『「超」怖い話 判型:文庫判 レーベル:竹書房文庫 版元:竹書房 発行:2006年8月4日 isbn:4812427738 本体価格:552円 |
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年二回刊のペースが定着した、老舗の実話怪談シリーズ2006年夏の新刊。次巻以降は加藤一氏と平山夢明氏と交互に編著を手懸けるかたちに移行するとのことで、竹書房移籍以降を支えてきた二人体制最後の巻でもある。
共同編著、と言っても、ある時期からリストが公表されるようになった各編の執筆担当者の比重を見ると、あくまでメインは平山氏、加藤氏は補助的にエピソードを付け足している印象だった。加藤氏のブログを拝見していると、届けられた平山氏の原稿を版に組むかたわらで自身のぶんを加え、校正を行っているようなので、正確には“編”という肩書きは加藤氏のほうが相応しかったようにも思う。 いずれにせよ、自殺行為にも似た過密スケジュールでの執筆が習いとなったような平山氏と、同氏の原稿をも含めて編集者に近い作業も担当していた加藤氏による共同執筆は、うまくはいっていたものの傍目にも綱渡りの感は否めなかった。そういう内実を垣間見ているから、私のようなマニアは多少誤植や整理の悪い文章があっても許容していたが、初見の読者には悪い先入観を齎すことは避けられまい。 それ故に、これまでシリーズを支えてきた両氏が別々に『「超」怖い話』を手懸ける、というのは個人的には歓迎したい。平山氏の驚異的な引きの強さと、加藤氏の実験性と冒険心に飛んだ本作りとが交互に提示される『「超」怖』というのも、また新しい魅力が発揮できるのでは、という期待を感じるのだ。 そういう分岐点に位置づけられた1冊であるせいか、内容的にもここ最近の両氏の作品傾向がいい具合で混ぜ合わされた、集大成的な雰囲気を備えたなものになっていると思う。相変わらず著しく生々しい狂気を伴った平山氏取材のエピソードと、そんな平山様式に影響されながらも、ぴりっとした味わいのある話を持ち込んでくる加藤氏のエピソードとのバランスが巧みだ。かと思えば『緑のお面』のような『新耳袋』に近いテイストの話、『トンネル』のような、おぞましさに不思議な哀しみも宿した一風変わった雰囲気の話もちらちらと交えており、多様性をも伺わせる。 この多様性が次巻以降は分散してしまう可能性もある、と思うとやや勿体ない気もするが、やはり個人的には新たな展開に期待を寄せたい。そして次の段階に赴く前に、集大成にも等しい仕上がりを提示した心意気に心から敬意を表する。間違いなく、シリーズでも一二を争う完成度を誇る巻である。 |
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