『ディア・ハンター』

ディア・ハンター [Blu-ray]

原題:“The Deer Hunter” / 監督:マイケル・チミノ / 原案:マイケル・チミノデリック・ウォッシュバーン、ルイス・ガーフィンクル、クイン・K・レデカー / 脚本:デリック・ウォッシュバーン / 製作:バリー・スパイキングス、マイケル・ディリー、マイケル・チミノ、ジョン・リヴェラル / 撮影監督:ヴィルモス・ジグモンド / プロダクション・デザイナー:ロン・ホッブス / 編集:ピーター・ツィンナー / 音楽:スタンリー・マイヤーズ / 出演:ロバート・デ・ニーロクリストファー・ウォーケンジョン・サヴェージジョン・カザールメリル・ストリープジョージ・ズンザ、チャック・アスペグレン、ピエール・セグイ、シャーリー・ストーラー、ルターニャ・アルダ / 配給:ユナイト映画 / 映像ソフト発売元:GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT

1978年アメリカ作品 / 上映時間:3時間4分 / 日本語字幕:高瀬鎮夫 / PG12

1979年3月17日日本公開

2012年4月13日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2012/02/20)



[粗筋]

 ペンシルヴェニア州の片田舎で、結婚式が催された。結ばれるのはスティーヴン(ジョン・サヴェージ)とアンジェラ(ルターニャ・アルダ)――スティーヴンの母は、よそ者との結婚である上に、間もなくさほど親しくもない嫁と同居せざるを得なくなるため、不平たらたらだった。

 挙式のあと、休日を挟んで、スティーヴンはヴェトナム戦争に出征することが決まっていた。自動車工場の同僚で、しばしば一緒に鹿狩りに赴く仲間であるマイケル(ロバート・デ・ニーロ)とニック(クリストファー・ウォーケン)もともにヴェトナムに派兵されることになっている。やはり昔馴染みであるスタン(ジョン・カザール)やアクセル(チャック・アスペグレン)も加えて鹿狩りを愉しんだあと、3人は意気揚々と戦地に向かった。

 所属先が異なっていたため、マイケルは他のふたりと出逢う機会がなかったが、ある日、最前線で偶然に再会する。そして、そのまま3人はヴェトコンの捕虜となった。

 囚われの身となった彼らに強要されたのは、ロシアン・ルーレット。実弾を1発だけ籠めた拳銃を自らの頭に突きつけ、引き金を引く。川岸に設けられた檻に閉じ込められ、頭上から銃声が響くたびにひとり、またひとりと仲間が減っていくのだ。やがてスティーヴンは運悪く実弾を浴びかけるが、ギリギリで頭から銃口を外したために助かり、水中の檻に閉じ込められる。

 もともと胆力に優れたマイケルは、この状況においても生きる可能性を模索していた。ニックとともに連れ出されたマイケルは、自ら望んで弾倉に3発余計に装填させ、どうにか生き延びると、その場でヴェトコンを一掃して逃走を図る。

 閉じ込められていたスティーヴンも解放し、川を流されて脱出を試みた一同だったが、混乱のなかで3人は散り散りになってしまう。やがてマイケルは英雄として帰国するが、スティーヴンとニックの運命は、あまりに過酷なものだった……

[感想]

 この作品を伝説たらしめているのは、相変わらずの驚異的な豹変ぶりで地方の労働者になりきったロバート・デ・ニーロと、重要な役割を果たすロシアン・ルーレットである。特に後者の緊迫感は、確かに壮絶なものがある。

 ただ、全体を通して観ると、引っかかる点もある。まず、プロローグである出征前のくだりがどう考えても長い。人物像を丁寧に描いているし、そこにのちのちの伏線を組み込んでいるのも解るのだが、それでも観終わって無駄に感じられる描写が多すぎる。個人的には、1時間近くあるこのくだりを30分ぐらいに抑えても良かったのではないか、と思う。

 もうひとつ、個人的に引っかかったのは、問題となるロシアン・ルーレットのくだりが、果たして実際にあり得たことなのか、という疑問だ。ヴェトナム戦争の過酷さは、他にも数多存在する映画のなかで描かれているが、川岸に設けられた拠点に捕虜を閉じ込め、賭けのコマとして使い捨てにする、という出来事が果たしてあったのか否か。

 そうして戦う相手の凶悪さばかりを剔出しており、アメリカ軍側が行った非道な作戦などについては一切触れていない、ということに疑問を呈する向きもあるようだ。実際、本篇はとことんヴェトナムの兵士の残虐非道ぶり、当地の文化の遅れぶりを描き出しているようなところがあるが、そのなかでアメリカ側が何をしたのか、はほとんど無視している。視点人物がアメリカ人のマイケルである、ということを差し引いても、アメリカ側の描写が皆無なのは気になるところだ。

 しかし、本篇はヴェトナム戦争そのものの惨たらしさ以上に、そういう戦争を経て、人間がどう変わってしまうか、ということに焦点を置いた作品である。そう捉えれば、現実としてアメリカ側にも卑劣な行為があったにしても、作中人物に影響を及ぼしたことに絞って描いているのは間違いではない。あの、人の命を粗末にする賭博が本当にああもあちこちで行われていたのか、という疑問は拭えず、そのあたりのフォローがあれば、という嫌味はあるが、フィクションである、という約束のもとであれば受け入れられる。

 序盤こそ冗長すぎる、と感じるが、戦場に赴いて以降のインパクトは強烈だ。アメリカにいる時点から、どちらかと言えばタフガイの横顔を示していたマイケルでさえショックを隠せず、マイケルに比べれば凡庸であったニックやスティーヴンの変貌ぶりに慄然とする。とりわけニックの、消息不明となる直前の描写などを考え合わせると、クライマックスにおけるふたたびのロシアン・ルーレットの顛末が余計に哀切だ。2度のロシアン・ルーレットで違う顔を見せたロバート・デ・ニーロクリストファー・ウォーケンの演技にも戦慄を禁じ得ない。

 だが私は、本篇の白眉はラストシーンであるように思える。長すぎる、と指摘した序盤のシーンと対比されるこのくだりは、やはりこれほど衝撃的な内容のあとにしてはいささかダラダラとしているのだが、それ故に物語を通して起きた変化が観る者にも沁みてくる。戦争というものが、実際に戦地に赴いた者だけではなく、その周囲の人々にも影響を及ぼすのだ、ということを象徴的に描き出したこの場面もまた、ロシアン・ルーレットのくだりとともに本篇の傑出したひと幕であろう。

 全体を通して3時間を超える尺、そのわりに序盤、なかなか話が進まない点や、救いのない内容など、決して安易に手を出せる代物ではない。しかし、観た者の心にはっきりと爪跡を残す、力強い作品であることは確かだ。

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