『イップ・マン 葉問』

イップ・マン 葉問 [DVD]

原題:“葉問2 Ip Man 2” / 監督:ウィルソン・イップ / 脚本:エドモンド・ウォン / アクション監督:サモ・ハン・キンポー / 製作:レイモンド・ウォン、リー・シン、アン・アン / 製作総指揮:ツェン・ジャンフイ、ツォン・シュージエ、カオ・ジュン / 撮影監督:プーン・ハンサン / 美術:ケネス・マク / 編集:チュン・カーファイ(HKSE) / 衣装:リー・ピクワン / 詠春拳指導:イップ・チュン / 音楽:川井憲次 / 出演:ドニー・イェンサモ・ハン・キンポー、ホァン・シャオミン、リン・ホン、ルイス・ファン、ダーレン・シャラヴィ、ケント・チェン、サイモン・ヤム / 配給:Face to Face×Libero / 映像ソフト発売元:日活

2010年香港作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:?

2011年1月22日日本公開

2011年6月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Disc(続篇とのセットのみ):amazon]

公式サイト : http://www.ip-man-movie.com/

DVD Videoにて初見(2012/07/10)



[粗筋]

 1950年、香港。郷里・佛山から脱出し、戦争の中をどうにか生き延びたイップ・マン(ドニー・イェン)は、ようやくこの地で武館を開く決意を固めた。懇意にしている新聞社の編集長に頼み、社屋の上にある空き家を借りて詠春拳の指導を始める。

 ……が、なかなか弟子志願は現れなかった。洗濯物の手伝いをしたりして漫然と時間を潰していたところへ、ようやく現れたのがレオン(ホァン・シャオミン)である。はじめは聞いたこともない武術をからかい半分で確かめに来たらしいレオンだったが、イップの武術に圧倒されるといちど退散、後日仲間たちを引き連れて再度挑み、複数でも蹴散らされると、平伏して弟子入りを志願した。

 それを契機に弟子は集まり始めたが、誰もが貧困に喘ぐ香港では、稽古代を持ち合わせる弟子も少なく、イップと一家の暮らしはなかなか改善しなかった。すっかり心酔したレオンが積極的に宣伝を続けても、イップ一家が豊かになるには程遠い。

 ある日、詠春拳のポスターを貼っていたレオンは、洪拳の門弟を名乗る男達に難癖をつけられ、小競り合いとなる。もともと腕には覚えのあったレオンだったが、複数を相手にしては太刀打ち出来ず、捕らえられてしまう。

 魚市場に呼び出され金を要求されたイップは、だが弟子同士の果たし合いに責任はない、とこれを固辞した。ふたり対多数の戦いとなっても敢然と立ち向かったイップだが、そこへ洪拳の師匠ホン(サモ・ハン・キンポー)が現れて、イップに告げた――香港で武館を開くためには、武館会の承認を得なければならない、と……

[感想]

 日本ではこちらが先に劇場公開されたが、実際には『イップ・マン 序章』が先に製作され、本国で高く評価されたために本篇が撮られた、という運びのようだ。どういう判断で2作目から公開されたのか、外野には解らないが、そういう順番でも問題がなかったことからも察せられるとおり、本篇から先に観ても問題はない。続篇ではあるが、ストーリー的には独立している。

 フィクションとしての潤色は大幅に為されているようだが、このエピソードで語られる白人ボクサーとの戦いも、『序章』の対日本軍人と同様に、イップ・マンが実際に経験したものらしい。とある著名な作品との類似がしばしば取り沙汰されるが、断片的にとはいえ実際にあったことだから、というのもあるし、武術の精神を描くうえで特に伝わりやすい題材だった、という側面もあろう。

 本篇で注目すべきは、そういう手垢の付いた展開であっても、ドラマとして高いクオリティに高めていることである。新天地で図らずも権力争いに巻き込まれ、武館としての収入が思わしくない中で、バランスを取らねばならない苦しさ。結果的に敵対してしまうホンの譲れない事情を目の当たりにすることで、その舵取りの難しさをいっそう窺わせる。

 そうした前提が丁寧に築きあげられたあとだからこそ、当初は敵対していた人々の誇りをも背負って立ち上がるイップ・マンの姿に力が備わっている。この一連の流れを何もかも軽々しく運んでいたら、恐らく終盤の試合は自己満足だけが印象的な、笑い話のような代物に陥っていただろう。

 そして、そうしたドラマに、超絶技巧のアクションが説得力を与えている。まだ弟子のいない武館で、訪れた若者をあしらうシーンや、市場での乱戦、そしてラストの異種格闘技戦に至るまで無数の見せ場があるが、何と言っても圧倒的なのはイップ・マンとホンが不安定なテーブルの上で拳を交えるくだりである。ワイヤーなしでは成り立たないのも自明だが、見ていてそんなことを感じさせないほどの緊迫感が漲っている。当代屈指のマーシャル・アーツ俳優ドニー・イェンと、ジャッキー・チェンらと同時代を過ごし、俳優としてもアクション演出家としても長年香港映画界を支えてきた重鎮サモ・ハン・キンポーだからこそ為し得るこの名場面こそ、本篇のハイライトと言っていい――惜しいかな、クライマックスの異種格闘技戦は、この場面のインパクトが強すぎるが故に、パワーバランスが崩れてしまっている感があるほどだ。あれほど超人的な戦い方が出来るなら……と思ってしまうのである。

 こうして並べてみると、日本での公開こそ2作目である本篇が主、第1作が従、という格好になってしまっているが、完成度という意味ではほんの少し、第1作のほうが秀でているように思う。香港映画の歴史を背負い、洗練された演出で美しいドラマへと昇華した第1作の基本形を、本篇はなぞる形で生み出されているが、それ故の力みが、若干ではあるがバランスを崩してしまった。

 とはいえ、第1作同様に、往年の香港映画に敬意を表しつつ、その表現を洗練させ深化させた、極めてレベルの高い“カンフー映画”であることに変わりはない。今も昔も変わらずに香港産カンフー映画を愛している、というなら絶対に観逃すべきでない傑作である。

関連作品:

イップ・マン 序章

SPL/狼よ静かに死ね

かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲート

導火線 FLASH POINT

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアン・モンキー

孫文の義士団 −ボディガード&アサシンズ−

捜査官X

ドラゴン 怒りの鉄拳

レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳

SPIRIT

王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件

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