『魔界転生(上)(下) 風太郎忍法帖(6)(7)』
判型:文庫判 レーベル:講談社文庫 版元:講談社 発行:1999年4月15日 isbn:(上)4062645424 (下)4062645432 本体価格:各752円 商品ページ: |
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講談社版風太郎忍法帖第六回配本。当初の題名は『おぼろ忍法帖』といい、忍法帖の第15作品となる。のちに『忍法魔界転生』となり、更に映画化を経て現在の題名となった。忍法帖としては異色のキャラクター揃いながら、その代表として数えられている一作である。
発端は寛永十五年三月一日の夜、島原。掃討された切支丹軍の死屍累々たる中で、劇的な邂逅があった。小笠原家臨時雇いの軍監として掃討に参加した壮年の新免(宮本)武蔵と、彼に弟子入りせんと遠路遙々訪ねてきた由比民部之介――のちの由比正雪。その二人の眼前に展開した、妖幻奇異の光景。屍体が山積する地獄図絵の中を、二人の女を伴い徘徊するのは、討たれた筈の切支丹軍の参謀・森宗意軒。そして、女二人の腹腔を突き破って現出したのは、伊賀越えの復讐で名高い柳生流の名剣士・荒木又右衛門と、他ならぬ島原の乱の首魁・天草四郎時貞。武蔵らが呆然と見守る中、既に死していた筈の二人と、即座に宗旨替えした由比民部之介とを引き連れて、森宗意は海上に逃れ去った―― その後凡そ十年に渉り、森宗意軒は暗躍する。軍学者として道場を構えるまでに大成した由比正雪を傀儡に、類い希なる才覚を持ちながらその大望を存分に満たすこと適わないまま死期を迎えつつある剣豪・勇士たちに巧みに擦り寄り、魔術を取り入れた忍術・魔界転生によって彼等を復活させていった――柳生新陰流に学び、優れた剣技によって丸亀における仇討ちを果たしながら、若くして労咳に冒された田宮坊太郎。島原の乱以後も力量に見合った仕官適わず、細川藩にて晩節を汚しつつあった新免武蔵。将軍家指南役として立身出世を果たしながら、その安穏たる生涯に石舟斎嫡流としての矜持を誇示しきれず煩悶する柳生但馬守宗矩。「その槍法神に入る」とまで唱われながら、但馬守ら数名の剣士に一矢報いることのならなかった宝蔵院胤舜。(……ちゃんと字、見えてます?)柳生家の正統でありながら、激烈な性情により尾張に隠棲することを余儀なくされた柳生如雲斎利厳。 そして、彼等を影のように率いた森宗意軒は、最後に「南海の竜」紀伊大納言頼宣に取り入り、転生へと誘った――全ては徳川家擾乱せしめんとの目論見。森宗意の真意を疑いながらも転生の誘惑断ち難く、頼宣は転生の器となる女を領内に求める。その網にかかった三人の女がいた――奇しくも彼女達は皆、尾張柳生の本拠に於いてある男の剣術指南を受けていた身であった。男の名は柳生十兵衛三厳。但馬守宗矩の嫡男にして昼行灯、だが真剣を持っては無双と噂される剣技の持ち主である。十兵衛の詭計が奏功して生じたルールの許、ここに転生衆七名と十兵衛の、熾烈な闘争が幕開く。 忍法帖シリーズとして計上されながら、主人公たちは忍者ですらなく、実際に活用される忍術も森宗意軒の「魔界転生」と天草四郎の「忍法髪切虫」のみ。「魔界転生」というのは、ほぼ同時代に生まれながら互いに相見える機会のなかった剣豪たちを一堂に会させ、風太郎忍法帖最強のヒーローと言われる柳生十兵衛と対決させるための大仕掛けに過ぎない。他の忍法帖作品に登場するようなエログロ描写にも乏しく、本編の興趣はこの「十兵衛」対「転生七人衆」との決闘に絞られていると言ってよいだろう。複雑に入り乱れる計略によって十兵衛と各々の剣士との純粋な一騎打ちというのは結局ただ一度しか実現しないのだが(最終章において新免武蔵と十兵衛はかの巌流島を彷彿とさせる一戦を交える)、一切の部品が無駄とならない緻密な構成によって何れの戦いも読者の手に汗握らせ、巻置く能わざる迫力を伴っている。一人また一人と見方である柳生十人衆(自称)を喪いながら、じわじわと頼宣、引いては森宗意軒を追い詰めていく十兵衛。物語は意表を突く結末まで一切の予断を許さない。 成る程と高評も頷かされる面白さ。あれこれ語るより実際に読んでくれ、と言う他ない。エログロが殆ど描かれていない分、それが理由で忍法帖を忌避していた向きにとっても好個の入門作となり得るだろう。また、これは偶然であったが、深川同様に「かげろう忍法帖」「野ざらし忍法帖」「くの一忍法帖」の順序で読んでいくと、実に興味深い年譜、人物相関図が読み手の裡に形成される。果たしてそれは風太郎の計算によるものなのか――真偽は量りがたいが、それこそ忍法帖世界の完成度の高さ、奥深さを何よりも如実に証明していると言えよう。 ともあれ、今更の感は禁じ得ないが、改めて断言しておこう――本編を読まずして、忍法帖を語るなかれ。 |
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