原題:“Battleship” / 原案:ハスブロ社ゲーム『バトルシップ』 / 監督:ピーター・バーグ / 脚本:ジョン・ホーバー、エリック・ホーバー / 製作:ブライアン・ゴールドナー、スコット・ステューバー、ピーター・バーグ、サラ・オーブリー、ダンカン・ヘンダーソン、ベネット・シュナイアー / 製作総指揮:ジョナサン・モーン、ブレイデン・アフターグッド / 撮影監督:トビアス・シュリッスラー,A.S.C. / プロダクション・デザイナー:ニール・スピサック / 編集:コルビー・パーカーJr.、ビリー・リッチ、ポール・ルベル,A.C.E. / 衣装:ルイーズ・ミンゲンバック、キム・ティルマン / 音楽スティーヴ・ジャブロンスキー / 音楽製作総指揮:リック・ルービン / 出演:テイラー・キッチュ、アレクサンダー・スカルスガルド、リアーナ、ブルックリン・デッカー、浅野忠信、ハーミッシュ・リンクレイター、リーアム・ニーソン、ピーター・マクニコル、ジョン・ツィ、ジェス・プレモンズ、グレゴリー・D・ガドソン / ブルーグラス・フィルムズ/フィルム44製作 / 配給:東宝東和
2012年アメリカ作品 / 上映時間:2時間10分 / 日本語字幕:戸田奈津子
2012年4月13日日本公開
公式サイト : http://battleship-movie.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2012/04/13)
[粗筋]
5年前、アレックス・ホッパー(テイラー・キッチュ)は定職にも就かず、無鉄砲な性格故にトラブルを頻繁に引き起こしていた。兄のストーン(アレクサンダー・スカルスガルド)はそんな弟の身を案じ、自分とともに海軍に入るよう諭す。当初、聞く耳を持たなかったアレックスだったが、ひょんなことから出逢い、一目惚れした女性サム(ブルックリン・デッカー)が海軍のシェーン提督(リーアム・ニーソン)の娘だと知ると、態度を翻した。
そして現在。ハワイ・オアフ島では、各国の軍隊が結集し、壮大な軍事演習が行われようとしていた。ストーンは駆逐艦サンプソンの艦長として既に前途洋々たる地位を築き、アレックスも士官として部下を束ねる立場にある――ただ、アレックスは未だに無鉄砲な一面は治らず、恋人の父親である上官の眉をひそめさせている。
そして遂に、シェーン提督の堪忍袋の緒を切らせる事態に発展してしまった。合同演習に参加した日本の自衛隊の指揮官であり、前回の演習で因縁の生じたナガタ(浅野忠信)と殴り合いの大喧嘩を繰り広げてしまう。ナガタとともに説諭されたあと、アレックスは提督から宣告を受ける――この演習が終わったら、お前は解任される、と。アレックスはこの演習を機に、シェーン提督にサムと結婚する許しを得るはずだったが、それどころではなくなってしまった。
意気消沈するアレックスをよそに、演習が始まるなか、各国では大きな事態が動き始めていた。宇宙から飛来した5つの物体が各地に落下、分離した駆動体が、都市に甚大な被害をもたらし始める。合同演習が行われているハワイ・真珠湾沖にも物体は落下していた。
ストーンの命令で、部下のレイクス(リアーナ)らとともに謎の物体の調査に赴いたアレックスは、それが変形し、さながら虫のように海の上を跳躍していくさまを目撃する。駆逐艦サンプソンから威嚇射撃を命じたストーンは、だが未知の兵器による攻撃を受け、船とともにまたたく間に海の藻屑となってしまった。
艦長、副艦長らがサンプソンと運命を共にし、シェーン提督らの搭乗する空母とは連絡が取れない。規則により、新たな指揮官には、その場で最も階級の高い人間――アレックスが就くことになる。一瞬のうちに肉親を奪われたアレックスは、頭に血を昇らせ、反撃を命じるのだが……
[感想]
映画の醍醐味は何か、と問われたら、人それぞれに答は違うだろう。いっときの夢を与えるロマンスを何よりも求める人がいれば、約2時間じっくりと向かい合い、考えさせてくれる作品にこそ価値を見出す人もいる。だが、何よりも“映画館の大スクリーンで鑑賞する”ということを堪能させてくれるのは、現実にはあり得ない、巨大な物体や事象をリアルに描き、その迫力を表現した作品である、というのは、好き嫌いはさておき誰しも納得していただけるのではないか。
だから、そういう意味では本篇は、間違いなく“映画館の大スクリーンで鑑賞する”価値のある内容だ。
一般人が日常で接することのない軍艦の外観、内部が描き出されていることもさりながら、やがて登場する、エイリアンたちの兵器のインパクトは強烈だ。予告篇でも採り上げられた、都市を襲うボール状の兵器の跳梁とその被害の様相は、(宣伝がそういうふうに誘導しているせいもあって)同じハスブロが原作である『トランスフォーマー』シリーズを彷彿とさせるが、まるでバッタのように海面を跳ねる巨大な軍艦のヴィジュアルと、それらと人類側の軍艦とが繰り広げる海戦は、従来の戦争映画に似ているようでありながら、未体験の興奮を味わわせてくれる。
本篇のいいところは、ヴィジュアルの迫力と緊迫感とを保証するために、背景もきちんと構築し、その中で事態を打開するための奮闘ぶりを描いていることだ。あまりに圧倒的すぎる敵を前にしながらも、決して絶望しきることなく、対抗策を模索する。大雑把な描写のように見えて、ちゃんと伏線は張られているし、実際に編み出した策略を実行に移す際の緊迫感も優れている。日本では公開前、一部劇場にて浅野忠信の見せ場であるワンシーンがそっくり上映されていたが、このくだりなど、前述したような映画ならではの醍醐味こそ活かしていないものの、戦略の面白さが漲っている――それだけに、先にお披露目してしまったのはちょっと勿体ない気もするのだが。
そして何より、観る者を熱くするツボを突くのが実に巧い。冒頭で激しく反目し合っていたアレックスとナガタが、窮地で示した互いの振る舞いに、少しずつその才覚を認め合い、絆を結んでいく様子や、海上での戦闘と並行して描かれる、アレックスの恋人サムが地上で遭遇する災禍のひと幕などもその好例だが、やはり最高の見せ場はクライマックスだ。窮地に至ってアレックスが着目する起死回生の一策と、それに付随して描かれる行動の昂揚感は並大抵ではない。過程の、VFXを駆使した映像よりも、このくだりこそが本篇最大の魅力と言っていいだろう。
本質的には決して新味のある物語ではない。ディテールは丁寧に構築されているし、戦闘のルールも巧く考えられているが、物語の骨格自体はありふれたものと言っていい。伏線や戦略がしっかりしているとは言い条、フィクションゆえの御都合主義、強引さは感じられる。ただ、ストーリーが決して奇を衒っていないからこそ、映像の迫力や場面場面の緊迫感を混ざり物なしに堪能出来るのだし、強引とはいえきちんと策略があり、そこに冒険があるからこそ、その瞬間のカタルシスは著しい。変にリアルにまとめることに執着せず、物語ならではのダイナミズムを優先しているからこそ、本篇は面白く、魅力的なのだ。
決して深みはないし、観終わったあとの余韻もしごくあっさりとしている。だが、軍備にまつわるディテールやSF的な趣向などがどうしても肌に合わない、という人でもない限り、観ているあいだ存分に興奮出来るし、最後に爽快感も味わえるのは間違いない。そして、この大掛かりさ、大胆さ、力強さこそ、映画館の大きなスクリーン、音響設備で鑑賞する価値がある。出来の善し悪しをどう評価するかは別にして、こういう作品を自宅の、どれほど大規模でも限りのある設備で鑑賞して評価してしまうのは勿体ない。
関連作品:
『ハンコック』
『宇宙戦争』
『マイティ・ソー』
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