原題:“The Right Stuff” / 原作:トム・ウルフ / 監督&脚本:フィリップ・カウフマン / 製作:アーウィン・ウィンクラー、ロバート・チャートフ / 製作総指揮:アラン・ラッドJr. / 撮影監督:キャレブ・デシャネル / プロダクション・デザイナー:ジェフリー・カークランド / 編集:グレン・ファー、リサ・フラックマン、トム・ロルフ、スティーヴン・A・ロッター、ダグラス・スチュワート / キャスティング:リン・スタルマスター / 音楽:ビル・コンティ / 出演:サム・シェパード、スコット・グレン、フレッド・ウォード、エド・ハリス、デニス・クエイド、バーバラ・ハーシー、ランス・ヘンリクセン、パメラ・リード、キャシー・ベイカー、ヴェロニカ・カートライト、メアリー・ジョー・デシャネル、キム・スタンレー、ローヤル・ダーノ、スコット・ボーリン、ドナルド・モファット、レヴォン・ヘルム、スコット・ウィルソン、デヴィッド・クレノン、ジェフ・ゴールドブラム、ジョン・P・ライアン、ウィリアム・ラス、チャールズ・フランク、ミッキー・クロッカー、スーザン・ケイス、ミッティ・スミス、ジム・ヘイニー、ハリー・シェアラー / 配給:Warner Bros. / 映像ソフト発売元:Warner Home Video
1983年アメリカ作品 / 上映時間:3時間13分 / 日本語字幕:戸田奈津子
1984年9月8日日本公開
2011年2月2日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
第1回午前十時の映画祭(2010/02/06〜2011/01/21開催)上映作品
第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series1 赤の50本》上映作品
TOHOシネマズみゆき座にて初見(2011/07/13)
[粗筋]
終戦間もない1947年、田舎町にあるエドワーズ空軍基地で、チャック・イェガー(サム・シェパード)というパイロットが人類史上初めて“音速の壁”を破る快挙を成し遂げた。無名のこの男の活躍は、当初極秘にされていたが、この出来事をきっかけに多くの無謀な飛行機野郎がエドワーズに集まるようになる。
そんな彼らに強いスポットライトが当てられるきっかけをもたらしたのは、1957年、ソビエト連邦が実施した無人人工衛星打ち上げ計画の成功であった。すぐさま有人による宇宙飛行計画を実現させるべく動き出したアメリカ政府は、エドワーズ空軍基地のパイロットのなかから宇宙飛行士を選ぶことを提案する。
この頃、飛行機の最高速度は既にマッハ2を超え、熾烈な争いを繰り広げていた。「モルモットになりたくはない」と募集を拒むイェガーをよそに、総勢50名を越すパイロットが立候補し、アラン・シェパード(スコット・グレン)をはじめとする7名の宇宙飛行士が選出され、“マーキュリー計画”が始動した。
――だが、この計画は想像を超える多くの苦難が待ち受けていた。NASAの製造するロケットは実験段階で爆発、墜落を繰り返し、とうてい人を乗せられる状況ではない。人間を乗せることを考慮しない構造の“カプセル”に異議を唱え、チンパンジーを乗せての試験飛行を経て、ようやく有人飛行に踏み切ったのは、計画始動から4年を費やした1961年のことであった……
[感想]
3時間を超えるという尺に、観る前は正直たじろぐ。だが、いざ映画が始まると、ほとんど意識させられない。気がつくと作品世界に引きずり込まれ、3時間が過ぎてしまう。
展開が速い、というわけではない。むしろ、長さに見合うだけのヴォリュームは終始感じるのだ。だが、各々のエピソードや表情、表現の持つ牽引力がただ事ではない。
冒頭の、サム・シェパード演じるチャックが“音速の壁”に挑むくだりからしてそうだ。民間のパイロットが操縦の依頼をはねつけるのに対し、安月給の軍人がいとも簡単に引き受け、さらりと偉業を達成する。そこから堰を切ったように人が集まる一方で、米ソ間で宇宙開発競争が始まり、集まった精鋭たちに関心が向けられ……ひとつひとつの事柄は穏やかに綴られ、視点も随所で切り替わりながら、繋がりが実に滑らかだ。脚本と編集の力を感じさせる。
実話をベースにしているせいもあるのだろうが、ディテールの確かさが本篇に深みを生み出している。特に印象的なのは、エド・ハリス演じるジョン・グレンである。宇宙飛行士たちがマスコミに初めて紹介される場でユーモアと溢れる自信を披露したこの人物の妻には吃音癖がある。それ故に彼は、自らの見栄でなく妻に対する配慮から彼女をあまり表舞台に立たせない。陽性の彼が、物語のなかで最も激昂するのが、妻を無理矢理インタビューに駆り出そうとされた時だった、というあたりに、その人柄の源を窺わせる。
この作品に登場する宇宙飛行士、及びその候補生たちは皆、決して大義に燃える英雄として描かれていない。功名心や出世欲に駆られ、共に苦しく無意味にも思える訓練に耐えてきたが故の連帯感を結びながらも、宇宙船に搭乗する順序に一喜一憂し、先に仕事を成し遂げた同僚に嫉妬を抱き、といった具合に、宇宙開発初期だからこその高い注目に晒される一方で、彼らが仕事に悩みを持ち、家族の生活を守ろうとする普通の人間であることを、気負いなく、しかし丁寧に見せている。
この物語は、宇宙開発、有人による宇宙飛行が人類史上における偉業であること以上に、それがあくまで事業であり、職務である、ということを描いた点にこそ意義があるように思う。どうしても歴史的な意味合いに目が行ってしまうが、そこに携わる人々それぞれに異なった観点、信念、或いは適性に従って“職務”に挑む姿を的確に抽出しているから、共感を招き、長尺にも拘わらず観る者を惹きつける。
誰よりもそのことを象徴しているのは、音速の壁を突破して、エドワーズ空軍基地が“聖地”となるきっかけを作りながら、有人宇宙飛行計画に加わらなかったチャックだ。宇宙開発計画の進捗を、心なしか未練ありげな表情で窺いながら、新たな記録に挑む。本来は劇作家だったというサム・シェパードの飄々とした、存在感のある佇まいと相俟って、その表情は鮮烈で、かつ中心である有人宇宙飛行計画のドラマを巧みに補強している。
……とは言うものの、いざ本格的にロケットを発射する段になると興奮してしまうのは、男の子のサガかも知れない。そこにドラマの盛り上がりの頂点が来るようにきちんと仕掛けられているからでもあるが、SF的なガジェット、表現をこうした骨太の作品に組み込んで示されると、その熱さは並大抵ではない。終盤では何度もロケットが打ち上げられ、その都度別の飛行士のドラマと、直面するトラブルが描かれるが、そのたびに胸が熱くなる。
宇宙ステーションはおろか、月面着陸にも至らない時代の宇宙開発計画。だがその技術面よりも、実際に携わった人々の心情を重層的に紡ぎ、厚みと重みをもって描き出した圧巻の作品である――が、たぶんこうした、ある意味で無益な、意地で成り立つような壮大な計画を描いたSFなどが好きな人が鑑賞しても、感じるところの多い1本だろう。
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