『ワイルドカード』

ユナイテッド・シネマ豊洲、スクリーン2の前に掲示されたポスター。

原題:“Wild Card” / 原作&脚本:ウィリアム・ゴールドマン / 監督:サイモン・ウェスト / 製作:スティーヴン・チャスマン / 製作総指揮:ニック・マイヤー、マーク・シャバーグ、カシアン・エルヴィス、ロバート・アール、ブライアン・ピット / 撮影監督:シェリー・ジョンソン / プロダクション・デザイナー:グレッグ・ペリー / 編集:バドレイク・マッキンリー、トーマス・J・ノードバーグ / 衣装:リズ・ウォルフ / アクション・コレオグラファーコーリー・ユン / 音楽:ダリオ・マリアネッリ / 出演:ジェイソン・ステイサム、マイケル・アンガラノ、マイロ・ヴィンティミリア、ドミニク・ガルシア=ロリド、アン・ヘッシュソフィア・ベルガラホープ・デイヴィススタンリー・トゥッチ、マックス・カセラ、ジェイソン・アレクサンダー、フランソワ・ヴァンサンテッリ / 配給:KLOCKWORX

2014年アメリカ作品 / 上映時間:1時間32分 / 日本語字幕:平井かおり / PG12

2015年1月31日日本公開

公式サイト : http://wildcard-movie.com/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2015/01/31)



[粗筋]

 ラスヴェガスで、ニック・ワイルド(ジェイソン・ステイサム)は知る人ぞ知る存在だった。かつては優れた傭兵だったが、いまは“付添人”と称するボディガードまがいの便利屋めいた仕事で稼ぎながら、時折ギャンブルに手を出している。

 決まった家も持たないまま、ニックがこの街に居着いて5000日を数えた日、ホリー(ドミニク・ガルシア=ロリド)から連絡が届いた。彼女の自宅を訪ねると、ホリーは酷い怪我を負っていた――仕事で向かったホテルで、3人組の屈強な男達に目をつけられ、犯され執拗な暴行を受けたというのだ。

 そのホテル、ゴールデン・ナゲットはベイビー(スタンリー・トゥッチ)というマフィアが経営しており、ニックはかつてベイビーから組織に加わるよう誘われながら、今後お互いの仕事に口出ししない、という条件で拒絶した経緯がある。それを知っているはずのホリーの軽挙に憤るニックだったが、もう遅い。

 さんざんに辱められたホリーは、復讐のために、彼女を襲った3人の素性を調べて欲しい、とニックに訴える。いちどは拒絶したニックだったが、引き受けたサイラス・キニック(マイケル・アンガラノ)というカジノ慣れしていない若者の付き添いを放り出して、ホリーを襲った3人の身許を調べる。

 カジノの裏も表も知り尽くしたニックにはたやすい仕事だった。その男はダニー・デマルコ(マイロ・ヴィンティミリア)。ベイビーと縁があるのも確実らしい。だが、ダニーに対して復讐したい、というホリーを止める術は、ニックにはなかった……

[感想]

 ジェイソン・ステイサムはいま、間違いなく当代きってのアクション・スターだろう。主演作が例外なく日本で封切られ続けている、ということがどれほど稀なことなのか、映画ファンならご存じのはずだ。そうするだけに見合う集客力があり、魅力を備えているからこそ、である。

 そしてここ最近、彼は更に新たな次元に踏み込もうとしている。アクション・スターでありながら、もはや闇雲に拳を構える必要もない。いつもと同じようなキャラクターで物語の中に組み込まれる、それだけで観客を惹きつけるだけのオーラをまとってしまった。

 本篇に先んじる、シルヴェスター・スタローンのプロデュース作品『バトルフロント』でもその傾向は窺えた。あちらではちょっとしたカーアクションも採り入れられていたが、アクションよりは特殊な立ち位置にいながらも、大切な家族を持つ男ならではの苦悩、葛藤が敵方の物語と共に描き出されていた。その人物像は、ステイサムがかねてより演じていたキャラクターの延長上にありながら、しかし着実に奥行きを増していた。

 本篇でステイサムが演じるニック・ワイルドに家族はない。それどころか、優れたキャリアを持ちながらも宿無し、という風変わりな人物像だ。あまり説明的な台詞はなく、何故ラスヴェガスでこんな暮らしをしているのか、これといった説明もなかなか施されない。ただ、その憂いを滲ませた立ち居振る舞いがやけに魅力的だ。

 出色なのは、本篇のステイサムが桁外れた強さと同時に、現実と妥協し、精神的には弱さも曝け出している点である。人を殺すのに飛び道具を必要としない技術を持っているが、しかしだからといって組織と対抗して生き延びられるわけではない。だからつかず離れずの間隔を保ち、それを踏み越えてしまったトラブルに直面して苦しむ。また何より、そもそも彼がラスヴェガスに居続ける理由そのものが、ニック・ワイルドという男の弱さを如実に表している。この弱さを直接的に描いたくだりにはアクションはおろか派手なひねりもないのだが、しかし惹きつけられてしまうのは、ジェイソン・ステイサムという俳優の持つ味わいと見事に一致しているが故だろう。

 観終わったとき、私が思い浮かべたのはローレンス・ブロックによるハードボイルド小説の名作『八百万の死にざま』だった。プロット自体に似通ったところがあるわけではないし、それどころか本篇にはプロットの主体となる謎もない。しかし、ステイサム演じるニックの置かれた状況と、その向き合い方があの名作を思わせる。

 アクション・コレオグラファーとして、香港アクションの名手コーリー・ユンが名前を連ねているだけに、格闘シーンのクオリティは高い。だが、この短めの尺にあっても僅かな分量しか占めていないので、“アクション映画”というのはちょっとためらわれる。だから本篇は、ジェイソン・ステイサムという俳優が身につけたオーラを存分に活かした、ハードボイルドの秀作と呼びたい。数多くのアクション映画に参加し、ただ佇んでいるだけでその重みを観客に実感させるだけの経験値を稼いできたステイサムだからこそ出来る映画だったのである。

 本当に、よくぞここまで大きくなってくれた。銀幕デビュー間もない頃からその姿を眼にしていただけに、個人的にはとても感慨深い1本である。

関連作品:

メカニック』/『エクスペンダブルズ2

明日に向って撃て!』/『目撃』/『ドリームキャッチャー

トランスポーター』/『トランスポーター2』/『ドラゴン・コップス -微笑捜査線-

ロシアン・ルーレット』/『ハミングバード』/『バトルフロント』/『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション

エージェント・マロリー』/『リアル・スティール』/『ディヴァイド』/『トランスフォーマー/ロストエイジ

ゴッドファーザー PART II』/『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』/『カイジ2 人生奪回ゲーム』/『グランド・イリュージョン

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