原題:“Black Rain” / 監督:リドリー・スコット / 脚本:クレイグ・ボロディン、ウォーレン・ルイス / 製作:スタンリー・R・ジャッフェ、シェリー・ランシング / 製作総指揮:クレイグ・ボロディン、ジュリー・カーカム / 撮影監督:ヤン・デ・ボン / プロダクション・デザイナー:ノリス・スペンサー / 編集:トム・ロルフ / 音楽:ハンス・ジマー / 出演:マイケル・ダグラス、アンディ・ガルシア、高倉健、ケイト・キャプショー、松田優作、神山繁、ジョン・スペンサー、ガッツ石松、内田裕也、若山富三郎、小野みゆき / 配給:ユニヴァーサル映画×UIP Japan / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan
1989年アメリカ作品 / 上映時間:2時間5分 / 日本語字幕:戸田奈津子
1989年10月7日日本公開
2013年8月23日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
第2回新・午前十時の映画祭(2014/04/05〜2015/03/20開催)上映作品
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/07/28)
[粗筋]
ニューヨーク市警の刑事ニック・コンクリン(マイケル・ダグラス)は窮地に立たされていた。先ごろ麻薬密売人が摘発された際、押収された現金が減っており、ひとりの刑事が告発されたが、ニックも共謀の疑いをかけられ、査問にかけられていたのだ。終始否認をしているが、血の気の多いニックは査問担当官にも食ってかかり、余計に立場を悪くしてしまう。
そんな矢先、同僚のチャーリー・ヴィンセント(アンディ・ガルシア)と共に立ち寄った店で、ニックは事件に遭遇した。マフィアと取引をしていたらしいヤクザの男ふたりを、別の若いヤクザが殺害したのだ。ニックは咄嗟に追跡し、どうにか逮捕することに成功する。
上司は佐藤(松田優作)というこの若いヤクザの護送をニックとチャーリーに委ねた。騒動の渦中にあるニックを一時的に厄介払いするのが狙いだったようだが、しかし日本に到着するなり、思わぬ失態を犯してしまう。ニックたちが佐藤を引き渡したのは、佐藤の部下たちが扮したニセ警官だったのである。
ニックとチャーリーは現地警察に協力を申し出るが、反応は冷淡だった。拳銃を取り上げられ、松本正博警部補(高倉健)の監視で行動することを余儀なくされる。佐藤は到着早々、クラブで部下のひとりを殺害するが、その現場検証にも、佐藤のアジトの捜索にもふたりはお客様扱いで、ろくに意見を求められることはなかった。
行動を制約されたなかで、しかしニックは現場に残されていたドル紙幣が偽札であることを発見、事件の背後には大規模な偽札計画があることを嗅ぎつけた。そんな矢先、悲劇がニックを襲う。目の前でチャーリーが罠にはまり、佐藤によって惨殺されたのである。
このことはニックばかりか、チャーリーと親しくなりつつあった松本警部補をも動かした。ふたりは本部とは別に、佐藤の行方を追って捜査に乗り出した――
[感想]
当時はまだ映画にあまり関心のなかった私でも、大阪で撮影が行われたことや、それが結果的に若き名優・松田優作の最期の仕事となったことなど、大きな話題になったのは朧気に記憶している。そのわりに、やはり日本の描写は微妙だった、という評価も耳にした覚えがある。
確かに、本篇における日本の様子は全般に違和感がある。特にクラブのあり得ないデザイン、いったいどういう栽培をしているのかまったく見当がつかない畑あたりに顕著だ。大阪ロケを敢行したところ以外、セットを用いた部分がことごとく奇妙なのである。日本の習慣にしても、まあ間違っていないけどだいぶ簡略化されていて実際に生活している者としてはずれているように感じてしまう。
しかしいま、多くの映画を鑑賞したあとで改めて鑑賞すると、確かに変だがどうしようもないレベルではない。日本の文化をある程度学び、理解したうえで物語を築いているのが窺える。ヤクザが述懐する義理人情もそうだが、同じ文脈で語られる敗戦が日本にもたらした影響や、警察内部の人間関係についての描写には実態に学んだリアリティがきちんと備わっている。それらを、なまじ親しんでいる日本人とは異なるアングルから表現している点は評価されるべきだろう。
日本を舞台に描く、ということが先行していたせいか、シナリオの作りは緻密とは言い難い。途中の悲劇やクライマックスの出来事が唐突に感じられないような布石は用いているし、基本的にそつがないプロットではあるのだが、警察ものとしては事件が単純すぎ、逃げる側の工夫も乏しいので、サスペンスとしての衝撃度はいまひとつだ。
だがそれを補ってあまりあるのが、登場人物の魅力である。マイケル・ダグラスとアンディ・ガルシアが演じるのはバディもの定番の、年齢も性格も異なるが息の合ったコンビ、といった趣だが、どちらも俳優としての腕は確かなので安心して観ていられる。それと絡む高倉健も、本邦のスターとしての貫禄を存分に示し、堅物だがスマート、アメリカの刑事と自分の上司たちとのあいだで揺れながらも終始毅然と、渋く立ち回る姿はハリウッドスターたちと見事に張り合っている。アンディ・ガルシアと一緒にレイ・チャールズを歌うくだりなど、日本映画では考えにくい見せ場だろう。
そして彼らを圧倒するほどに松田優作が素晴らしい。初登場の瞬間から観客の目を惹きつける立ち居振る舞い、スクリーンを介していても慄然とする眼力の強さなど、悪役だがメインキャストを圧倒するばかりのオーラに惚れ惚れとする。このとき末期のガンに冒され痛みと闘いながらの撮影であったとか、そのために本篇公開間もなく他界、存命であればその後もハリウッドでの活躍が期待されたことが惜しまれているとか、思い合わせると余計に感慨深いが、そんなことを抜きにしても“鬼気迫る”という形容詞がしっくりくる熱演ぶりである。この演技を焼き付けただけでも本篇には充分な価値がある。
シナリオの弱さはあるが、美術的センスに恵まれたリドリー・スコット監督ならではの完成されたヴィジュアルにテンポの良い語り口、そして男臭いがそれ故のクールさの横溢する描写は魅力に充ち満ちている。往年の名作映画をセレクトして全国上映する企画“新・午前十時の映画祭”に採用されたことからも解るように、長く愛される1本になるのだろう。
関連作品:
『アメリカン・ギャングスター』/『悪の法則』
『ウォール・ストリート』/『エージェント・マロリー』/『オーシャンズ13』/『理由』/『あずみ2 Death or Love』/『劇場版TRICK 霊能力者バトルロイヤル』/『コミック雑誌なんかいらない!』/『悪魔の手毬唄』/『ハサミ男』
『ラスト・サムライ』/『ロスト・イン・トランスレーション』/『バベル』/『ニンジャ・アサシン』/『GODZILLA ゴジラ(2014)』
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