原題:“The Mechanic” / 監督:サイモン・ウェスト / 原案:ルイス・ジョン・カリーノ / 脚本:リチャード・ウェンク、ルイス・ジョン・カリーノ / 製作:デヴィッド・ウィンクラー、ビル・チャートフ、レネ・ベッソン / 製作総指揮:アーウィン・ウィンクラー、ロバート・チャートフ、アヴィ・ラーナー、ダニー・ディムポート、トレヴァー・ショート、ボアズ・デヴィッドソン / 撮影監督:エリック・シュミット / プロダクション・デザイナー:リチャード・ラサール / 編集:トッド・E・ミラー、T・G・ハリントン / 衣装:クリストファー・ローレンス / キャスティング:アマンダ・マッケイ、キャシー・サンドリッチ・ゲルフォンド / 音楽:マーク・アイシャム / 出演:ジェイソン・ステイサム、ベン・フォスター、ドナルド・サザーランド、トニー・ゴールドウィン、ジェームズ・ローガン、ミニ・アンデン、ジェフ・チェイス、クリスタ・キャンベル / 配給:Showgate
2011年アメリカ作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:種市譲二 / R-15+
2011年8月13日日本公開
公式サイト : http://mechanic-movie.jp/
[粗筋]
裏の世界で、優れた殺し屋を“メカニック”と呼ぶ。情報を緻密に蒐集し、周囲の人間には殺人であることを悟らせず、標的の命だけを穏便に奪う。
アーサー・ビショップ(ジェイソン・ステイサム)歯凄腕の“メカニック”であった。彼をこの世界で一人前に育て上げた師匠であるハリー・マッケンナ(ドナルド・サザーランド)の仲介のもと、孤独を貫き、黙々と仕事を片付けている。
だが、そんな彼のもとに、予想外の依頼が舞い込んだ。新聞広告に偽装したメッセージに記されていたターゲットの名は、ハリー・マッケンナ――何かの間違いではないか、とクライアントであるディーン(トニー・ゴールドウィン)のもとを訪ねたが、彼はハリーの裏切りによりチームが5人抹殺された、と告げ、アーサーが引き受けなければ他の誰かが始末に向かうだけだ、と言う。
アーサーは粛々と仕事を片付けた。ハリーはアーサーの用意したストーリーに、僅かながら脚色を施しただけで、その運命を受け入れる。アーサーの苦しみを除けば、いつもの仕事と変わりはなかった。
ハリーにはスティーヴン(ベン・フォスター)という不肖の息子がひとりいた。就職しても長続きせず、凶暴な性格を持て余しながらも父を尊敬していたスティーヴンは、車上荒らしに殺された、というアーサーの筋書きを鵜呑みにし、手当たり次第に“復讐”しようと試みる。
アーサーはスティーヴンの凶行を直前で制止し、彼に諭した。「動機のある殺人は駄目だ。足が着く」――そうして、ハリーとその弟子・アーサーの仕事の内容について薄々察していたスティーヴンに、アーサーは“メカニック”としてのノウハウを叩きこみ始めた――
[感想]
映画に限らず、フィクションに登場する“殺し屋”については、常々ひとつ、疑問に思っていたことがある。本当に凄腕の殺し屋が、果たして“暗殺”と解るような手段で仕事を行うだろうか? 本当にプロフェッショナルであれば、それが“暗殺”と明白になっている時点で、依頼人などに疑いの眼が向けられる事態に導くことはないのではないか。示威行動、脅迫の意図があるならともかく、本当に秘密裏に相手をこの世から消し去りたい、と考えた場合、累が及ぶことも極力避けよう、と心を砕くのが当然の心情ではないか。
それ故に、本篇の“メカニック”と通称される殺し屋の設定は非常に納得がいった。そして冒頭に描かれる過程は、まさに理想的な暗殺者の仕事ぶりである。この点だけでも、私はかなり唸らされた。
この冷徹なプロフェッショナル、という人物像に、ジェイソン・ステイサムという俳優をあてがったのが炯眼だ。選択する人物像が広くない代わりに、その枠の中で存在感を研ぎ澄まし、俳優としての色香を増している彼に、孤独を許容しながら冷酷な仕事をプロフェッショナルとしてこなす姿が、実によく嵌っている。『エクスペンダブルズ』『ロシアン・ルーレット』など、らしさを留めつつも、彼の作品を追い続けてきた者にはいまひとつ物足りない作品が続いてきただけに、キャラクターがかっちりと嵌っていることだけでも嬉しいところだ。
他方で、この設定だけを愚直に活かすと、仕込みの部分以外に見せ場がなくなってしまうところを、自らの師を標的として依頼され、それを契機に予定外の弟子を迎え入れる、という流れに繋げ、中盤以降の激しいアクションへとうまく話を運んでいる。序盤でステイサム演じるアーサーの並外れて洗練された手際を明示しているからこそ解る、ベン・フォスター演じるスティーヴンの思慮に欠いた感情的な振る舞いに緊張が漂い、そして自然に見せ場を生み出している。この設定だからこそ出来るアクション映画、というものをき見事に構築しているのだ。
そして、アーサーとスティーヴンとのあいだに、意外なほど明確な師弟の絆が生まれていることが、アクション面でもドラマ面でも本篇にコクを齎している。初仕事こそ無思慮から無様な内容になってしまったスティーヴンが、さすがのお調子者もこれで若干反省したことで、次に描かれる“仕事”ではアーサーの手法を巧みに吸収し、息の合ったところを見せる。結局はスティーヴンのミスで“メカニック”らしからぬ醜態を晒すことになるが、しかしそこまでの職人めいた格好良さは出色だし、続くアクションのインパクトも強烈だ。ここでもアーサーは容赦なく、しかし手際よく障害を排除していくのに対し、スティーヴンは暴力的な側面を見せる、といった描き分けもしており、映画の作り方にも職人的な巧さが光る。
本篇を観て、咄嗟に引っ掛かる可能性があるのは、終盤の展開であるが、しかしあのくだりも冷静に考えれば非常に企み抜かれているのが解る。軽率なように見えて、“メカニック”と呼ばれるこの作品の殺し屋の緻密な計画性を窺うことが可能なのだ。
表面的な迫力も充分ながら、この映画ならではの世界観、価値観のなかできちんと物語を組み立てており、深みもある。思慮の乏しいアクション映画に飽いた、という人はご覧いただきたい。
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コメント
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