『シグナル』

TOHOシネマズ新宿、ロビーに通じるエスカレーター手前に掲示されたポスター。

原題:“The Signal” / 監督:ウィリアム・ユーバンク / 脚本:ウィリアム・ユーバンク、カーライル・ユーバンク、デヴィッド・フリガリオ / 製作:ブライアン・カヴァナー=ジョーンズ、タイラー・デヴィッドソン / 製作総指揮:リチャード・ロスフェルド、ピーター・シュレッセル、リア・ブーマン、スチュアート・フォード、チャールズ・レイトン、ジョナサン・デクスター、ネイショー・アリ / 共同製作:ペーリー・コンウェイ / 撮影監督:デヴィッド・ランゼンバーグ,ACE / プロダクション・デザイナー:メイガン・ロジャース / 編集:ブライアン・バーダン / 衣装:ドロトゥカ・サピンスカ / キャスティング:メアリー・ヴァーニュー,CSA、ヴィーナス・カナニ,CSA / 音楽:ニマ・ファクララ / 音楽スーパーヴァイザー:アミン・ラマー / 出演:ブレントン・スウェイツ、オリヴィア・クック、ボー・ナップ、ローレンス・フィッシュバーン / ロー・スパーク・フィルムズ/オート・マティック製作 / 配給:PHANTOM FILM

2014年アメリカ作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:林完治 / PG12

2015年5月15日日本公開

公式サイト : http://signal-movie.jp/

TOHOシネマズ新宿にて初見(2015/05/19)



[粗筋]

 転校するヘイリー(オリヴィア・クック)の引っ越しのために、はるばる乗用車での旅を続けているニック(ブレントン・スウェイツ)は道中、“ノーマッド”と名乗る何者かからのメッセージを受信する。子の謎の人物はニックたちの所属するカリフォルニア工科大学のサーバに侵入を犯しており、ニックと友人のジョナ(ボー・ナップ)は濡れ衣を着せられかかったのだ。ヘイリーは「挑発に乗らないで」と諭すが、ふたりはメッセージのIPアドレスから発信場所を探り当てると、目的地までさほど隔たっていないのをいいことに、そちらへと車を走らせた。

 辿り着いたのは1軒の廃墟だった。建物はほとんど朽ち果てていたが、しかし地下室には思いのほかしっかりとしたサーバが設置されている。しかし、“ノーマッド”らしき人物の姿はない。

 ふたりが捜索しているとき、地上からヘイリーの悲鳴が聞こえてきた。彼女が残っていたはずの車内から、姿が消えている。動揺したニック達が彼女の行方を捜し始めた直後、彼らは信じがたい光景を目撃し――そして、意識を失った。

 目醒めたとき、ニックは奇妙に清潔な、閉鎖された施設にいた。廻りの者は皆、防護服に身を固めている。組織の責任者と思しき男(ローレンス・フィッシュバーン)はニックに、彼ら3人がある存在と接触し、何かに感染した可能性がある、という。そのために彼らを隔離し、調査を行っている、と男は言った。

 最初は素直に従ったニックだったが、次第に違和感を覚え始める。何故ここまで完璧に隔離されているのか。男は何故、どうでもいいような質問ばかり繰り返すのか。そして、ヘイリーやジョナはどこにいるのか……?

[感想]

地球、最後の男』は、すごくざっくり表現すれば“SFっぽいものが撮りたくて作った映画”だった。そういう意味では成功しているし、変な魅力はあったのだが、語ろうとしているものを説明し切れていない、という点であまりに観客を選んでしまうし、作品としても評価しにくいものになってしまった。

 それを踏まえたが故なのか、本篇の構想は前作よりもストレートだ――いや、前作もそもそも考え方はシンプルだったし、にも拘らず伝わりにくい描き方をしている、という意味においては前作と一緒なのだけど、青春映画の定石をトレースした序盤、随所にある方向性のオカルト知識をちりばめた中盤以降の展開は、予測が困難ながらも登場人物に感情移入しやすく惹きこまれやすい展開になっている。

 そして、恐らくは呆気に取られる人も多いはずのあの結末も、抽象的であった前作と比較すると、決して突飛ではない。「なんで?」と思うかも知れないが、観終わったあとに、本篇の中で奇妙に感じた描写の数々を振り返っていただきたい。あの結末を踏まえると、何故ああなったのか納得がいく部分がけっこうあるのだ。たとえば、防護服の男の持ち物や、施設を脱出したあと、訪れた場所で目撃する奇妙なガジェットは、あの結末を考慮すると当然なのである。

 ただ、本当にこのあたり、積極的に解釈する意欲がないと辿り着かないだろうし、掘り下げて考えたい私でも、主人公達の身に起きた“変化”についてはあんまり説明がつけられいずにいる。私の掘り下げが甘い、というのもあるだろうが、その辺の説明が足りない、或いはあまり深く考えていない可能性も疑われるのが本篇の弱さだろう。底が知れないキューブリックの『2001年宇宙の旅』や、徹頭徹尾意識的に詰めていないからこその迷宮感に魅力があったデヴィッド・リンチと比較すると、もうひとつ謎に魅力がないように思えるのが惜しいところだ。広告でも比較している『クロニクル』を、作り手自身が変に意識してしまい、中途半端に影響された……というのは私の穿ちすぎた印象かも知れないが。

 しかし本篇の魅力は、SFに対する憧憬を匂わせるストーリー以上に、異様なほどクオリティの高い映像にこそある、と断じたい。

 序盤はロードストーリー風、中盤以降はものが乏しく白々とした閉鎖空間と、奇妙に荒涼とした広野が舞台になっており、いずれも決してモチーフとして特別なものではない。だが本篇は、どんなシチュエーションであっても絶妙なアングルを探し出し、美しいヴィジュアルで見せてしまう。序盤の道中、ニックとヘイリーが深刻な話をする際に赴く渓谷の光景など、普通に美しく撮れる場面は当然だが、宿にて“ノーマッド”に未だ追われていることに気づくくだりの見せ方や、POVホラー映画めいた趣向を採り入れた廃屋潜入のくだりなど、お定まりのモチーフを撮る上での構図が絶妙に決まっている。中盤以降のヴィジュアルの見せ方も巧みで、物語が持つ以上に、特異な設定に基づくSFスリラーの空気を演出している。また、そうしたヴィジュアルが物語の内容にうまくリンクし、一部は映像自体が展開にもしばしば影響していることにも注目したい。

 広告で採り上げたような近年の名作、スタンリー・キューブリックデヴィッド・リンチに並ぶほどの天才、とまでは正直なところ思わない。ただ、清々しいほどに一途な名作SFへの憧れと、その発想を魅力的に見せるヴィジュアル構築のセンスは間違いなく秀でている。『地球、最後の男』はどうしても積極的に薦める気にはなれないが、今後にわかに開花しそうな才能の片鱗を窺わせる本篇は、いちど触れておいてみては、という程度には薦めておきたい。傑作、とは呼べないまでも、魅力が閃いていることはたぶん解っていただけるはずだ。

関連作品:

地球、最後の男

SUPER8/スーパーエイト』/『マン・オブ・スティール

2001年宇宙の旅』/『ファンタスティック・フォー:銀河の危機』/『地球外生命体捕獲』/『オブジェクティブ』/『THE 4TH KIND フォース・カインド』/『月に囚われた男』/『クロニクル

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