監督:黒澤明 / 脚本:菊島隆三、黒澤明 / 製作:田中友幸、菊島隆三 / 撮影:宮川一夫 / 美術:村木与四郎 / 照明:石井長四郎 / 録音:三上長七郎、下永尚 / 音楽:佐藤勝 / 剣技指導:杉野嘉男 / 剣技:久世竜 / 振付:金須宏 / 出演:三船敏郎、仲代達矢、山田五十鈴、司葉子、土屋嘉男、東野英治郎、志村喬、加東大介、藤原釜足、河津清三郎、太刀川寛、夏木陽介、沢村いき雄、渡辺篤、藤田進、羅生門綱五郎、ジェリー藤尾 / 配給&映像ソフト発売元:東宝
1961年日本作品 / 上映時間:1時間50分
1961年4月25日日本公開
午前十時の映画祭9(2017/04/01〜2018/03/23開催)上映作品
2015年2月18日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2017/6/26)
[粗筋]
その宿場町は、ふたつの賭場の縄張り争いによって崩壊寸前となっていた。
もともとは呉服問屋であった馬目の清兵衛(河津清三郎)が取り仕切っていたが、跡目を倅の与一郎(太刀川寛)に継がせる、と言い出したことに、一番の子分であった新田の丑寅(山茶花究)が反発、新たに賭場を興してしまった。結果、宿場町は毎日のように刃傷沙汰が続き、棺桶屋(渡辺篤)ばかりが大繁盛、町としては死に体に等しい有様であった。
そこにある日、ひとりの浪人がふらりと現れた。締め切りの飯屋の戸を叩き、タダ飯とともに店の主・権爺(東野英治郎)が語る宿場町の事情に耳を傾けると、こう嘯いた。
「おれはここが気に入った。ここでたっぷり稼いでやろう」
そう言うと、男は往来で双方に呼びかけると、殺到した丑寅の博徒3人をあっという間に切り捨てた。そして清兵衛に、自分を売り込んだのである。
清兵衛は感服し、男の言い値で雇い入れるが、直後に女房のおりん(山田五十鈴)と密談、すぐさま丑寅に討ち入り、あちらを潰したあとで、隙をついて男を殺すことを決めた。
かくして出入りが始まった――が、男はすぐに清兵衛の陣を離れた。清兵衛夫婦の密談を盗み聞きしていたのである。いまさら引っ込みのつかない両陣営がそのまま互いを潰し合うか、と思ったそのとき、八州廻りの到来が知らされ、事態は有耶無耶になってしまう。
八州廻りの目をごまかすため、宿場町に一時的な平穏が訪れるが、その男――桑畑三十郎(三船敏郎)はまだ留まっていた。博徒たちを共倒れにするため、三十郎は更なる奇策に打って出る――
[感想]
痛快、である。
黒澤明監督の時代劇といえば本篇よりもまずは『七人の侍』が思い浮かぶが、本篇はだいぶ趣が違う。冒頭こそどこか不穏な雰囲気を帯びているものの、舞台となる宿場町に着いたあたりから、予想外の展開が頻出する。振り回されていせいでもあるだろうが、異様に狂騒的で、陽性に感じられるのだ。
それもこれも、ほとんどは物語の中心人物たる“桑畑三十郎”の言動によるところが大きいのは、観れば一目瞭然だ。
この男、とにかく言動が型に嵌まらない。賭場の連中のみならず、権爺やのちのち登場する妻を奪われた男らに対しても、人を食った物言いをして、随所で突拍子もない振る舞いに出る。
観ていると次第に、三十郎が策略で賭場を潰すことを目論んでいることは窺えるのだが、その真意については多くを語ろうとしない。途中から三十郎の狙いを悟って対策を講じる者も出て来るが、本篇の展開が読めないのは三十郎が、どういうつもりで振る舞っているかが不明であればこそだ。
目的は不明なままではあるが、しかし明らかに悪党である賭場の連中が終始翻弄されるさまは、その都度胸のすく想いがする。最初は理由が解らないからこそ、その影響が明確になったときの爽快感は大きい。賭場の男たちに妻を奪われた百姓小平(土屋嘉男)の為体に「ああいう男は大っ嫌いだ」と吐き捨てたあとの、終盤近くの振る舞いには照れさえも垣間見えていっそ微笑ましい。本篇の面白さは、三十郎によるところが大きい、と断言する所以である。
他方で、『七人の侍』などに通じる、練りこまれた人物造型の魅力も豊かだ。口は悪いが宿場町の現状を憂い、三十郎に対して気遣いを示す飯屋の権爺。町で唯一儲けを出しているため権爺とは険悪そうでいて、やたらと顔を出し、事態の変遷に隠すこと泣く一喜一憂する棺桶屋。悪党側にも、知恵が足りないゆえに三十郎にたびたび利用されることもあって妙に憎めない亥之吉(加東大介)、翻弄されるがままの博徒のなかでただひとり三十郎の奸計を見抜いて裏を掻く卯之助(仲代達矢)などが際立っているが、他の面々にしても、目立ちすぎていないだけで、きちんと性格を考えたうえで物語を組み立てている。
そうした、一貫した丹念な作り込みで描かれるストーリーは、ひたすら意外性と爽快感を追求していて、観終わったあとの満足感が素晴らしい。何なら、爽快感だけを考慮すれば『七人の侍』を凌駕するほどだ。
本邦の時代劇ながら、本篇の湛えるムードは時代劇というより西部劇のそれに似ている。ふたつの賭場のあいだにある広場を中心として対決の構図を組み立て、随所で演出として空っ風が吹き荒れる光景は荒野を思わせる。そうした点も、のちにセルジオ・レオーネ監督を無断ながら『荒野の用心棒』として西部劇にリメイクさせる理由のひとつとなっていたのかも知れない。
だがそれ以前に本篇は、時代劇が好きだろうときらいだろうと、精通していようがいまいが関係なく、見る者を惹きつけ翻弄し、問答無用に楽しませる力が備わっている。尺の長さゆえに、どうしても少々敷居を高く見せてしまっている『七人の侍』よりも本篇は取っつきやすく親しみやすい。黒澤監督らしい完璧主義で固めつつも、しかし非常に軽快でユーモアに彩られた本篇も、『生きる』や『七人の侍』に劣らぬ傑作だと思う。少なくとも、個人的には『七人の侍』よりも本篇のほうがより素直に「好き」と言い切れる。
関連作品:
『七人の侍』/『赤ひげ』/『羅生門』/『姿三四郎』/『生きる』
『女王蜂』/『犬神家の一族(2006)』/『座頭市 THE LAST』/『東京暮色』/『奇談』/『死者との結婚』/『ゴジラ(1954)』/『陸軍中野学校』/『秋刀魚の味』
『荒野の用心棒』/『椿三十郎(2007)』
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