原題:“風・雨・雙流星” / 監督&製作総指揮:ロー・ウェイ / 脚本:古龍 / 製作:スー・リーホワ / 撮影監督:陳清渠、陳鐘源 / 編集:郭延鴻 / 武術指導:陳信一 / 音楽:周福良 / 出演:ジミー・ウォング、ジャッキー・チェン、ユ・リンラン、ナン・ユーリ、マー・ケイ、チェン・ウェイロー、トン・リン / 映像ソフト発売元:TWIN
1976年香港作品 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:?
日本劇場未公開
2010年12月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
大成龍祭2011上映作品
DVD Videoにて初見(2012/02/02)
[粗筋]
伝説の武器“奪命流星”を携え、武術の実力でも世に名を轟かせる梅星河(ジミー・ウォング)。そんな彼と実力で肩を並べると言われる大物・花無病(ジャッキー・チェン)が、突如として梅を自らの居城に呼び寄せた。
花は現在、重い病で伏せっている。その原因は、妻である花雨によって毒を盛られているからなのだという。解毒剤は妻が持っているが、本人が武芸の達人であるうえに、現在彼女は凄腕の四天王を抱えて自らを守らせており、弱った無病では迂闊に手出しできない。そこで無病は、梅を利用することを思いついたのだ。
実は梅は、朝廷の密偵として、奪われた宝物を捜す命を帯びていた。彼に使命を託した七太爺は、無病が犯人である可能性が高いと言い、従うふりをして探るように命じる……
[感想]
いちど俳優の道を退いていたジャッキー・チェンがロー・ウェイ監督によってふたたび香港に招かれ、同監督のもとで出演した2作目であり、こののち2本発表される、武侠小説家・古龍の脚本による武侠映画1作目である。
先に続く2作品を観て、出来映えのほどは察しがついていたので、そもそもあまり期待せず、ジャッキー作品を語るための義務として鑑賞したのだが――正直、想像よりもひどかった。間違いなく、後続の武侠映画『成龍拳』『飛龍神拳』に劣る。
とにかく、話の焦点が最初から最後までブレっぱなしなのだ。冒頭は、筋には直接関係のない盗賊たちの駆け引きが描かれ、それからやっと主人公である梅星河の姿が描かれる。岩の上で横たわっているだけで崇められているが、どうして崇められているのかはけっきょく最後まで解らない。使者によってライヴァルである花無病のもとに導かれてようやく本筋に入っていくが、病で弱っている、と言ったあとすぐに梅と互角の戦いを示したり、とあまりに表現に一貫性がなく、終始戸惑うしかない。
やたらと話がひっくり返されるが、そもそもひっくり返す事実をさほど丁寧に描いているので驚きも衝撃もない。これはのちのジャッキー・チェン出演、古龍脚本、ロー・ウェイ監督による武侠映画でも見られる重大な欠点だが、特に雑なのが最初である本篇なのは疑いない。そのうえ、なかなか実像の窺えない梅の武器“奪命流星”の正体がアレなのだから、呆れるばかりだ。最初にこんなのを見せられたらみんな期待しなくなるのも当然で、ロー・ウェイのもとで製作されたジャッキー映画が次第にお蔵入り続きになっていったのも納得がいく。
ただ、ある程度ダメさを察したうえでなら、意外と楽しみ方があるのも事実だ。どのくらい明後日に話が転がっていくのか、その粗雑さ自体を愉しむ嫌味な見方もあるが、シチュエーション優先で描かれたと思しい状況に妙な面白さがあるのだ。裏打ちは乏しいものの、冒頭で登場した盗賊たちの使い方や梅の役割との絡め方は工夫として認められるし、個人的には梅が中盤、牢に囚われた際の展開に笑ってしまった。なんでわざわざ自分から出向く。そして何故そのためだけに飾る。本当に無意味だ。
いまの目で見ると決して美男ではなく、演技や擬斗が達者とも感じないジミー・ウォングだが、一時代を築いただけあって、独特の華があるし、振る舞いにオーラが漂っているのはよく解る――というより、話も演出もお粗末であるだけに、彼の存在感だけが唯一見せどころになっている、とさえ言える。ジャッキー・チェン目当てで鑑賞したが、まだ再デビュー間もない彼にオーラは乏しく、優れた身体能力を披露する場面もごく僅かなので、あらゆる面でわりを食っている。
ジミー・ウォングはこののち、ロー・ウェイ監督のもとから離れようとして深刻なトラブルに陥ったジャッキー・チェンを救っている。そんな因縁のあるふたりの初共演を鑑賞出来る、という意味ではファン必見だが、ジャッキーにそこまで強い関心のない人は観ないほうが無難だろう。よほど歪な作品に魅力を感じるような人でもない限りお薦めは出来ない。
関連作品:
『成龍拳』
『飛龍神拳』
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