原題:“Fer un Pugno di Dollari” / 英題:“A Fistful of Dollars” / 黒澤明、菊島隆三脚本による映画『用心棒』に基づく / 監督:セルジオ・レオーネ / 脚本:セルジオ・レオーネ、ドゥッチオ・テッサリ、ヴィクトル・A・カテナ、ハイメ・コマス / 製作:アリーゴ・コロンボ、ジョルジオ・パピ / 撮影:ジャック・ダルマース、フェデリコ・G・ララーヤ / 美術:チャールズ・シモンズ / 編集:ボブ・クイントル、アルフォンソ・サンタカナ / 音楽:エンニオ・モリコーネ / 出演:クリント・イーストウッド、ジャン・マリア・ヴォロンテ、マリアンネ・コッホ、ヨゼフ・エッガー、マルガリータ・ロサーノ、ウォルフガング・ルクスキー / 配給:東和
1964年イタリア作品 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:?
1965年12月25日日本公開
2006年12月22日DVD日本最新盤発売 [amazon]
DVDにて初見(2010/09/22)
[粗筋]
時は南北戦争のまっただ中。ニューメキシコ国境の町サン・ミゲルに、ひとりの男(クリント・イーストウッド)が現れた。
現在、サン・ミゲルは死の町と化している。酒の密売で稼ぐロホス兄弟と、銃器の売買で財を成すバクスター保安官(ウォルフガング・ルクスキー)が抗争を繰り返し、さながら生死のやり取りがビジネスのような様相を呈していた。
無一文の男は、傑出した早撃ちの腕を頼りに、分のある方について金を稼ごうとするが、折しもロホス兄弟は危険な計画に打って出るところであった。軍隊に銃器を売ると見せかけて、荒野で不意打ちを食わせ、金だけ奪ったのである。
一部始終を目撃した男は、身を寄せていたロホス兄弟のもとを離れ、ピリペロ(ヨゼフ・エッガー)が営むバー兼ホテルに滞在した。それから男が行ったのは、ロホス兄弟の虐殺の現場から、遺体をふたつ、墓場へと運び込むことだった……
[感想]
当時、テレビの西部劇シリーズ『ローハイド』で人気を博したクリント・イーストウッドが初めて主演した映画である。のちに『ダーティハリー』シリーズによって爆発的に支持され、21世紀に入ると一気に映画監督としての才能を開花させた彼が、テレビで人気を獲得しながら何故映画に出演できなかったのか、アメリカではなくイタリアの作品に参加したのか、けっこう複雑な事情があったようだ。
しかし、少なくとも西部劇というものがほぼ下火になった現在の目で見ると、決して大幅な違和感はない。荒野と言い条、ロケーションが心なしか湿っており、全体に風景の趣も異なるのも確かだし、私が鑑賞したものはすべて英語に吹替されていたが、実際には3カ国語が混在していたという会話は画面と抑揚にどうもズレたものを感じるが、しかし拳銃やスイングドアで仕切られたバー、広場での決闘といったお定まりの要素を押さえた本篇は、ちゃんと西部劇そのものに見える。
イタリアでのヒットからかなり経ってアメリカで公開された際は、暴力描写に批判が集まったというが、いま観ると「どこが?」と首を傾げる程度のものだ。私が鑑賞したヴァージョンはまさにアメリカ公開時のものらしく、だとすると予め過激な描写をカットしているはずだが、それを想定してもさほど陰惨な場面はないし、どこにそれほど観客を刺激する要素が埋め込まれていたのか、想像することも難しい。その後暴力の密度、そこに籠める意味合いを掘り下げた作品が増えたせいだろうが、いまの目には牧歌的に見えるほどだ。ビリビリとした緊張感の漂う場面も決して多くなく、なまじ最近製作された渾身の西部劇や、そのスタイルを成長させたジョン・ウーやジョニー・トーらの作品に慣れた目には悠長すぎて退屈なほどだった。
だがそれでも魅せられてしまうのは、主人公の圧倒的な存在感と、彼を軸とするストーリーの巧みさ故である。作中名前を口にすることのないこの男は、関わる人物に韜晦するような物言いをしつつ、ある段階から謎めいた行動を起こす。なかなか意図の掴めない彼の言動に観る者は引っ張られ、やがてそれが判明したときの驚きと爽快感は強烈だ。黒澤明監督の『用心棒』を下敷きにしているとは言い条、それをうまく西部劇に換骨奪胎した手腕自体は評価されていい。
何よりもクリント・イーストウッドの佇まいである。既にテレビシリーズで西部劇のヒーローを長いこと演じてきたといえども、この頃は決して芝居が巧かったわけではないはずだが、その整った容姿と長身、ニヒルな表情が、“名無しの男”のキャラクターと見事に合致し、物語とも溶けあって鮮烈な印象を残す。ひたすら策に奔走し、拳銃を抜くシーンは最小限なのだが、その腕前を観る側がいっさい疑わないほどに、優れたガンマンのオーラを放っている。
昨今の西部劇や、残虐描写に躊躇のないアクション映画に慣れていると物足りないが、美学や格好良さは存分に堪能できる作品である。
関連作品:
『許されざる者』
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