原題:“Running on Karma” / 監督&製作:ジョニー・トー&ワイ・カーファイ / 脚本:ワイ・カーファイ、ヤウ・ナイホイ、イップ・ティンシン、オウ・キンイー / アクション監督:ユエン・ブン / 撮影監督:チェン・シュウキョン / プロダクション・デザイナー:ブルース・ユー / 編集:ロウ・ウィンチャン / 特殊メイク:Edge EFX社 / 音楽:キャシーヌ・ウォン / 出演:アンディ・ラウ、セシリア・チャン、チョン・シウファイ、カレン・トン、ユエン・ブン / 銀河映像(香港)有限公司製作 / 配給:At Entertainment
2003年香港作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:風間綾平
2004年10月2日日本公開
2005年2月4日DVD日本盤発売 [amazon]
公式サイト : http://www.at-e.co.jp/musclemonk/ ※閉鎖済
DVDにて初見(2010/05/31)
[粗筋]
香港警察の風紀課で働くリー・フンイー(セシリア・チャン)は、男性ストリップの立ち入り調査で、本土からやって来たビッグガイ(アンディ・ラウ)という男と出逢う。誤解により、ちょうどそのとき行われていた凶悪な殺人事件の捜査に巻き込まれてしまった彼を、リーは本土送還のみに処置し、起訴はしなかった。
その直後、ひとり欠員の出た特捜課に急遽補充として回されたリーは、ビッグガイの巻き込まれた事件の捜査に携わることになった。上司に邪険に扱われながらも懸命についていこうとするが、特に現場に忘れたビデオカメラを取りに戻ったとき、ビッグガイと再会する。わざわざリーに逢いに来たという彼の話は、異様なものだった。
いわく、彼は他人の“業”が見えるのだという。前世で犯した罪がその人物の上に映像として見え、人はそれによって生き死にが左右される。ビッグガイはこの捜査の中で、リーの仲間たちが危険に晒されているといい、犯人を捕まえるのを手伝わせて欲しい、と申し出る。胡乱な話だが、彼が嘘を言っているように思えなかったリーは、請われるままビッグガイを屍体安置所に連れて行った。
……だが、リーは知らない。ビッグガイが守ろうとしていたのが、他でもないリーであったことを……
[感想]
本篇は、香港のアカデミー賞に相当する映画賞を、同年公開された『PTU』との合わせ技で獲得した作品だが、ポスターや予告篇を見るとにわかに信じられないだろう。いや、もしかしたら観終わってからも釈然としない想いを抱くかも知れない。事実、日本で劇場公開された際は、同時期製作された『バレット・モンク』を意識したような邦題も手伝って、そんな印象が付きまとっていた。だからこそ、当時既に映画道楽に浸っていた私もまったく興味を抱かなかったのだ。
今年に入って、本篇の監督の一人ジョニー・トーの作品群にハマり、漁るようにDVDを鑑賞して、とうとうここに辿り着いたのだが――意外にも、というか、そうして追ってきた目には当然にも、と言うべきか、確かに特異だが、決して“色物”とは思わなかった。
アンディ・ラウの肉襦袢姿はさすがに少々不自然だし、超能力大戦めいたストーリー展開が終盤で急に観念的になることに違和感や訝しさを覚えるのはまあ当たり前のことかも知れない、と思う。だがよく検証しながら観ると、決して恣意的にそうしたアイディアを詰め込んでいるわけではなく、まさに作中の“カルマ”の概念通り、すべてが必然的に並べられているのが解るはずだ。
筋肉質の元僧侶の活躍、という趣向や、序盤でビッグガイが戦う異様な“犯人”たちのアイディアは、恐らくアメコミのヒーローものや、日本の漫画などを参考にしていると思われる。だからこそ序盤は、その奇妙さに苦笑いしつつも、思わず夢中になってしまう人は少なくないだろう。特に、最初に警察を翻弄する犯人のキャラクターなどは漫画的ながら見た目のインパクトが強烈で、なかなか忘れがたい。
だが、そうしたキャラクターの面白さをないがしろにしない一方で、本篇は序盤から着実に、観客に物語上のルール、価値観を植え付けることに腐心している。肉体的特徴がそのまま本人の“業”となっているような犯罪者たちと、その周囲にビッグガイが幻視する、人々の前世の悪行と現世への影響。リー・フンイーという女性刑事の目線を借りながら、ビッグガイが見る“世界”を観客に対して披露していく。
一見、突飛に映る終盤の展開も、しかし実のところ、こうして作中で紡ぎあげた“世界観”がなければ成立はしないのだ。“カルマ”と呼ばれる概念のあまりに厳格な拘束、それに対峙するビッグガイという男の苦悩、そして平凡で誠実な女性の目線から、ビッグガイの価値観に触れるということが、クライマックスでビッグガイが選んだ結末に辿り着く。確かに意外だし、どうしてそれを受け入れてしまうのか、と納得のいかない人も大勢いるだろうが、実のところそこまでで描かれたビッグガイの半生を窺えば、あの他に着地点は存在しないのだ。
“カルマ”という概念は実際に様々な宗教で説かれているものだし、これを題材に用いたフィクションも多く存在する。だが、本篇のような切り口から描き、最後まで貫いてしまった、というものはなかなか見当たらないように思う。ビッグガイの見てきた世界に充分共鳴出来なかった人、そもそもまったく違う期待を持って鑑賞してしまった人が不満を覚えるのも至極当然だと思うが、しかし設定した主題をまったく揺らぐことなく描ききった、という意味で、本篇は確かに傑作なのだ――“異形の”、という副詞を添える必要はあるし、到底気安くお薦めすることなど出来ないけれど。
関連作品:
『PTU』
『エグザイル/絆』
『スリ』
『墨攻』
『バレット・モンク』
『ハルク』
コメント
[…] 関連作品: 『ヒーロー・ネバー・ダイ』/『ザ・ミッション/非情の掟』/ […]