のらくら クレジット
原題:“The Idle Class” / 監督、脚本、編集、音楽&製作:チャールズ・チャップリン / 撮影監督:ロリー・トザロー / 美術:チャールズ・D・ホール / 出演:チャールズ・チャップリン、エドナ・パーヴィアンス、マック・スウェイン、ヘンリー・バーグマン、アル・アーネスト・ガルシア / 映像ソフト発売元:紀伊國屋書店
1921年アメリカ作品 / 上映時間:20分 / 日本語字幕:?
1921年12月日本公開
2011年2月26日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
モダン・タイムス クレジット
原題:“Modern Times” / 監督、脚本、音楽&製作:チャールズ・チャップリン / 撮影監督:ロリー・トザロー / 美術:チャールズ・D・ホール / 編集:チャールズ・チャップリン、ウィラード・ニコ / キャスティング:アル・アーネスト・ガルシア / 出演:チャールズ・チャップリン、ポーレット・ゴダード、チェスター・コンクリン、ヘンリー・バーグマン / 映像ソフト発売元:紀伊國屋書店
1936年アメリカ作品 / 上映時間:1時間27分 / 日本語字幕:?
1938年2月日本公開
2011年4月28日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
有楽町スバル座にて初見(2012/01/07) ※“オールタイム ベストムービー イン スバル座 メモリアル65TH”の1本として上映
[粗筋]
のらくら
ゴルフ場に現れた大勢の人々。そのなかに、流れ者(チャールズ・チャップリン)も混ざっていた。彼はあの手この手でコースに出ようとするが、その都度誰かの邪魔をしてしまう。
一方、ある夫(チャールズ・チャップリン二役)は困り果てていた。滞在先のホテルで起床してみると、妻(エドナ・パーヴィアンス)の“10時に着くので迎えに来てください”という置き手紙があったが、既に10時を過ぎている。慌ててロビーに降りるものの、入れ違いとなってしまう。以前から酒の飲み過ぎで悩まされていた妻は激昂、別の部屋を取ってしまった……
モダン・タイムス
その労働者(チャールズ・チャップリン)は、ある大工場で働いていた。だが、あまりに壮絶なノルマに頭がおかしくなり、騒動を起こして病院送りにされてしまう。どうにか退院したものの、ひょんなことからデモの煽動者と誤解され、今度は拘置所に入れられてしまった。
だが、仲間を解放するために訪れた暴漢達を撃退したことで、拘置所内では厚く遇された。間もなく恩赦が決まるものの、新しい就職先で早くも問題を起こした労働者は、居心地のいい拘置所を懐かしみ、軽い罪を犯してふたたび投獄されようと目論む。
そのとき、労働者の目の前でひとりの浮浪少女(ポーレッド・ゴダード)が万引を働いた。捕まりそうになった彼女を、労働者は「盗んだのは自分だ」と告げて庇い、自らが投獄される。けっきょく少女もいちどは捕まったものの、恩義を感じた少女は労働者と行動を共にし、一緒に逃亡を図った。
まともな暮らしをするためには住居が必要だ、と実感した労働者は、改めて仕事に就くことを決めた。折良く、工場の操業が再開し新規の雇用を始めたことを知った労働者は、とある技師の助手として働きはじめたのだが……
[感想]
上に記したとおり、有楽町スバル座開館65周年を記念した“オールタイム ベストムービー イン スバル座 メモリアル65TH”の一貫として2本立てで上映されていたものを鑑賞した。この前には短篇『犬の生活』と長篇『街の灯』を併映したものもかけており、そちらも鑑賞している。
どちらかと言えばラヴ・ロマンス的な要素の強かった『犬の生活』『街の灯』という組み合わせに対し、こちらの2篇は労働階級の悲哀を描いているような感がある――と言っても『のらくら』のほうは、流れ者はひたすらゴルフに興じているだけだし、夫婦のほうはどんな収入源に因っているのかも解らないブルジョワで、こういう見方が合っているのかも不明だが。
ただ、『のらくら』に登場する流れ者の泰然とした振る舞いと、それに対する周囲の反応は、こういう人々への偏見を皮肉りつつ、逞しさを表現しているとも捉えられる。その姿勢は、『モダン・タイムス』の、誤解されようと苦境に追い込まれようと終始へこたれない労働者と少女とのコンビに通ずるものがあるのは確かだ。
『モダン・タイムス』はその名を映画史に刻む伝説的な作品だが、表現は全体的に自由奔放で、かなり突飛なものが多い。近未来SFじみた工場の描写、歯車に呑みこまれてもレバーを操作すればあっさり戻ってしまう機構、主人公の極端な思考と、それに合わせるかのように自在に変化する状況……リアリティや伏線の緻密さを欲していると、訝りたくなる部分が多い。
だが、観ているあいだはほとんど不自然さを意識することはない。突飛ではあるが、その繋ぎ方が絶妙だったり、シチュエーションの膨らませ方が巧妙で、魅せられてしまう。道を走るトラックの、突起物につけた旗が予想外のトラブルを招いたり、酒場での大混雑と労働者の不手際が奇妙な見せ場を生み出したり、と発想の広げ方が実に見事だ。似たようなことは未だに描かれているが、この呼吸の良さはいま観ても完璧に近い。
基本的に観客を愉しませ笑いを誘うことに力を注いでいるが、随所に諷刺的な要素が散見されるのも、既に繰り返し指摘されていることながら見逃せないポイントだろう。流れ作業の中でまさに歯車同様に酷使され消耗されてしまう労働者の姿を描いた冒頭、当事者不在のストライキ運動、酒場での人間関係、等々。そこから物語を紡ぎ出すことをしていないので、正直なところ個人的には観ていてだれてしまったのだが、組み込まれた諷刺が未だに通用する先見性には唸らされた。
『モダン・タイムス』という作品のユニークなポイントは、音声の使い方だろう。この頃にはほとんどトーキーに移行し、名の通った映画監督でサイレントを作っていたのはチャップリンだけだった、という話があるが、しかし本篇はそもそも作られた時点で音声は入っている。但し、ごくごく最小限で、多くの人物は口パク、字幕も入らない。肉声を聴かせるのは、冒頭の工場のパートで、従業員に指示を出す社長と、最後の最後で、チャップリンが謎の言語で歌う曲ぐらいなのだ。サイレントに別れを告げるにあたって、充分に機会を量っていたと思われるチャップリンがあのタイミングで声を発したのは当然と思われるが、冒頭の社長など、脇役をピンポイントで喋らせているのが興味深い。生憎と、どこで誰が喋っていたのか、きっちりと記憶していないので解釈を振り回すことが出来ないのだが、そのあたりに注目して読み解くのも一興だろう。
しかし、個人的に最も興味深く感じたのは、たまたまこの直前に鑑賞した『天井棧敷の人々』との奇妙な共鳴だ。白黒とはいえあちらは完全なるトーキー、そして戯曲のような重厚さを備えた作品で、ある意味では対照的なのに、相通じる部分が幾つかある。『天井棧敷の人々』で最も重要な人物であるバチストが無言劇の名手であり、初めて披露する芸の動きが本篇のクライマックスで労働者が見せる動きと似通っている。この部分を起点として考察していくと、まるで『天井棧敷の人々』が本篇の変奏のように映るのだ。
こういうことに気づいたのは、たまたま立て続けに鑑賞してしまったから、に過ぎないかも知れないが、その偶然から想像を膨らませるのも面白い――そして、そういう解釈の自由を許すだけの度量をも備えている本篇は、やはり簡単には滅びることのない傑作なのだろう。
――話の展開の都合であまり触れられなかったが、『のらくら』の面白さは“二役の見せ方”にあるように思う。最初は“何故か二役”をしているように映るが、それが自然と合流するくだりの面白さは、下手をすると『モダン・タイムス』よりも企みに満ちて洗練されている。
また、やや人を食ったような締め括りも、上級階級の“上から目線”に悔し紛れの一撃を食らわせているようで、ほんのりと苦みのある痛快さがある。こういう後味を齎す作品は珍しく、こちらも間違いなく秀作であると思う。
関連作品:
『街の灯』
『ライムライト』
『天井棧敷の人々』
コメント