原題:“Premonition” / 監督:メナン・ヤポ / 脚本:ビル・ケリー / 製作:アショク・アムリトラジ、ジョン・ジャシュニ、アダム・シャンクマン、ジェニファー・ギブゴット、サニル・パーカシュ / 製作総指揮:アンドリュー・シュガーマン、ニック・ハムソン、ラース・シルヴェスト / 撮影監督:トーステン・リップシュトック / 美術:デニス・ワシントン / 編集:ニール・トラヴィス,A.C.E. / 衣装:ジル・オハネソン / 音楽:クラウス・バデルト / 音楽監修:バック・デイモン / 出演:サンドラ・ブロック、ジュリアン・マクマホン、ニア・ロング、ケイト・ネリガン、アンバー・ヴァレッタ、ピーター・ストーメア、シャイアン・マクルーア、コートニー・テイラー・バーネス / 配給:KLOCKWORX
2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:菊地浩司
2009年01月31日日本公開
公式サイト : http://shuffle-movie.com/
[粗筋]
夫ジム(ジュリアン・マクマホン)が出張で留守の朝。子供たちを学校に送ったあと、毎日の家事に追われていたリンダ(サンドラ・ブロック)を、突如保安官が訪ねてきた。昨日、ジムが大きな事故に遭い、即死したというのである。
母ジョアンヌ(ケイト・ネリガン)の助けを借りてその日はどうにか乗り切ったリンダだったが、あくる朝、彼女を更なる衝撃が襲った。書斎に泊まっていたはずの母は見当たらず、代わりに食堂に、平然とコーヒーを啜る夫の姿があったのだ。困惑しながらも、あれは酷い悪夢だったのだと捉えて、リンダはいつもの生活を送る。やたらと身体を気遣う妻に、ジムは戸惑いの表情すら浮かべていた。
しかしその夜、ふたたび眠り、目醒めたリンダが階下に降りてみると、そこには母や親友アニー(ニア・ロング)ら友人知人が喪服を身にまとって彼女を待ち構えていた。更に、洗面所には見覚えのない、自分のために処方された精神安定剤があり、長女の綺麗な顔に大きな傷がついている。
昨日は生きていたはずなのに、本当に夫は死んでいるのか? 葬儀のために教会に訪れたあともなお疑念の拭えなかったリンダは、運ばれた棺のなかを無理矢理に覗きこもうとするが、その中には確かに、変わり果てた夫が収められていた。
いったい、リンダの身に何が起きているのか。混乱し動揺した彼女を、更に衝撃的な展開が待ち受ける……
[感想]
粗筋では具体的に触れなかったが、一口に言えば、夫の死んだ日を中心とした1週間が“シャッフル”される、というユニークなアイディアに基づいて構築された物語である。
そのアイディア自体は悪くない。映画は木曜日から始まるが、夫の死の衝撃に打ちひしがれて眠りに就いた翌日は月曜日、夫はまだ生きている。しかしふたたび眠り、目醒めてみると今度は土曜日になっており、葬儀の準備は済んで、更には見覚えのない精神安定剤、娘の傷など、謎めいたモチーフが鏤められている。物語はこうして提示された要素がどこから来るのか、という謎解きとサスペンスで観客を牽引し、やがて日付がシャッフルされている事実に気づくと、当然のように“夫の命を救えないか”という方向に動いていくわけだ。
本篇の場合、そこに情緒的なドラマを付け加えて、表現に奥行きを持たせている。そうして辿り着く結末と浮き彫りになるテーマも絶妙だ。
と、拾い上げていくとかなり出来のいい作品のように聞こえるだろうが、しかし実のところ、本篇はかなり根本的なところで破綻している。
主人公リンダは、奇妙な事態に動揺しながらも、やがて出来事に法則性を見出して、どうにか対処しようとする。その過程で判明した“法則性”と、細部の展開に、本篇は致命的な矛盾を来しているのだ。
いちおう仕掛けが主軸となっている作品であるため、あっさりネタに抵触してしまうので詳述することは避けるが、クライマックスの出来事から敷衍して考えていくと、いくつも辻褄の合わない事実があるのに気づくはずだ。観たけど気づかなかった、という方のために仄めかしておくと、娘の顔に傷がついたタイミングと、精神安定剤が洗面台に放置された日付、そして鴉の遺骸あたりに着目すると解り易いのではなかろうか。
主人公たちの生活環境に特殊な設定を付け足さず、伝わりやすさ、リアリティを考慮しているのは察せられるし、姿勢としては正しいのだが、肝心のアイディアを下支えするための考証が致命的に足りていない。この手の特殊設定を用いたスリラーに馴染みのある人間なら一目で解るような矛盾を残してしまっている時点で、本篇は失敗作と呼ぶほかないのだ。
前述したとおり、日付をシャッフルするというアイディアや、そこから導き出そうとした主題はいいし、個人的にラストシーンも評価はしている。ただ、そこに説得力を齎すための検証作業を充分に行っていないのが問題なのである。
恐らく、私が感じた疑問や失敗点を補ったところで、終盤の展開や結論について不満を抱く向きはあるだろう。しかし少なくとも説得力は違っていただろうし、派手さはないが印象深い良作として記憶に留まっていたはずだ。本篇の出来映えでは、着眼点の良さやテーマの選択の確かさよりも、細部の矛盾について語り合い検証するほうが愉しい、と言わざるを得ない。
同じ作品を観た別の人と語り合ったり、まだ観ていない人に敢えてネタばらし込みで説明する愉しさが味わえる分だけ、観てもある意味損はしない1本である、と言うことも出来る――そんな扱いは製作者にとって本望ではないだろうけれど。ちゃんと丁寧に検証していれば、特殊状況を題材にしたスリラーの佳作と呼べる出来になっていただろう、と思えるだけに、実に勿体ない作品であった。
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