原題:“Lone Survivor” / 原作:マーカス・ラトレル、パトリック・ロビンソン(亜紀書房・刊) / 監督&脚本:ピーター・バーグ / 製作:マーク・ウォルバーグ、ピーター・バーグ、スティーヴン・レヴィンソン、ランドール・エメット、サラ・オーブリー、バリー・スパイキングス / 製作総指揮:ジョージ・ファーラ、サイモン・フォーセット、ブレイデン・アフターグッド、ルイス・G・フリードマン、アディ・シャンカル、レミントン・チェイス、ステパン・マーティローシアン、マーク・ダモン、ブラント・アンダーセン、ジェフ・ライス / 撮影監督:トビアス・シュリッスラー / プロダクション・デザイナー:トム・ダフィールド / 編集:コルビー・パーカーJr. / 衣装:エイミー・ストフスキー / 音楽:エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイ、スティーヴ・ジャブロンスキー / 出演:マーク・ウォルバーグ、テイラー・キッチュ、エミール・ハーシュ、ベン・フォスター、エリック・バナ、アリ・スリマン、アレクサンダー・ルドウィグ、ジェリー・フェレーラ / 配給:東宝東和×Pony Canyon
2013年アメリカ作品 / 上映時間:2時間1分 / 日本語字幕:松浦美奈 / PG12
2014年3月21日日本公開
公式サイト : http://lonesurvivor.jp/
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/04/16)
[粗筋]
2005年6月。中東に駐留しているアメリカ海軍特殊部隊ネイヴィー・シールズに、極秘任務“レッド・ウィング作戦”の決行が命じられた。ビン・ラディンの側近であり、その残酷な手口によりアメリカ兵たちを多数殺害しているアフマド・シャーの暗殺が、その目的である。
出動したのは、マーカス・ラトレル(マーク・ウォルバーグ)、マイケル・マーフィ(テイラー・キッチュ)、ダニー・ディーツ(エミール・ハーシュ)、マシュー・“アクス”・アクセルソン(ベン・フォスター)の4名。彼らは早朝、アフガニスタンの荒野に投下され、山を越えて、タリバンの拠点付近に到達する。
用心深いシャーを捉え、任務を果たしたうえで離脱するためには、慎重に時機を窺う必要があった。交代で休息を取り、訓練で培ったプロフェッショナルとしての技術を駆使して気配を殺し、その機を待っていたとき――予想外の事態が起きた。
マーカスたちが潜伏していた山中に、放牧中の山羊飼いたちが入り込んできてしまったのだ。
山羊飼いたちを拘束したあと、マーカスたちは言い争いを起こす。任務を無事に遂行するためには、自分たちの存在が知られてはならない。障害は“排除”する必要がある。仲間たちのその意見に、マーカスは断固として異を唱えた。無関係な一般人を殺害し、その事実が露呈すればネイヴィーは国際的な非難を浴びることになる。危険を冒しても、彼らを解放すべきだ。まずいことに、険しい地形に妨害され、基地との連絡は取れず指揮官の判断は仰げない。決定権はマーカスにあった。彼は悩んだ挙句、山羊飼いを解放する。
恐れていた事態が起きたのは、それから間もなくのことだった。山中に、武装した集団が侵入し、静かにマーカスたちに接近してくる。通信を恢復し、基地に救援を求めるために、マーカスたちは別の山に向かおうとするが、見た目よりも険しい山を越えるよりも前に、挟み撃ちに遭う。そうして予定外の、そして終わりの見えない銃撃戦が始まった……
[感想]
『キングダム―見えざる敵―』といい『バトルシップ』といい、ピーター・バーグ監督は戦闘シーンや、男達の熱いドラマを描くのに合っているようだ。前者は戦争を従来と違った切り口で描いた作品だったが、銃撃戦が鮮烈な印象を残した。ゲームを原作に、SF的なモチーフで構築された後者も、だがクラシックな戦艦を引っ張り出すなどの外連味を交えつつ、重火器の応酬を迫力充分に魅せている。後者はユニヴァーサル・スタジオ100周年の記念作品として製作されたわりには興収が振るわなかったようだが、一部のアクション映画、娯楽映画ファンの心は捕らえ、決して評判は悪くない。
実話を土台とした本篇は、そういうピーター・バーグ監督にとって絶好の素材だったと言えよう。前述した作品で惹かれたようなひとなら、まず期待を裏切らない出来映えである。
序盤はまさに戦争映画のお約束めいた描写が続く。作戦に参加する兵士たちのリラックスした姿、他の同僚たちの交流を見せることで、これから起きる“事件”の深刻さを予感させる。潜入の過程を緻密に描いたところで、山羊飼いたちと遭遇したあたりから急激に状況は緊迫していき、以降エンディングまで気の休まる暇がない。
監督の真骨頂ともいえる銃撃戦の迫力は、まさに最前線に身を置いているような心地にさせる。登場人物たちが発砲する衝撃、着弾する響きに包まれ、迂闊に頭を上げれば途端に眉間を射貫かれそうな恐怖をもたらし続ける。包囲網を逃れるために断崖から転落し、岩に身体を打ちつける場面に息を呑み、いつしかボロボロになったネイヴィー・シールズたちに、いつしか観る側は仲間が傷つけられているかのような息苦しささえ覚えるはずだ。そこまで突き詰めているから、隊員がひとり、またひとりと命を落としていくくだりの熱も著しい。
ここまでのくだりだけでも充分な力強さ、衝撃をもたらすのは間違いないが、しかし本篇を“驚くべき物語”と言わしめるのはその先である――作品の公式な紹介では基本的に伏せられている内容なので、ここでも具体的には触れないでおくが、この経緯が実話に沿っている、ということが驚きだ。まるで運命に引き寄せられたかのような成り行きは、依然として続く壮絶な戦闘のなかで種類の異なる昂揚と感動を味わう。
作品のコピーにもあるが、タイトルこそ“Lone Suvivor”だが、一連の経緯を知ると、決してひとりでは生き延びることは出来なかった、と解る。斃れていった仲間たちがその都度に活路を開き、命を賭して通信を行い、マーカスに生きる道を残した。そして終盤の展開は、決して世界が単純に敵味方を分けられない、という当然の事実を突きつける。
緊迫した場面の中にも、ふ、と挿入されるユーモアや、迫力はあるが如何にもアクション映画めいた見せ方が、事実に基づいた作品にも拘わらず本篇をエンタテインメントのように感じさせてしまう――捉えようによっては、それが本篇の評価をやや落とす一因にもなっていると言えそうだが、しかしその匙加減こそ、『キングダム』のような社会派めいた主題でもエンタテインメントとして仕上げ、『バトルシップ』のようなマニアックな題材にも男達の熱いドラマを取り込んだピーター・バーグ監督の作家性なのだろう。社会派にしてエンタテインメントの血を熱く滾らせた、重量級の傑作となった本篇は、彼がこの数年に築きあげたキャリアの頂点と言える。
関連作品:
『キングダム―見えざる敵―』/『ハンコック』/『バトルシップ』
『テッド』/『2ガンズ』/『野蛮なやつら/SAVAGES』/『メカニック』/『ハンナ』/『ワールド・オブ・ライズ』
『君のためなら千回でも』/『セプテンバー・テープ』/『告発のとき』/『グリーン・ゾーン』/『マイ・ブラザー』/『ハート・ロッカー』/『ゼロ・ダーク・サーティ』
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