アキバシアター入口前に掲示された『ネバーセイ・ネバーアゲイン』ポスター。
原題:“Never Say Never Again” / 原作:イアン・フレミング / 監督:アーヴィン・カーシュナー / 脚本:ロレンツォ・センプルJr.、イアン・ラ・フレネ、ディック・クレメント / 製作:ジャック・シュワルツマン / 製作総指揮:ケヴィン・マクローリー / 撮影監督:ダグラス・スローカム / プロダクション・デザイナー:スティーヴン・グライムス、レスリー・ディリー / 編集:ボブ・ローレンス / 衣装:チャールズ・ノッド / メイク:ロビン・グランザム / 視覚効果:デヴィッド・ドライヤー、イアン・ウィングローヴ / スタント・コーディネーター:グレン・ランドール、ヴィク・アームストロング / 音楽:ミシェル・ルグラン / 出演:ショーン・コネリー、キム・ベイシンガー、クラウス・マリア・ブランダウアー、バーバラ・カレラ、マックス・フォン・シドー、バーニー・ケイシー、アレックス・マッコーエン、エドワード・フォックス、パメラ・セイラム、ローワン・アトキンソン、ヴァレリー・レオン / 配給:松竹富士×ヘラルド / 映像ソフト発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント
1983年アメリカ作品 / 上映時間:2時間13分 / 日本語字幕:戸田奈津子
1983年12月10日日本公開
2013年4月3日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
アキバシアターにて初見(2013/03/23) ※プレミアム・ブルーレイ試写会
[粗筋]
殺しのライセンスを示す“00”の暗号名を持つMI6の諜報員ジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)だが、最近は上司であるMの方針と折り合わず、現場を遠ざけられていた。厄介な模擬訓練でもミスが相次ぎ、Mは現場に戻る前に、療養所で身体のメンテナンスを行うように命じる。
やたらオーガニックな食事を勧め、何かと薬漬けにしたがる医師に辟易していたボンドだが、ある晩、病室で奇妙なトレーニングを行っている人間を見かけると、次の診察中に襲撃を受けた。辛うじて撃退するが、療養所は荒れ放題になり、ボンドはMから大目玉を食らってしまう。
それから間もなく、大事件が勃発する。演習のために発射された核弾頭が、フェイクから本物にすり替えられ、それが国際的テロ組織スペクターによって奪われたのだ。スペクターの首領は、奪った2発の核弾頭で石油施設の爆撃を仄めかし、国際社会に対し途方もない利権を要求する。イギリス大統領は“00”ナンバーの諜報員の招集をMに要請し、かくてボンドは謀略の世界にカムバックを遂げた。
核弾頭の強奪は、英軍に在籍するジャック・ペタチ大尉をドラッグを用いて籠絡し、眼紋を大統領と同じように整形することで命令系統に介入、弾頭を演習用のものから本物に入れ換えさせることで実行された。実は、ボンドが療養所で奇妙な訓練をしていた人物こそペタチ大尉であり、彼の持ち物に、大富豪ラルゴ(クラウス・マリア・ブランダウアー)の用いる紋章があしらわれていたことを発見したボンドは、ラルゴが滞在するバハマへと飛ぶ。
現地に到着すると、さっそくラルゴの身辺を探ろうとしたボンドだったが、そんな彼をひとりの美女がダイビングへと誘った。彼女の名はファティマ(バーバラ・カレラ)――スペクターに所属する、暗殺者である……
[感想]
粗筋からも明白なように、本篇はれっきとしたジェームズ・ボンド映画だが、しかしデータ上は“番外篇”扱いされている。1971年の『007/ダイヤモンドは永遠に』で初代ボンド役を退いたショーン・コネリーが登板しているが、『007/ドクター・ノオ』以降、一貫してシリーズを製作しているイオン・プロダクションではなく、シリーズ中作品『007/サンダーボール作戦』をリメイクした、という位置づけであるからだ。どうしてそんなことになったのか、に細かく触れていると長くなるので省くが、製作時のそうした背景から、本篇にはお馴染みのテーマ曲も、“ガンバレル・シークエンス”と呼ばれる、銃口越しにボンドの姿が現れ、カメラに向かって発砲する、あの映像も組み込まれていない。題名に“007”の文字がないのも、契約上の都合であったらしい。
だが、よほど徹底してシリーズに親しんでいる、何らかのこだわりがある、というひとでもない限り、内容自体に著しい違和感を抱くことは恐らくない。随所で美女との絡みがあり、トラブルに巻き込まれつつも国際的な謀略と対決する、というお馴染みの展開を踏まえた、“007”映画として普通に楽しめる。
むしろ、シリーズ中作品と捉えた上で、本篇には特筆すべき変化が存在する――ボンドがロートル扱いされている、という点だ。
プロローグでいきなりアクションや、使命遂行中のボンドの姿を描くのもまた定石ではあるが、そこから本筋に入ると、実は現場を離れて久しいこと、身体能力が衰えていることが指摘される。対立しているらしいMからの嫌がらせ、という側面もありそうだが、しかし実際に衰えているような描写がちらほらと窺える。正直なところ、私は未だ観ていないボンド作品が多いので断言は出来ないが、こういう扱いでボンドを描いた作品、というのは他に覚えがない。唯一、最新作『007/スカイフォール』でボンドの再訓練・再試験という描写があったぐらいではなかろうか。しかも『スカイフォール』のボンドは、MI6が死亡を信じこむような出来事があり、その際に負った傷とブランク、という具合で、明らかに事情が違う。12年振りに再登板する、という現実を踏まえて加えた描写なのかも知れないが、なまじ順番や世代にこだわらず、適当に鑑賞しているからこそ、こういう点がやけに印象に残る。
他にも、CIA職員であるフェリックス・ライターのキャラクター性や、いささかマッチョなユーモアの盛り込み方に、本質的にはイギリス映画である本家007との微妙な差違を感じるのも事実だ。しかし、もともと同じ原作、それも雛型にしているのがシリーズ中の1作であるのだから、大筋での味わいは変わりない。ショーン・コネリー主演の初期作品が完成させた、イギリス映画らしい洒脱さと華麗さで彩り、随所に詰めこまれた壮大なアクションで魅せる、娯楽大作である。
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