『ダブル・ミッション』

『ダブル・ミッション』

原題:“The Spy Next Door” / 監督:ブライアン・レヴァント / 脚本:ジョナサン・バーンスタイン、ジェームズ・グリア、グレゴリー・ポイリアー / 製作:ロバート・シモンズ / 製作総指揮:ライアン・カヴァノー、タッカー・トゥーリー、アイラ・シューマン、ソロン・ソー / 共同製作:ケネス・ハルスバンド / 撮影監督:ディーン・カンディ,ASC / プロダクション・デザイナー:スティーヴン・ラインウィーヴァー / 編集:ローレンス・ジョーダン / 音楽:デヴィッド・ニューマン / 出演:ジャッキー・チェンアンバー・ヴァレッタ、マデリン・キャロル、ウィル・シャドレイ、アリーナ・フォーレイ、マグナス・シェヴィング、キャサリーン・ボーチェー、ルーカス・ティル、ビリー・レイ・サイラス、ジョージ・ロペス / リラティヴィティ・メディア/ロバート・サイモンズ・カンパニー製作 / 配給:Showgate

2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間32分 / 日本語字幕:岡田壯平

2010年6月19日日本公開

公式サイト : http://www.w-mission.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2010/07/01)



[粗筋]

 ボブ・ホウ(ジャッキー・チェン)は中国からアメリカのCIAに出向中の凄腕エージェントである。ロシアのテロリスト、ポルダーク(マグナス・シェヴィング)を逮捕するのが当座の任務であったが、製油所を急襲したポルダークを無事に取り押さえ、任務の完遂に成功する。

 実はこれを機に、ボブは引退することを考えていた。理由は隣人、ジリアン(アンバー・ヴァレッタ)。彼女と恋に落ちたボブは、家庭を持ち平穏な暮らしを始めることを望むようになっていた。

 しかし、ジリアンとの結婚にはちょっとした障害が立ち塞がっていた。彼女が前の夫とのあいだに設けた三人の子供たちである。ボブは表向き、ペンの輸入販売業者を装っている。そんな地味な仕事をしている彼に、子供たちは不信感を抱いていた。

 CIAでのパートナー、コルトン・ジェイムズ(ビリー・レイ・サイラス)から、謎の暗号の解読に助力を求められながらも、立場が保留中の身分となったボブは、障害をクリアするべく子供たちと親密になることを目指すが、相手はテロリスト並に一筋縄ではいかない。折しもジリアンの父親が緊急入院することになり、看病のために出かけねばならなくなったジリアンのために、ボブは子供たちを預かり、この機に親しくなろうと尽力する。

 だが同じ頃、大きな事件が起きていた――ポルダークが仲間たちの助けを借りて、脱走していたのである。そしてポルダークの動静は、思わぬ形でボブの行動とリンクしていく……

[感想]

 カンフー映画を世界的なものにした、という意味で、ブルース・リーの功績は計り知れない。だが個人的には、アクションの密度を保ちながら、軽い娯楽としても成立する手法を構築し普及したという意味で、ジャッキー・チェンの功績はそれに匹敵する、と思っている。ワイヤーアクションを巧みに導入し、往年のバディ・ムービーのスタイルを継承することで人気シリーズも作りあげた。香港流のアクションは現在完璧にハリウッドに根付いているが、間違いなくその功労者のなかでも最も重要なひとりがジャッキー・チェンだろう。

 本篇には“ジャッキー・チェンのハリウッド進出30周年記念作品”というコピーが添えられている。いささか大袈裟にも見えるが、そういう惹句が似つかわしいほどに、この作品にはジャッキー・チェンという“ハリウッド俳優”のエッセンスが詰まっているように思える。

 ある程度ジャッキー作品を観たことのある人間なら、プロローグ部分でまずニヤリとさせられるはずだ。これまでの出演作の見所を、本篇で彼が演じる諜報員ボブ・ホウ過去の活躍、という体で、ダイジェストにして繰り出してくる。そこからすぐに現在のジャッキーの活躍に入っていく、という道筋が実に憎い。

 率直に言えば、さすがのジャッキーも50代半ばを超えて、衰えた印象は禁じ得ない。細かな表情に老いを感じてしまうし、動きのキレも悪くなっている。だがそれでも、アクションシーンには細かな趣向を施し、観客を愉しませようとする姿勢に変わりはなく、観ているあいだの充実感はある。そのアクション自体にも、建物のインテリアを用いたアクロバティックなものを採り入れるなど、あえてジャッキーの過去の出演作を彷彿とする趣向を組み込んでいるのも、記念作の表現に相応しいファン・サービスだ。

 ストーリーの骨子はごく単純だし、ジャッキーとしては珍しい“家族”を導入した物語ながら、有り体の家族ものコメディのパターンに嵌ってしまっている。だが、それもまたジャッキー・チェンという俳優がハリウッドで追求してきた、元から存在するスタイルに溶け込んでいく、という方法論に一致する。構成としては幼稚だが、しかし間違いなく馴染みやすい物語にすることを選択しているのだ。

 ここで注意していただきたいのが、ボブ・ホウがジリアンの子供たちと絆を深めていく過程に、ほとんど無理がない、という点だ。最初はボブに対して悪感情を抱いていた子供たちが、いつしか彼に親しみ、最後には傍にいることを望む――というのはまるっきりお定まりのシナリオだが、いちばん幼いノーラ(アリーナ・フォーレイ)ははじめからボブに対して同情的で懐くのも早く、長男イアン(ウィル・シャドレイ)は地味だと思っていたボブの思いの外シャープな小道具や格好いい立ち回りに魅せられ憧れるようになる。長女ファレン(マデリン・キャロル)は最も難しい年頃に加え、更に複雑な事情を抱えられているだけになかなか陥落しないが、だからこそ少しずつ歩み寄っていく過程をきちんと描いており、最後に仄かな感動さえ齎してくれる。あまりの月並みな展開を嘲笑するのもけっこうだが、解りきっているからの安心感を演出するのも娯楽映画の道のひとつだ。意識して選択し、まっすぐ突き進んで成果を上げているのだから、その誠実さは賞賛に値する。

 お約束通りのハッピー・エンドのあとには、お馴染みのNG集がきちんと用意されている。ハリウッドの娯楽大作らしさを完璧に取り込みながら、ジャッキー・チェンらしさをいっさい損なっていない。年老いたことは疑うべくもないが、それを受け入れた上で、きちんと次の展開を模索していることも窺わせる本篇を観ると、改めてジャッキー・チェンに尊敬の念を抱く。そして多分彼は動けなくなるまで、私たちの期待に応え続けてくれるはずだ。本篇はまるで、その決意表明のようにも読み取れるのである。

関連作品:

メダリオン

香港国際警察 NEW POLICE STORY

ラッシュアワー3

ドラゴン・キングダム

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トランスポーター2

デッド・サイレンス

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