『コロンブス 永遠の海』

『コロンブス 永遠の海』

原題:“Cristovao Colombo o Enigma” / 監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ / 原案:マヌエル・ルシアーノ・ダ・シルヴァ、シルヴィア・ジョルジュ・ダ・シルヴァ『コロンブスポルトガル人だった』 / 製作:フランソワ・ダルテマール / 製作総指揮:ジャック・アレックス / 第一助監督:オリヴィエ・ブファール / 撮影監督:サビーヌ・ランスラン / 美術:クリスチャン・マルティ / 編集:ヴァレリー・ロワズルー / 衣装:アデライド・マリア・トレパ / 音楽:ジョゼ・ルイス・ボルジェス・コエーリョ / 出演:リカルド・トレパ、レオノール・バルダック、マノエル・ド・オリヴェイラ、マリア・イザベル・ド・オリヴェイラ、ジョルジュ・トレパ、ロウレンサ・バルダック、レオノール・シルヴェイラ、ルイス・ミゲル・シントラ / 配給:alcine terran

2007年ポルトガル、フランス合作 / 上映時間:1時間15分 / 日本語字幕:(株)フェルヴァント

2010年5月1日日本公開

公式サイト : http://www.alcine-terran.com/umi/

岩波ホールにて初見(2010/05/01)



[粗筋]

 アメリカ大陸を発見したとされるコロンブスは、生前にこの名を用いていなかった。彼は自らをクリストファー・コロンと言った。洗礼名とも異なるこの姓は、男根崇拝を象徴するものとも、“神を背負う者”を意味するとも言われている。

 マヌエル・ルシアーノ(リカルド・トレパ)は1946年、弟のエルミニオ(ジョルジュ・トレパ)と共にアメリカに向かった。父によって招かれ、家族揃って移住するためである。ポルトガルで学び続けてきた医学を修め、アメリカでも医師として働いたマヌエルだが、彼は同時に、ある1つの歴史に関する説を胸に抱き続けていた。

 1960年、恋人シルヴィア・ジョルジュ(レオノール・バルダック)と故郷のポルトガルポルト大聖堂で華燭の典を挙げたマヌエルは、新婦とともにクーバという街を訪ねる。鄙びたこの地には、コロンブスの生家があったのである……

[感想]

 監督のマノエル・ド・オリヴェイラは数年前から、現役最高齢の映画監督として、斯界で敬意を集め愛されている存在である。

 驚くべきことに監督は、本篇製作時で既に98歳、これが日本で公開された2010年には101歳に達している。にも拘わらず、本篇のあとにも新作を発表し、更に新しい構想を練っているというのだ。

 その旺盛な創作意欲もさることながら、監督の作る映画には、映画好きの心を和ませる空気と、年齢には似合わない清新さが宿っていることに驚かされる。常に一貫したスタイルを持ちながら、何かしら驚くべきアイディアを組み込んでいるのだ。

 本篇は、コロンブスが実はポルトガル出身である、という説を持つ男性が、自らの人生の転機にその論の根拠となりうる史跡を訪ねる、という形で成り立っている。簡単に記すが、その旅は三回、いずれも10年単位の長い間隔をおいている。その、非常に悠長と言える語り口が醸し出すムードは、唯一無二のものだ。

 オリヴェイラ監督はほとんどの作品で自らの血縁者を筆頭に、同じようなキャストを用いている。本篇でも、主人公マヌエルの若い時期を演じた俳優は監督の孫にあたり、その老境に至った姿を演じるのは、他ならぬオリヴェイラ監督自身という趣向だ。このあたり、監督の作品を待ち続けているファンへのサービスとも、遊び心とも取れる。

 ただ、率直に言えば、本篇については監督の作風に馴染んでいる人か、よほどの映画好きでないとお勧めしづらい。

 コロンブスポルトガル出身であった、という説に基づき史跡を巡る、という形で組み立てられている本篇だが、他の説を採り上げてポルトガル出身説の優位を訴えるような筋立てでも、反論反証との駆け引きから論を補強するような描き方もしていない。ポルトガル出身説を信じ、その論拠となる史跡を訪ね、そしてその軌跡と自らの人生を重ねて感慨に耽る、という綴り方だ。歴史を推理する、という観点からはあまりに掘り下げが乏しいし、マヌエルの人生ドラマとして鑑賞するには、あまりに想像に委ねた部分が多過ぎて食い足りない印象が強い。

 本篇は、その配役や作風、さらにはオリヴェイラ監督自身のキャリアにまで関心のある人ならば楽しめるだろうが、そうでない場合は、かなり人を選ぶだろう。もともとオリヴェイラ監督の作品だからこそ劇場に足を運んだ私には、故に大変満足のいく内容であった。

関連作品:

家路 Je rentre a la maison

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永遠(とわ)の語らい

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