『ネイチャー(3D・日本語ナレーション付き)』

TOHOシネマズスカラ座、スクリーン入口脇に展示されたポスター。

原題:“Enchanted Kingdom 3D” / 監督:パトリック・モリス、ニール・ナイチンゲール / 製作:マイルス・コノリー、ニール・ナイチンゲール / 製作総指揮:マーカス・アーサー、スチュアート・フォード、アマンダ・ヒル、マイルス・カトリー、ディーパック・ナヤール / 撮影監督:ロッド・クラーク、ロビン・コックス、マーク・ディーブル、ジェイミー・マクファーソン、サイモン・ワーリー / 編集:ナイジェル・バック / 音楽:パトリック・ドイル / 日本語版ナレーション:滝川クリステル / BBCアース製作 / 配給:東宝東和

2014年イギリス作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語ナレーション監修:新宅広二 / 日本語翻訳:中島多恵子

2014年5月2日日本公開

公式サイト : http://nature-movie.jp/

TOHOシネマズスカラ座にて初見(2014/05/02)



[概要]

 50年以上にわたり、自然をテーマにしたドキュメンタリーを制作するBBC EARTH。近年は映画館やラージ・スクリーン向け作品もリリースしてきたが、今回、ハリウッドで開発された最先端の3D撮影技術を自然に持ち込む、という試みに挑んだ。大動物に肉迫し、滝の淵から断崖を見おろし、小動物の目線で世界を眺める。これまで、史上初の映像を無数に捉えてきたスタッフたちが、新技術を活かして、未曾有の世界を観客に体感させる……

[感想]

 前々から、3D映画の技術は、実はドキュメンタリーにこそ有効なのではないか、と考えていた。自分の生活圏から遥か遠く隔たった世界のヴィジュアルに触れ、よりその雰囲気を実感するために、3Dの技術は役に立つ。CGによって構築された、現実にない世界を体感させるにももちろん有効だが、現実の世界に3D用カメラを持ち込んで捉えた映像をこそ楽しんでみたい、と常々思っていた。保存のために普段は閉鎖されている洞窟内の、創造性豊かな壁画を記録するためにカメラを持ち込み、3Dで公開した『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』は私のそうした考え方に近い観点から撮られた作品だったが、本篇は更に理想的な題材だっただけに、公開のだいぶ前から期待していた。

 そういう意味では、実際に公開されてみると、予想外に3Dでの上映が少なく、どちらかと言えば2D中心でかかっているのが残念でならない。本篇のように、一般人にはおいそれと踏み込むことの出来ない大自然、近づくことの出来ない大動物、現実には体感出来ない小動物の目線、そうしたものこそ3Dであえて鑑賞するに相応しい題材である。2Dでも充分に“ここではない世界”を体感出来るにしても、わざわざ最先端のカメラを、ジャングルの奥地、或いは海深くに運び込んでまで撮影された映像をダウングレードして鑑賞するのはちょっと勿体ない。

 また、今回は恐らく製作者側も、初めて撮影する題材よりも、開発した技術で未曾有の映像を観客に体感させることに意識を割いているのだろう、本篇で採り上げられた自然現象や生物はいずれも見覚えのあるものばかりで、題材としては新味に欠けている。こうした劇場用ドキュメンタリー、ことストーリー性が構築しづらいものはどうしても関心を引き続けるのが難しいのだが、題材からはこれといった発見がないので、ほかの自然ドキュメンタリー以上に退屈を感じてしまう。

 しかし、そういう欠点を踏まえたうえでも、大自然に3D撮影の技術を持ち込んで採集した映像の数々は、極めて価値の高いものだ。製作サイドも、そのことを充分に認識し、敢えて以前の劇場用作品で扱った題材を選択したのかも知れない。そうすることで、撮影対象と方法を絞り、上映に見合う映像を確実に収穫していったのだろう。長年、自然を相手にした撮影を継続してきたノウハウがあってこそであり、このスタッフだからこそ実現できるクオリティなのだ。

 また、これまでのBBCによる自然ドキュメンタリーに接したことのないひとにとっては、BBCの蓄積の豊かさに圧倒させること請け合いである。生きるものは水と無縁でいられない、という点を軸にして、連綿と形作られる大自然のパノラマには、自然に憧れるけれど機会がないひとには、疑似体験として最高のものが得られるはずである。恐らく他の製作会社でこのレベルを繰り出すのは容易ではないはずだ。

 ……だからこそ、競合作品が多い時期にぶつかってしまったからとはいえ、2D版メインでかけている劇場が多いことが惜しまれてならない。本篇を2Dで観るのは、かなりの機会損失としか思えないのだ。これをアップする段階で公開から1週間を経てしまっているが、もし3D映写設備を持っているのに本篇を2Dでかけている、という劇場には、何とか奮起して、1日数回でも3D上映を実施していただきたい。

 ちなみに本篇、オリジナル版でのナレーションはイドリス・エルバという黒人俳優が担当しているらしい。『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』の門番や『パシフィック・リム』の司令官役、最近は『マンデラ 自由への長い道』でネルソン・マンデラを演じた人物である。実に渋い声が魅力的なので、きっとそれで観るのも一興だが、本邦では2013年の話題の人である滝川クリステルが担当した吹替版が採用されている。恐らくオリジナル版と趣は違うのだろうが、さすがにキャスターだけあって聴きやすく、好感が持てる仕上がりだった。

 が、個人的にひとつだけ気になることがある。高所に生活するサルの生態に言及するくだりで、仲間の肛門に鼻を近づけるくだりで、「う〜〜」と呻くようなナレーションが入っていたのだが、あれは果たして台本通りだったのか、アドリブだったのか。

 動物の映像をよく観る人、そうでなくても犬や猫を駆っているひとにはさほど珍しくない光景なので、そんなに驚いたり嫌悪感を抱くようなシーンでもない。それでも、普通のひとならきっと衝撃を受けるだろう、とそういう音声を台本に加えたのか、収録中に思わず出てしまった声なのか。まあ、お陰であの場面が非常に印象づけられたので、演出としては正しかったのだけど……そもそもあれはオリジナル版にもあった演出なんだろうか。ああ気になる。

関連作品:

ディープ・ブルー』/『アース』/『ミーアキャット』/『ライフ −いのちをつなぐ物語−

WATARIDORI』/『皇帝ペンギン』/『グレート・ビギン』/『ホワイト・プラネット』/『HOME 空から見た地球』/『ディズニーネイチャー/フラミンゴに隠された地球の秘密』/『オーシャンズ』/『日本列島 いきものたちの物語

世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶

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