原題:“紅蕃區” / 英題:“Rumble in the Bronx” / 監督:スタンリー・トン / 脚本:エドワード・タン、フィベ・マ / 製作:バービー・タン / 撮影監督:ジン・マチョウ / プロダクション・デザイナー:オリヴァー・ウォン / 編集:ピーター・チュン / キャスティング:アン・フォーリー / 音楽:ウォン・ネイサン / 出演:ジャッキー・チェン、アニタ・ムイ、フランソワーズ・イップ、トン・ピョウ、マーク・エイカーストリーム、ガーヴィン・クロス、モーガン・ラム、クリス・ロード / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Warner Home Video
1995年香港作品 / 上映時間:1時間45分 / 日本語字幕:?
1995年8月5日日本公開
2014年8月5日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|ジャッキー・チェンDVDコレクション:amazon]
ジャッキー・チェンDVDコレクションにて初見(2014/08/03)
[粗筋]
香港警察で警部補を務めるクーン(ジャッキー・チェン)は、叔父ビル(トン・ピョウ)の結婚を祝うため、ニューヨークのブロンクスを訪れる。ビル叔父はクーンの父とともにスーパーを営んでいたが、結婚を機に人に譲るつもりだという。仕事もあるクーンは興味を示さなかったが、叔父と売却の交渉をしている女性・エレイン(アニタ・ムイ)が予算面で悩んでいるのを知ると、クーンは権利の一部を自分が受け持つことで契約をまとめさせる。
ビル叔父は、健全で問題のない営業をしてきた、とエレインに囁いていたが、しかしいざ経営を譲られたエレインは、その売り文句が大嘘だったことを悟った。あたりの治安は最悪で、店舗の壁はあっという間に落書きだらけになり、保護料の名目で金をむしり取ろうとする輩が店に現れる。いちどはクーンが撃退するが、その後地元のギャングの元締めトニー(マーク・エイカーストリーム)たちがクーンを襲撃、重傷を負わされる。
クーンとエレインがギャングの行動に頭を悩まされるなか、ブロンクスで新たな事件が起きる。走行中の車が銃撃され、更に爆破されたのだ。その現場に居合わせたトニーの部下アンジェロ(ガーヴィン・クロス)たちは、車の搭乗者の所持品を奪ったが、あとから現れた男達に追われて、アパートに逃げ込む。どうやらいちばん高価らしいものを、近くにあった車椅子のクッションに押しこんで、追っ手をごまかした。
アンジェロが収穫を隠した車椅子は、実はクーンの隣人で足の不自由な少年ダニー(モーガン・ラム)の持ち物だった。白昼、往来で起きた派手な銃撃・爆破事件の狙いこそ、クッションに押しこまれた荷物だったために、事態は思わぬ方向に転がっていく――
[感想]
ジャッキー・チェン3度目のハリウッドへの挑戦にして、初めて成功を果たした作品、として知られている。
はっきり言ってしまえば、この前にハリウッドへと持ち込んだ2作品は、失敗しても仕方がない、という出来映えだった。『バトルクリーク・ブロー』はアクション映画にはなっているが、ジャッキーの特徴があまり出ておらず、再度挑んだ『プロテクター』は監督が『ダーティハリー』の亜流めいた構想で臨んでしまったためにジャッキーの方向性と隔たり、結局彼の魅力を活かせなかった。後者はのちにジャッキーが追加撮影を行い、出来る限りジャッキーの満足のいく形で作り直された(現在、日本においてDVDで入手出来るのは追加撮影・再編集なしのヴァージョンである)という経緯があるが、いずれにせよジャッキーの魅力を十分に反映した仕上がりではなかった。
映画作りにおいて常に研鑽を怠らないジャッキーのこと、3度目の挑戦で安易に2度の轍を踏むはずがない。本篇を鑑賞すると、最善を尽くした上で臨んだからこそ手にした成功だった、とよく解る。
ストーリー自体はそんなにひねりがあるわけでもなく、出来がいいわけでもない。異国からアメリカを訪れた主人公がトラブルに巻き込まれ、苦しめられながらもその能力を活かして事態に臨む、という、大枠だけ見れば有り体な内容だ。起きている出来事にしても、ごく大雑把に括れば先行するハリウッド進出作と大差はない。
大きく異なるのは、本篇が徹底して“ジャッキーらしいアクション”を織り込んでいることだ。先の2作もアクションは決して少なくなかったが、ジャッキー自身のキャラクターがハリウッドナイズされてしまって、魅力がかなり殺されてしまった。本篇も、大枠だけ捉えればハリウッドでよくあるストーリーではあるが、そこに放り込まれたのは既に世界的に親しまれたジャッキーに他ならない。のっけから、部屋の片隅に放置された木人で優れた試技を披露し、複数のギャングを鮮やかな技で翻弄し、痛がり転びながらも己の肉体とその辺のものを活用して窮地を脱するジャッキーの姿が堪能できる。
ちょっとしたことではあるが、たとえば英語が不得意であること、反撃はしても決して殺しはしないこと、悲愴なシーンでも愛嬌やユーモアを覗かせていることなど、香港での諸作と比較すると抑えめではあるが、きちんとこれまでのジャッキー作品で見せていた彼の個性、主義を留めているから、全体としてユーモアが控えめであったり、方向性が微妙に異なっていても、芯は通しているので安心感がある。
そして、理屈なんか一切抜きにして、動きを見ていて飽きが来ない。終始、驚きと興奮が味わえる。前述した見せ場は勿論のこと、やはり特筆すべきはクライマックスだ。ギャングとの立ち回りで技を徹底的に見せつけたあと、ホバークラフトをこれでもかとばかりに活用した派手なアクションは逸品である。撮影中に骨折しながらも、ギブスを嵌めた上から靴の形に絵を描いた靴下を履いて撮影を強行(その様子はジャッキー作品お馴染みのエンドロールNG集に組み込まれている)したり、というジャッキーならではの壮絶なエピソードを思い合わせるとよけい衝撃的だが、そんな情報がなくとも、走るホバーに追いすがり全身で水上スキーをするさまや、街を破壊しまくるホバークラフトとそれに果敢に立ち向かう男、という構図は、どんなふうに撮られたか、などという事実を無視しても見応えがある。そして、それを解ったうえで撮っているからジャッキー・チェンと、彼の抱えるスタッフは素晴らしい。その価値をきちんと盛り込んでいるから、アメリカの観客をも熱狂させたのだろう。
本篇の作りは、ジャッキーが自らのスタイルを保ったままハリウッドに殴り込みをかけた、そのままが同じ形で物語に盛り込まれている、といった体裁なのである。だからこそ、いつもよりユーモアに乏しくても興奮があり、爽快感がある。3度目の正直、とは言うが、本篇が成功したのは何ら不自然なことではないのだ。
関連作品:
『バトルクリーク・ブロー』/『プロテクター』/『ラッシュアワー3』/『ダブル・ミッション』/『ベスト・キッド』
『ポリス・ストーリー3』/『ライジング・ドラゴン』
『ダーティハリー』/『ダウト 〜あるカトリック学校で〜』/『ウィ・アンド・アイ』
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