原題:“Tenebre” / 監督:ダリオ・アルジェント / 脚本:ダリオ・アルジェント、ジョージ・ケンプ / 製作:クラウディオ・アルジェント / 撮影監督:ルチアーノ・トヴォリ / 美術:ジュゼッペ・バッサン / 編集:フランコ・フラティッチェリ / 衣装:ピエランジェロ・チコレッティ、カルロ・パラッツィ、フランコ・トメイ / 音楽:シモネッティ−モランテ−ピナッテリ / 出演:アンソニー・フランシオサ、クリスティアン・ボロメオ、ダリア・ニコロディ、ジョン・サクソン、ジュリアーノ・ジェンマ、ララ・ウェンデル、ミレッラ・ダンジェロ、ヴェロニカ・ラリオ、エヴァ・ロビンス、カローラ・スタナオ、ジョン・スタイナー / 配給:ヘラルド
1982年イタリア作品 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:?
1983年6月日本公開
2004年7月23日DVD日本最新盤発売 [amazon]
DVDにて初見(2010/08/03)
[粗筋]
推理作家のピーター・ニール(アンソニー・フランシオサ)は新作『暗闇』のキャンペーンのため、ローマへと渡った。
到着早々、ニールは災難に見舞われる。現地で発生した殺人事件で、被害者の口腔に彼の著した『暗闇』の書籍から千切られたページが詰めこまれていたために、事件の担当であるジェルマニ警部(ジュリアーノ・ジェンマ)から疑いの目を向けられたのだ。更には、旅の荷物も何者かによって荒らされている。
幸いに、ニールが到着する以前に起きた事件であったために容疑の対象からは外れたが、間もなく同じ凶器を用いたと思われる事件がふたたび発生する。殺害されたのは、ニールにとって旧知の評論家ティルダ(ミレッラ・ダンジェロ)と、彼女の同性の恋人だった。
或いは犯人は、自分の知っている人物なのだろうか――そんな疑念を抱いた矢先に、ニールはローマの地にいるはずのない人物の姿を見つける。それはニールの前妻であり、いまは心を患い病院に収容されているはずのジェーン(ヴェロニカ・ラリオ)だった……
[感想]
『サスペリア』『インフェルノ』と、のちに“魔女3部作”と呼ばれるようになったオカルト作品2本のあとに製作された、スリラーである。
一般には『サスペリア』のイメージのほうが強いかも知れないが、デビュー作『歓びの
とは言い条、実のところダリオ・アルジェント監督の語り口は決して達者ではない。妙にぎこちなく泥臭く、警察の捜査の描き方に迂闊さが目立つ。
本篇にもその手の欠点はあちこちに見出すことが可能だ。刑事からして、犯人から届いたと思しい手紙を発見しながら指紋にいっさい警戒することなく扱うし、犯人らしき人物を追う際の振る舞いが全般に軽率だ。他方で、他の登場人物たちもこれといった理由なく警察を軽視して、大事な出来事を報告しない、特に根拠もなく伏せる、という展開が多く、いささか苛立ちを覚える。
実のところ、そうして引っ掛かった描写の幾つかには必然的な理由が付与されているのだが、それでもその違和感がヒントや伏線として機能するためには、ある程度常識的な行動が必要とされるはずなのに、そこを配慮していない。ある意味で筋は通っているのだが、もっと綺麗に、洗練された手管でやってのけた作品も少なくないのに較べ、アルジェント監督はこれほど繰り返しスリラーを撮っているにも拘わらず、あまり手捌きがこなれている気がしない。
ただ、監督の場合はそうした泥臭さを維持することで作家性を保っているのも確かだ。かなり強引でも、殺人のシーンに工夫を懲らしつつ、そこに密かにヒントを埋め込んでみたり、ぎこちないカメラワークにその後の展開を予見させるような、幾分わざとらしいアイテムをちらつかせるあたりなど、何本もアルジェント監督の作品を観てきた者ならニヤリとせずにはいられない。そうした描写がイヤなら恐らく、続けて鑑賞する気はあまり起こらないだろう。それほど監督の作風は完成されており、そういう意味では独自の形で洗練されている。
その作風を大前提とすれば、本篇のアイディアはなかなか優秀だし、かなり巧みに活かされていることは疑いない。終盤手前で一瞬困惑させたあと繰り広げられる一連の出来事には、慄然とし、少しばかり失笑しつつも、興奮を覚えるはずだ――そういう人なら、恐らくアルジェント監督の作品との相性はいい。
――そう考えていくと、欠点も美点も等しく盛り込まれている本篇は、ダリオ・アルジェント監督作品との相性を確かめる、絶好のリトマス試験紙の役割を果たしてくれるかも知れない……保証はしないけれど。
関連作品:
『歓びの
『4匹の蝿』
『スリープレス』
『デス・サイト』
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