ボクシング・コンサルタント:シュガー・レイ・レナード / 音楽:ダニー・エルフマン / 出演:ヒュー・ジャックマン、エヴァンジェリン・リリー、ダコタ・ゴヨ、アンソニー・マッキー、ケヴィン・デュランド、カール・ユーン、オルガ・フォンダ、ホープ・デイヴィス、ジェームズ・レブホーン / 配給:WALT DISNEY STUDIOS MOTION PICTURES. JAPAN
2011年アメリカ作品 / 上映時間:2時間8分 / 日本語字幕:松浦美奈
2011年12月9日日本公開
公式サイト : http://real-steel.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2011/12/09)
[粗筋]
2020年、格闘技の主役は、ロボットに取って代わられていた。より強烈かつ残酷なスリルに対する観客の渇望が、人間をリングから引きずり下ろしたのである。
かつてプロボクサーであったチャーリー・ケントン(ヒュー・ジャックマン)も、いまやロボットを引き連れ、地方のイベントでファイトを披露する興行師に成り果てていた。だがなかなか好機を掴めず、借金ばかりが嵩んで、日々の生活にも汲々としている。かつて拳を交えたことのあるリッキー(ケヴィン・デュランド)の牧場で、重量級の牛と戦わせた結果、手持ちのロボットは大破、とうとう商売道具さえ失ってしまった。
賭け金の支払いから逃げようとしていたチャーリーに、だが思わぬ報せが届いた。10年も前に別れた恋人が先ごろ亡くなり、チャーリーとのあいだに出来た子供マックス(ダコタ・ゴヨ)の親権を決定する裁判に出るように命じられたのである。元恋人の姉デブラ・バーンズ(ホープ・デイヴィス)がどうしても親権を得たがっているのを知ったチャーリーは、デブラの夫マーヴィン(ジェームズ・レブホーン)に取引を持ちかける。親権を譲る代わりに、10万ドルを工面して欲しい、と。
折しもバーンズ夫妻はヨーロッパ旅行に出かける計画が持ち上がっており、チャーリーは夏休みのあいだマックスを預かることも条件に加えて、まず10万ドルの半分を手に入れた。
子供になどまったく関心のなかったチャーリーは、マックスをかつて世話になったボクシング・ジムを未だ守り続けるヘイリー(エヴァンジェリン・リリー)に託し、自分は手に入れた5万ドルで購入した新しいロボットで巡業に戻るつもりだった。だが、ロボット格闘技に詳しいうえ、自分が実質的に“売り飛ばされた”ことを悟っていたマックスは、半ば脅迫的にチャーリーについてくる。
こうして始まった、それまでろくに交流のなかった親子の旅は、だが意外な形で、チャーリーに好機を齎すこととなった……
[感想]
こう言っては何だが、大変ベタな話である。生活に窮した男に突然託された我が子、当初はまともに構う気さえなかったが、やむなく連れ歩いているあいだに、男にとっての転機をもたらす。そうしてやがて、我が子との絆を深め、父親としての自覚も生まれてくる……ロボットを用いた格闘技、という部分を除けば、既視感を覚えるプロットだ。
だが、言い換えればそれは、とても受け入れられやすい筋立てである。安易なモチーフ、語り口や表現をすれば一瞬で陳腐に陥るが、背景や脇筋にも気を配り、表現に芯が通っていれば、確かな感動を呼ぶことが出来る。
本篇はまさにその成功例だ。骨格はオーソドックス極まりないが、だからこその強みを遺憾なく発揮している。
恐らく、ロボット格闘技のアイディア自体は、原案として掲げられたリチャード・マシスンの小説を踏襲しているのだろう、発展した背景や変遷に説得力がある。そこで作られた約束事のうえで、きちんとキャラクターの立った登場人物たちが実に快く動いている。
ロボット格闘技に自らの活躍の場を奪われた元プロボクサーで借金まみれ、逃げまわるかのように旅を繰り返している父親、というヒュー・ジャックマン演じる主人公の、その駄目っぷり故に人間味の溢れる振る舞いもいいが、やはり観ていて非常に愉しいのは彼のひとり息子である。実質的に自分を売り飛ばしたことを察しながらも、敢えて父親についていくしたたかさ。下手をすると父親以上に世渡りの才能があり、やたらポジティヴで積極的な息子に父親が振り回される姿が実に痛快だ。そして、そういう息子と接しているうちに、駄目男なりに父親の自覚が芽生えていく様子が、クライマックスでのドラマに結びついていく。
彼がかつて世話になったジムを父親から引き継ぎ、練習生がいなくなった今も守り抜いているオーナーの娘、というヒロインの存在も効いている。息子に対しては、本当に格好良かったときの父親の姿を教える役割を果たし、父親にとっては彼の心情の変化を象徴する存在ともなる。
ただその反面、この3人以外のキャラクターがあらかた添え物になってしまって掘り下げられていないのが残念でもある。物語最初のエピソードで父親に絡んだもとライヴァルはあとあとまで顔を見せるが、最後まで奥行きのない悪人だし、クライマックスで親子の対戦相手となるロボットの関係者も、雰囲気を醸すだけでかなり軽薄な描き方だ。しかしそれでも、終盤の言動でクライマックスの爽快感に彩りを添えているのは巧い。
そして何よりも、ロボット格闘技の設定、描き方の匙加減が絶妙なのだ。格闘技をさせる上で、やたら込み入ったルールを設定すると、観客が最後まで把握できずカタルシスを味わえずじまいとなるが、かと言って何でもアリ、では不完全燃焼に陥りかねない。本篇は単純明快、リング上で相手をダウンさせ、10カウントを奪うか行動不能に陥らせれば勝利、プロだと細かい規定がありそうだが、そこには意識して触れないようにしている。勝ち負けの基準が明白ゆえ、観ていて燃える。
終盤はまるで『ロッキー』を彷彿とさせる試合展開だが、それが気にならないのは、並行して描かれる、闘志を失っていた男の復活と、親子の絆がはっきりと結ばれたことを証明する姿があまりに鮮烈だからだ。特に試合終盤の繊細な表情のやり取りには、胸の震える想いさえする。
ベタで陳腐極まりないストーリー展開でも、背景や人物描写など、組み立てがしっかりしていれば観客に感銘を与えることは出来る、と本篇は明快に証明している。その解りやすさは、娯楽映画の王道そのものだ。独創的なプロット、印象に残るアイディアを備えた斬新な作品が生まれなけれは、いい変化は訪れないが、こういう親しみやすさと強度を兼ね備えた作品もまた、映画という娯楽が愛され続けるために必要だろう。いい映画である。
関連作品:
『ピンクパンサー』
『ピンクパンサー2』
『プレステージ』
『マイティ・ソー』
『ハート・ロッカー』
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