原題:“Royal Wedding” / 監督:スタンリー・ドーネン / 脚本&作詞:アラン・ジェイ・ラーナー / 製作:アーサー・フリード / 撮影監督:ロバート・プランク,A.S.C. / 美術:セドリック・ギボンズ、ジャック・マーティン・スミス / 舞台装飾:エドウィン・B・ウィリス / 編集:アルバート・アクスト / 振付:ニック・キャッスル / 作曲:バートン・レイン / オーケストレーション:コンラッド・サリンジャー、スキップ・マーティン / 音楽監督:ジョニー・グリーン / 出演:フレッド・アステア、ジェーン・パウエル、ピーター・ローフォード、キーナン・ウィン、サラ・チャーチル、アルバート・シャープ / 配給:MGM
1951年アメリカ作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:?
1956年2月1日日本公開
2011年3月25日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|DVD Video廉価版:amazon]
DVD Videoにて初見(2011/04/09)
[粗筋]
トム(フレッド・アステア)とエレン(ジェーン・パウエル)のボーエン兄妹は舞台で活躍するミュージカル俳優である。ニューヨークでの公演も終わりを告げる頃、ふたりの元にロンドンからの依頼が届き、ふたりは折しもイギリス王女エリザベスの結婚に沸くなかでロンドンの舞台を踏むことになった。
エレンは男遊びの過ぎる質だったが、ロンドンへ渡る船の中で、女たらしの貴族ジョン・ブリンデール卿(ピーター・ローフォード)と知り合う。似たもの同士ゆえにすぐさま意気投合したふたりは、またたく間に惹かれあっていった。
他方、かつて婚約寸前まで行きながら破綻したことに懲りて、色恋沙汰から遠ざかっていたトムにも春の気配が訪れていた。ロンドンでの公演に先立ち行われた共演者のオーディションに現れたアン・アシュモンド(サラ・チャーチル)に、珍しく興味を抱いたのである。
ロイヤル・ウェディングの浮き立つ空気に誘われるように、柄になく本気の恋に身を投じたボーエン兄妹だったが、しかし状況はなかなか思うようにはならず……
[感想]
MGM製作のミュージカルの名場面と、往年のスターたちの語りを織り交ぜて描いた『ザッツ・エンタテインメント』において、個人的に極めて鮮烈な印象を受けたシーンがふたつある。フレッド・アステアが帽子掛けをパートナーに見事なダンスを披露する場面と、壁から天井まで自由自在に歩き回りステップを披露する場面だ。
MGMのミュージカルにとってフレッド・アステアがどれほど重要なスターであったのかを証明するために、彼の優れたテクニックと創意工夫とを紹介しているくだりであるが、このふたつの場面は、いずれも本篇のひと幕なのだ。他にもフレッド・アステアの名場面は多々あり、1篇で彼の功績を語ることは難しいのだろうが、このふたつのシーンが存在する、というただ1点だけでも、本篇は後世に語り継がれるに違いない。
まさにこのふたつのシーンを確かめるために本篇を鑑賞した私は不満を抱かなかったものの、しかし他の点は凡庸、或いはそれ以下、というのが率直な印象だった。
イギリス皇室の王女の結婚式に合わせてロンドンへと渡ったふたりがそれぞれ新しい恋に出逢う、というのは着眼だが、両者が密接に絡みあっているわけではない。単純に恋愛ものとして見ても、感情の機微が描かれているわけでも、印象的なエピソードが盛り込まれているわけでもなく、なんとなく巡り逢って、なんとなく恋に落ち、なんとなくハッピーエンドを迎えた、という程度の感想しか抱かない。
ミュージカルだからセットが華やかかと思えば、壁登りや客船のなかでのダンスシーンに用いられた舞台装置などに予算が奪われたのか、こちらも正直なところ地味な印象を受ける。また音楽も、不出来とは言わないものの、語り継がれる名作と比較すると記憶に残らない、いまひとつ凹凸のない曲ばかりだ。
ダンス・シーンそのものは、創意工夫の豊かな前述の2シーンに限らず、緻密な計算と弛まぬ研鑽の痕跡が窺えるものが多く見応えがあるのだが、如何せん物語や音楽に起伏が乏しいので、全体で眺めると退屈に感じられてしまう。
恐らく今後もフレッド・アステアのファンによって愛され、新たにその魅力に惹き寄せられた人々にとって必見の作品となるだろうが、映画としての完成度には疑問符をつけねばならない。惜しい作品だと思う。
関連作品:
『シャレード』
『バンド・ワゴン』
『英国王のスピーチ』
『クイーン』
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