『画皮 あやかしの恋』

有楽町スバル座、階段前のポスター。

原題:“畫皮 Painted Skin” / 原作:蒲松齢『聊斎志異』 / 監督&製作:ゴードン・チャン / アクション監督:トン・ワイ / 脚本:ラウ・ホーリョン、エイブ・クォン、ゴードン・チャン / 製作:ダニエル・ユン、ヤン・ホンタオ、レン・チョンラン、カーサリン・ラン / プロダクション・アドヴァイザー:シュー・リーコン、ツェン・ヤン / 撮影監督:アーサー・ウォン / 美術:ビル・ルイ / 音楽:藤原いくろう / 日本版主題歌:倉木麻衣『儚さ』 / 出演:ジョウ・シュンヴィッキー・チャオ、チェン・クン、スン・リー、チー・ユーウー、ドニー・イェン / 配給:太秦

2008年シンガポール、中国、香港合作 / 上映時間:1時間43分 / 日本語字幕:島根磯美

2012年8月4日日本公開

2012年12月28日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video(完全版):amazon|DVD Video(劇場公開版):楽天|DVD Video(完全版&劇場公開版セット):楽天]

公式サイト : http://www.gahi-movie.com/

有楽町スバル座にて初見(2012/08/24)



[粗筋]

 今は昔、中国大陸の砂漠地帯で、盗賊の討伐に赴いた王軍の指揮官・王生(チェン・クン)は、囚われていた女を助け出す。元は豪商の娘であったが、両親は殺害され、売られる身となっていた、というその女・小唯(ジョウ・シュン)を、王は自らの邸宅で預かることを決める。

 美しく快活な小唯は、またたく間に王軍の兵士や、王家の臣下たちを虜にした。王生の妻・佩蓉(ヴィッキー・チャオ)も彼女を妹同然に扱うが、しかし同時に、一抹の不安を抱く。夫が小唯に心をなびかせているのではないか、という想いと共に、小唯の存在に薄気味の悪いものを感じていたからだった。

 折しも街に、王の前に軍を指揮していたが、突如去っていった龍勇(ドニー・イェン)*1が舞い戻っていた。佩蓉は、自分が目撃した不可解な出来事も併せて語り、小唯が妖魔なのではないか、という自らの疑念を晴らして欲しい、と懇願する。

 妖魔の存在など信じていなかった龍勇だが、自らの弟分である王生と、かつて愛していた佩蓉のために、と腰を上げる。そんな彼に、薄汚れた身なりの女がつきまとった。彼女、夏冰(スン・リー)は降魔師を名乗り、小唯の正体を突き止める手伝いをしたい、という。いささか頼りない人物だが、龍勇は拒まず、彼女とともに小唯の周辺を探る。

 ――佩蓉の疑いは正鵠を射ていた。小唯はまさしく、人間の姿に偽った妖魔であった。盗賊の元で出逢った王生を見初め、正妻の座を奪うべく、周到に策を弄していた。

 しかし、妖魔である彼女が美しい容姿を保つためには、人間の心臓を食らう必要がある。そのために街では、心臓を抉られる怪奇な殺人事件が相次いでおり、王生は日夜、捜査のために駆り出されていた……

[感想]

 中国の説話をアレンジし、優れたアクション・スターを配して熱くも華麗に描いたロマンス風味のファンタジー、とざっくり説明すると、日本では本篇より少し早く封切られた『白蛇伝説〜ホワイト・スネーク〜』を想起させるが、あながち違ってはいない。

 ただ、本篇はあちらよりも大人っぽい。『白蛇伝説』もドラマ部分のあちこちに大人でないと解らない要素がちりばめられていたが、本篇はその比率が高い。複雑に入り乱れる恋愛感情に、心臓を喰らわなければ生き永らえない、という猟奇的な一面。恐らくはレーティングへの配慮もあって、あからさまに性的な表現があるわけではないが、艶っぽい場面も少なからず存在している。

 あやかしの恋物語、という点でも同じなのだが、民話的だった『白蛇伝説』に対し、本篇は怪談的、ホラーの要素が強い。王生の傍にいるために小唯が人間の心臓を喰うという設定もそうだが、妖魔は妖魔、基本はひとと相容れないもの、という線を厳守、そこに縛りがきっちりと定められているのが、若干奔放なきらいのあった『白蛇伝説』と比べ、深みを感じさせる。

 語り口にも無駄を感じさせない、と言えればより隙がなかったのだが、生憎と本篇は、少々もたついた感がある。パンフレットによれば本篇はどうやら脚本を用意せずに撮影を行ったようで、そのためにストーリーが散らかってしまったようだ。特に序盤は物語の焦点がぶれ、ごたついてしまっている。人物が出揃い、それぞれの感情が明瞭になったあとは、括弧の描写を掘り下げることで整頓されていくが、そこまでは退屈してしまう人もいるのではなかろうか。

 しかし終盤の盛り上がりは素晴らしい。愛ゆえに選択したものの、想像を超えた悪夢に戦慄する者、それ故に揺さぶられる関係者たち。ほとんどの人物が一堂に会して繰り広げられるクライマックスの熱気は圧巻でさえある。脚本がなかった、とは言い条、恐らくここまでの導線は明白に引いてあったのだろう。序盤がもう少し整理されていれば、と惜しまれるが、ここまで高めていった手管は賞賛に値する。

 特に注目すべきは、本質的には中心にいないはずの、蜥蜴をモチーフにした妖魔・小易と、ドニー・イェン演じる龍勇が効いている点である。

 小唯に想いを寄せ、尽くしながらどうしても報われない小易の立ち位置は、小唯が辿るはずだった別の物語を想起させて作品の厚みに貢献している。そして当代屈指のマーシャル・アーツ俳優ドニー・イェンは、人物の配置からてっきりアクションに若干の彩りを添えるだけかと思いきや、素晴らしい存在感を発揮している。決してメインのドラマを過剰に侵蝕せず、絶妙な距離感で補強しながら、アクション俳優として、作品の映像的な力強さにも貢献している。香港ではトップクラスのギャラを誇り、出演作も厳選していると言われる彼だが、こういう準主役的な位置づけでも活躍出来るあたり、懐が深い。

 カテゴリとしてはファンタジーに属するが、扱いは成熟しており、奥行きがある。娯楽的な側面も疎かにしておらず、極めて完成度の高い幻想怪奇ドラマである。本国では既に続篇が公開され、第1作同様に大ヒットを飛ばした作品なのだが、製作から日本での上映に4年を要したのが訝しまれてならない――昨今の、日本における洋画不遇の現状を思えば、きちんと映画館で観られただけでも幸いではあるのだけど。

関連作品:

メダリオン

白蛇伝説〜ホワイト・スネーク〜

処刑剣 14 BLADES

KAN-WOO 関羽 三国志英傑伝

孫文の義士団 −ボディガード&アサシンズ−

王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件

*1:“龍”は正しくは“广”がつく。

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