監督&編集:坂西伊作 / 脚本:松本きょうじ / プロデューサー:西本龍治、清水一光 / 撮影:夏野大介 / 美術:黛純一 / 音楽&主演:岡村靖幸 / 出演:金山一彦、藤井かほり、戸川純、柄沢次郎、石田太郎、小林千尋、花岡由希、鈴木明代 / 配給:Uplink / 映像ソフト発売元:Epic Records Japan
1989年日本作品 / 上映時間:1時間21分
1989年12月23日日本公開
2012年12月19日映像ソフト最新盤発売 [DVD Video『20世紀と伝説と青春』に収録:amazon]
[粗筋]
ミュージシャンを志す岡村(岡村靖幸)は、しかし基本、常に女の子たちに目移りしながら漫然と暮らしている。いちばん楽しいのは、ピザ屋でバイトしているキンタ(金山一彦)と、芸術家志望のエリコ(藤井かほり)との3人でつるんで遊ぶことだった。
ちかごろエリコはあまり元気がない。訊けば、手懸けているオブジェが理想の通りに仕上がらずに悩んでいるらしい。岡村とキンタはエリコを力づけるために遊びに誘い出し、あまり性に合わない美術鑑賞にも付き合う。
少し元気を取り戻すと、今度はエリコのほうから江ノ島に出かけよう、と声をかけた。大袈裟なくらいにはしゃぐ岡村だったが、訪れた贅沢なレストランで、思いがけない事実を知らされる……。
[感想]
訳あって、幾度も活動停止の憂き目を見ながらも、いまなお現役で活躍、“再ブレイク中”という評価もあるミュージシャン・岡村靖幸の、その最初の絶頂期に、彼を主演に据えて撮影された作品である。
こういう経緯に加え、監督はPVを手懸けてきた人物であり、長篇映画としては本篇以外に特に残していない――となると、正直なところ侮ってしまう。あに図らんや、そういうつもりで観賞すると、本篇は思いのほか面白い。
粗筋が短いのは、実際それほど複雑な筋がないからだ。心理描写や意味深なイメージを挿入して膨らませているが、ざっくり表現すると、ミュージシャン志望の男が自分の寂しさを自覚する、それだけの話なのである。
なのに妙に観続けてしまうのは、ひとえに“岡村靖幸”というキャラクターのユニークさを、本篇が存分に引き出しているからだろう。
登場するなり意味もなく踊り出して、二人掛けのブランコで遊び始める。通りかかった女の子たちを誘って座らせたかと思ったら、すぐ別の女の子に目移りをする。やたら気が多いように見せて、しかしエリコに対しては妙に純情そうに振る舞い、親友キンタの前では常識的なことを口にしたり、と落ち着きなく終始物言いが不安定だ。
しかしこの岡村の人物像、彼の音楽のファンにはきっとあまり違和感がない。何故なら、歌の中の視点人物とメンタリティが似通っているからだ。
岡村靖幸というアーティストが普段からああなのか、は解らないが、彼が発表してきた歌の主人公と本篇の岡村は見事にシンクロする。とことん女の子好きのエロ男で、突飛なことはするがどこか常識的で生真面目。映画の中で幾つかの楽曲が引用されているが、それが映像とピッタリ合うのも当然だろう。もしかしたら当時、岡村靖幸の素顔に接する機会があったとしても、ここまでイメージが一致することはなかったかも知れない。
そういう、歌の世界での“岡村靖幸”というものの魅力をちゃんと切り取っているから、ファンにとっては間違いなく楽しい。たとえ彼のファンでなかったとしても、その奇妙で愛嬌のある振る舞いに目を惹かれてしまうはずだ――或いは猛烈な拒否反応を示すか。よっぽどの少数派だろうが、もし岡村靖幸の音楽を知らずに映画を観て、キャラクターに惹かれた、というなら、音源に接してみることをお薦めしたい。
とはいえ、お話としてはかなり不満のある出来だ。最大の問題は、いちばんの重要人物であるエリコの行動原理が最後まで見えないことだろう。制作に悩んでいるところまではいいのだが、江ノ島に岡村たちを誘った意味が解らないし、そのあとにろくすっぽ説明がないのも、観客に解釈を委ねた、と好意的に捉えてもやり方がお粗末だ。ここでの動機の設定が曖昧だから、終盤の展開も、せっかく序盤の描写と対比させる工夫をしているのに、充分に活かされていない。
当時の広告に“岡村靖幸第1回主演作品”と書かれているのに結局これ1本止まりとなり、リヴァイヴァル上映に際しての岡村自身のコメントに“恥部”という表現が(たとえ照れ隠しだとしても)出てしまうのも仕方のない出来、とは言えるが、そこまで言ってしまうくらいに、“岡村靖幸”というキャラクターが剥き出しになった、珍重すべき作品だ。
冒頭に記したように、岡村靖幸は繰り返し活動停止の危機に見舞われながらも、その才能を惜しむ人々の声を受けて復活、精力的にライヴ活動を継続し、2016年1月には久々の完全オリジナル・アルバムを発表した。過去のアルバムもリイシューが実現しており、実は本篇もEpic在籍時代の映像をまとめたボックスセットに収録、という形で復刻されている。とはいえこれも生産限定であり、現在廉価で入手する手段はない。最近ファンになった方のためにも、もっと入手しやすい形で復刻されることを願いたい。
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