原題:“Non-Stop” / 監督:ジャウム・コレット=セラ / 脚本:ジョン・W・リチャードソン、クリス・ローチ、ライアン・イングル / 製作:ジョエル・シルヴァー、アンドリュー・ローナ、アレックス・ハインマン / 製作総指揮:スティーヴ・リチャーズ、ロン・ハルバーン、オリヴィエ・クールソン、ハーバート・W・ケインズ、ジェフ・ワドロウ / 撮影監督:フラヴィオ・ラビアーノ / プロダクション・デザイナー:アレクサンダー・ハモンド / 編集:ジム・メイ / 衣装:キャサリン・マリー・トーマス / 音楽:ジョン・オットマン / 出演:リーアム・ニーソン、ジュリアン・ムーア、ミシェル・ドッカリー、ルピタ・ニョンゴ、スクート・マクネイリー、ネイト・パーカー、ジェイソン・バトラー・ハーナー、アンソン・マウント、コリー・ストール、オマー・メトワリー、ライナス・ローチ、シェー・ウィガム / シルヴァー・ピクチャーズ製作 / 配給:GAGA
2014年アメリカ、フランス合作 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:松浦美奈
2014年9月6日日本公開
公式サイト : http://flight-game.gaga.ne.jp/
[粗筋]
ビル・マークス(リーアム・ニーソン)は航空保安官として、乗客を装って航空機に搭乗、機内での犯罪に対処する業務に就いている。家庭環境に悩みを抱え、業務に嫌気がさしているが、前職から続く経験によって、乗客の観察は怠らない。その日、ニューヨークからロンドンへと向かう便に搭乗したビルの眼に、怪しげな振る舞いをする者は数名見受けられたが、あれほどの大事件が発生するとは、当初は想像だにしていなかった。
異変は離陸後、真夜中に起きた。トイレで一服したビルの携帯端末に、謎の何者かからのメッセージが届く。この回線への侵入は連邦犯罪だ、と牽制するが、「トイレでの喫煙も犯罪だ」と切り替えされ、ビルは慄然とする。
そして“侵入者”はビルに対し、脅迫を仕掛けてきた。要求に応えなければ、20分おきに乗客をひとりずつ殺害する、というのである。対価は、1億5000万ドル。
携帯端末の回線に侵入するのは容易ではない。当初ビルは、自分と同様に登場している航空保安官ハモンド(アンソン・マウント)の悪戯の可能性を疑ったが、ハモンドの端末にはビルに届いたメッセージの記録はなかった。
安全を優先し、ビルは機長と運輸保安局に通達する。両者とも重大事件への発展を疑っていたが、ビルは乗客の調査を要求、自分はCAのナンシー(ミシェル・ドッカリー)と、ビルにメッセージが届いた際に眠っており既に信用していた隣席の女性ジェン(ジュリアン・ムーア)の協力を仰ぎ、彼が携帯端末から脅迫犯に対する挑発を行っているときに、機内で怪しげな動きをする者がないか、カメラでの監視を頼む。
ビルの思惑通り、ある人物が不審な動きを見せる。それが誰か気づいたとき、ビルはすかさず動いた。自分が既に、犯人の掌の上で踊らされているとも気づかずに――
[感想]
jジャウム・コレット=セラ監督は『エスター』『アンノウン』と2作続けて優れたサスペンス映画を発表、注目を集める才能である。ひとによっては、このあたりでサスペンスを離れ、毛色の違うものに挑んだり、文芸ものから一気に巨匠へのランクアップを狙う、なんてことも考えたりしそうなものだが、ひとまずここまでセラ監督にブレはないようだ。本篇と同じくらいの時期に日本公開となった監督のプロデュース作品『記憶探偵と鍵のかかった少女』もそうだし、『アンノウン』に続いてリーアム・ニーソンを起用した本篇もまた優れたサスペンス映画に仕上がっている。
飛行中の航空機を舞台にしたことも、様々なコミュニケーション手段を取り扱っているのも、辛い過去からアルコール依存に陥っている人物が視点人物であるのも、それぞれはもはや手垢のついた題材と言えるが、巧みな構成と安定した語り口で魅せてしまう。
この作品、真相の隠し方にも上手さがあるが、しかし何と言っても巧いのは、本来乗客乗員を救う立場であるはずの主人公が疑惑の対象になってしまうプロセスだ。観客側からすれば主人公が無実なのはほぼ明白なのに、しばしば疑いを持ってしまうほどに展開がよく出来ている。そして、それ故に本篇の緊迫感は並ではない。
監督の先行作『アンノウン』からの続投ではあるが、リーアム・ニーソンを主人公に起用したことも効いている。演技派であるが故の、精神の安定を欠いた表情の上手さに、近年はアクション映画に頻繁に顔を出す彼のスキルが、一歩間違えば途端に血を見る羽目になりそうな剣呑な空気を生みだしている。こんなに貫禄があるのに、油断すると素手でも死者を出してしまいそうな危うさを表現できるのは、現在彼ぐらいのものではなかろうか。
引っかかるのは、本篇の内容があまりに入り組んでいるが故に、終わってみるとご都合主義的に過ぎるように感じられることだろう。犯人側はかなり頭脳派で、よほど緻密に計算したうえでこの計画に着手したーーと好意的に捉えたとしても、想定困難な不確定要素も散見され、やはりちょっと作り手に都合よく進みすぎている感は否めない。もしかしたら、構想ではきちんと考慮されているのかも知れないが、それが伝わりにくいのは瑕と言うべきだろう。
しかし、恐らくほとんどのひとは、観ているあいだはこんな問題を意識することはないはずだ。主人公が飛行機に搭乗して間もないくらいから惹きつけられ、クライマックスまで目が離せなくなる。唸らされるのは、前述したコミュニケーション手段ばかりでなく、この状況だからこそのギミックを可能な限り網羅して展開を組み立てていることだ。真犯人が判明するくだりも鮮やかだが、そこからなだれ込んでいくクライマックスは、まさにこの設定でいちばん観たかったシチュエーションだ。
セラ監督は『エスター』にせよ『アンノウン』にせよ、実は肝となるアイディアがあり、それを膨らませるかたちで成立している。本篇にもそういう面はあるが、だが先行2作よりもシチュエーションそのものを重視し、そこにアイディアを組み込むことで成立している性質がある。それはつまり、監督がよりサスペンスに重きを置いて本篇を作り上げたことの証左と言っていいのではなかろうか。或いは先行作で自らを評価してくれた観客に応えるものを作ろうとした結果であり、今後も路線を変えてしまう可能性もあるだろうが、ひとまずは優れたサスペンス映画の旗手として、しばらくは期待できそうだ。
関連作品:
『エスター』/『アンノウン』/『記憶探偵と鍵のかかった少女』
『THE GREY 凍える太陽』/『96時間 リベンジ』/『サード・パーソン』/『ブラインドネス』/『キャリー』/『アンナ・カレーニナ』/『それでも夜は明ける』/『ジャッキー・コーガン』/『チェンジリング』/『SAFE/セイフ』/『ボーン・レガシー』/『バットマン・ビギンズ』/『アメリカン・ハッスル』
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