原題:“Grave Encounters” / 監督、脚本&編集:ザ・ヴィシャス・ブラザーズ / 製作:ショウン・エンジェルスキー / 製作総指揮:マイケル・カーリン / 撮影監督:トニー・ミルツァ / プロダクション・デザイナー:ポール・マックローチ / 衣装:ナタリー・サイモン / 音楽:クイン・クラドック / 出演:ショーン・ロジャーソン、フアン・リーディンガー、アシュリー・グリスコ、マッケンジー・グレイ、マーウィン・モンデシール / ツイン・エンジン・フィルムズ&デジタル・インターファランス製作 / 配給:ALBATROS FILM×INTER FILM
2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:田中和香子 / PG12
2012年6月1日日本公開
公式サイト : http://www.graveencounters.jp/
シネマート六本木にて初見(2012/05/21) ※イベント付試写会
[粗筋]
子供の頃、いわゆる“幽霊屋敷”に住んだことをきっかけに、怪奇現象に取り憑かれたというテレビマンのランス・プレストン(ショーン・ロジャーソン)が製作したリアリティ番組『グレイヴ・エンカウンターズ(墓場との遭遇)』。各地の心霊スポットを巡り、体当たり取材で怪奇現象を撮影、その実在を証明する、というのが売りで、撮影は順調に進み、エピソード5までが完成していた。
だが、エピソード6の撮影中に、事件が起きる。
舞台は、40年も前に閉鎖されたコリンウッド精神病院である。数万人の“患者”が収容され、治療の名のもとに非人道的なロボトミー手術などが行われたという。閉鎖されたのち、様々な幽霊の目撃証言が途絶えず、現在は厳重に封鎖されている。
ランスは特別な許可を得、この廃墟にひと晩滞在して、怪奇現象の撮影を目論んだ。少女が手首を切って自殺したという浴室や、管理人が毎日閉めても翌朝には開いているという窓、人影の目撃された廊下や謎の地下トンネル、各所に定点カメラを仕掛け、ランスに女性アシスタントのサシャ(アシュリー・グリスコ)、それに“霊能力者”のヒューストン・グレイ(マッケンジー・グレイ)たちはハンディ・カメラを携えて病院内を巡る。徹底的に張り巡らせた網によって、何としてでも怪奇現象を映像に収めよう、という覚悟だった。
自分たちの逃げ場をなくすため、ランスは管理人に頼んで扉を外から封印してもらっていた。管理人がふたたび鎖を外すのは、午前6時。そのときになれば、出られるはずだった、のだが――
[感想]
最近すっかり定着した感のある、P.O.V.方式のホラー映画である――が、本篇のアプローチはありがちのようでいて、意外と珍しいもののように思う。
一世を風靡した『パラノーマル・アクティビティ』は一般の家庭で起きた怪現象を、当事者が検証のために撮影した、という体裁で、『REC/レック』はまったく別種のテレビ番組撮影中に遭遇した悪夢を切り取っている。しかしこの作品は、粗筋をご覧いただければ解るように、はじめから怪しい噂のある場所に、怪奇現象を撮影するという意図で、自ら望んで踏み込んでいる。
強いて言うなら、こうしたスタイルの端緒となった『ブレアウィッチ・プロジェクト』の発想に近いが、それをアメリカで近年定着している“リアリティ番組”の体裁で撮っていることが、本篇の特徴を決定づけている。
序盤では、如何にもバラエティ番組らしい興味本位の切り口、持って回った表現で撮影を重ねる一方で、敢えて本来の番組上では見せることのない“やらせ”の面をちらつかせる。想定外の答を返す関係者に金を掴ませて、最初とは違う証言をするところを見せたり、しかつめらしく霊感をひけらかしていた男があとあとただの役者であることをさらっと晒していたりするあたりは、ニヤリとさせるが本篇独特のリアリティにも繋がっている。
それらが本篇に独特のユーモアを齎すと同時に、裏側を見せている、という事実が彼らを待ち受ける運命が非情であることを暗示していて、微妙な不穏さを漂わせる。
そして、中盤以降は一気に怪奇現象が畳みかけてくる、という構成だが、本篇の特徴は、それが全般に“やり過ぎ”である、ということだ。
P.O.V.というスタイルは、観客に臨場感とリアリティをもたらす効果が上げられる一方で、そうした効果に制約される傾向にある――怪奇現象であっても、映像から想定される常識の範囲内で収まってしまいがちだ。そのバランスを保つことが主観視点撮影でのリアリティを維持する最善の方法であり、安易に利用されがちなこのスタイルの質に差をつけるポイントでもあるのだが、本篇はある段階から、こういう感覚を嘲笑うかの如く、過剰な趣向を繰り出して来る。物語としては、いわばお化け屋敷に閉じ込められた人々の混乱と恐怖とを描くものであるが、本篇はある段階から、現実には決して存在し得ないレベルにまで、このお化け屋敷的趣向を拡張してしまう。
それ故に、人によってはただただ荒唐無稽で、笑止千万の出来映えに思えるだろう。実際、あまりにやり過ぎて、ここでそういう現象が起こる必然性はあるのか、という疑問や、伏線が不足しているが故の、悪い意味での違和感をもたらしたり、怖さを演出する効果を弱めてしまっている部分もかなり目立つのはマイナス点と言える。失笑して終わる、という人もあるはずだ。
だが、その徹底ぶりは反面、サービス精神としても成立している。あり得ないほどに派手な怪奇現象の数々は、ホラー映画愛好家にとってみればいっそ“愉しい”と感じられる部分でもあるし、翻って、素直に怖さを味わえる人にとっては、P.O.V.スタイル特有の“他人事”めいた印象をあっさりと突破してくる趣向に、怖気を存分に味わえるはずだ。
中盤以降に濃厚な“やり過ぎ”感が、背景を探れば辻褄が合いそうな、それ故の薄気味悪さを殺してしまっていて、傑作と呼ぶにはいささか雑だ。しかし、主観視点撮影ならではのリアリティに固執せず、異世界の領域にまで踏み込んで観客に恐怖を与えようとしたサーヴィス精神は高く評価できる。
ある程度生々しさを留めつつも、リアル志向に突き進みすぎたが故にホラー映画から失われつつあった猥雑さを取り戻させた作品。こういうのを“快作”と呼ぶべきだろう。
関連作品:
『REC/レック』
コメント