原作:和月伸宏(集英社・刊) / 監督:大友啓史 / 脚本:藤井清美、大友啓史 / 製作:久松猛朗、畠中達郎、茨木政彦、高橋誠、高橋誠修、宮本直人 / 製作総指揮:ウィリアム・アイアトン / プロデューサー:福島聡司 / エグゼクティヴプロデューサー:小岩井宏悦 / アクション監督:谷垣健治 / 撮影:石坂拓郎 / 照明:平野勝利 / キャラクター&衣裳デザイン:澤田石和寛 / 美術:橋本創 / 装飾:渡辺大智 / VFXスーパーヴァイザー:小阪一順 / 編集:今井剛 / 音楽:佐藤直樹 / 主題歌:ONE OK ROCK『Heartache』 / 出演:佐藤健、武井咲、伊勢谷友介、青木崇高、蒼井優、江口洋介、藤原竜也、神木隆之介、土屋太鳳、田中泯、宮沢和史、小澤征悦、大八木凱斗、高橋メアリージュン、三浦涼介、福山雅治 / 制作&配給:Warner Bros.
2014年日本作品 / 上映時間:2時間19分
2014年9月13日日本公開
2015年10月7日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
公式サイト : http://www.rurouni-kenshin.jp/
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/11/21)
[粗筋]
志々雄真実(藤原竜也)に肉迫しながら、海に放り出された神谷薫(武井咲)を助けるため嵐の海に飛び込んだ緋村剣心(佐藤健)は、見知らぬ家で目覚めた。浜辺に打ち上げられた彼を救ったのは奇しくも、剣心に飛天御剣流を伝授した師匠、比古清十郎(福山雅治)そのひとだった。
剣心が意識を失っていたのは三日間、もし海で溺れていたなら、薫に生存の見込みはない。絶望とともに、志々雄に対する復讐を誓った剣心は、師匠に奥義の伝授を請う。清十郎はあっさり承諾したが、かつて“人斬り”として名を馳せた剣心にとっても、清十郎のつける稽古は過酷なものだった。
一方で、建造した戦艦により浦賀のひとびと、ひいては政府に対して脅威を示した志々雄は、剣心存命という情報を受けて、国盗りの計画に変更を加える。呼びつけた伊藤博文(小澤征悦)ら政府閣僚に、穏便な交渉を行うための条件として、“人斬り抜刀斎”の衆人環視のなかでの斬首を要求したのだ。
志々雄を追ったまま姿を消した剣心と薫の行方を気遣い、京の御庭番修衆のもとで厄介になっていた相楽左之助と弥彦は、突如としてばらまかれた剣心の手配書に愕然とし激昂する。そんな折、薫がようやく発見された。意識は戻っていないが大きな怪我はなく、やがて目覚めた薫は東京に帰ることを決めるのだった。
一方の剣心も、迷いを脱却し何とか奥義を会得、行方を嗅ぎつけた御庭番衆の巻町操(土屋太鳳)の迎えで京都に戻る。御庭番衆は剣心に抜け道の地図を与え、志々雄との決戦に赴く剣心を送り出そうとしたが、行く手には、修羅と化した御庭番衆頭領・四乃森蒼紫(伊勢谷友介)が待ちかまえていた――
[感想]
原作ファンを納得させるキャスティングと、アクション映画愛好家をも唸らせるスピード感と重量感のあるチャンバラが高く評価され、3部作に発展した『るろうに剣心』実写版の掉尾を飾る完結篇である。
理想的なのは3作を通して鑑賞することだが、せめて直接繋がっている第2作『京都大火編』と併せて観るべきだ。そうしないと、さすがにカタルシスは味わいにくいと思われる。
ただ、ストーリーを無視しても、アクション部分を単品で切り取っても楽しめるクオリティであることは高く評価出来る。
第2作は、繋がり合う続篇があるが故に、主人公・剣心の見せ場が乏しかったことが不満だったが、それ故当然ながら本篇での剣心の気の吐きようは凄まじい。師匠・比古清十郎との稽古に始まり、奥義を会得した上での蒼紫との対決。前作で翻弄された瀬田宗次郎との再戦と、鬱憤を晴らすかのような獅子奮迅ぶりを示す。
このシリーズのアクションにおける高いクオリティは、アクション監督を務めた谷垣健治の存在が大きく貢献していることは疑いない。ジャッキー・チェンに憧れて香港でスタントとして活躍、現在香港で最も精力的に新作を発表しているアクション俳優ドニー・イェンのチームに加わって経験を積んできた谷垣の経験とアイディアが随所に窺えるが、こうした剣心が中心となるアクションには、まさに彼が関わってきた香港アクション映画の影響が非常に色濃い。
その技倆が特に発揮されているのが、集団が入り乱れてのアクション・シーンだ。1対1なら演者、或いはスタントマン各個の技倆でおおむねフォローできるが、大勢が加わると緻密な計算が必要になる。リアリティと迫力を加えるには、よほどの統率力が必要となる。そのことを踏まえた上で鑑賞すると、非常に高度な仕上がりになっていることが解るはずだ。
一部では批判の対象となっていたらしい、志々雄に対して複数で挑むシーンは、こうした文脈で読み解くと、非常に意欲的な場面であったことが解る。また、これは谷垣自身が語っていたことだが、ボスに対して複数で臨む、というシチュエーションは、アクション映画の金字塔のひとつ『プロジェクトA』のひそみに倣っている。
アクション映画、とりわけ原作がコミックの場合にありがちだが、主人公が強くなりすぎてカタルシスが充分に演出できないジレンマに陥ることがある。かといって、大物が貫禄たっぷりにラスボスを演じてみても、強さを観客が実感できず、肝心の最終対決がボンヤリとした印象になってしまう。主人公が弱い状態から話を始め、最初は容易くいなされた相手に、修行を経てふたたび戦いを挑み勝利を収める、というのが、初期のジャッキー・チェン作品でよく見られた流れだが、これを繰り返す手法に限界があることを見越して、ジャッキーは新機軸たる『プロジェクトA』でこの一対複数の戦いをクライマックスに採り入れた。志々雄という、時代の闇を背負わせた悪役に相応しいパワーを描くには、このくらい必要、と考えたのも頷ける。
と、解釈としては理解は出来るのだ。しかし、惜しむらくは、そのせいで剣心の強さにいささか疑問を残してしまった。
剣客の物語、それもきちんと伏線を設けたうえでのクライマックスなので、最後は一騎打ちになっている。伏線に相応しい大技もある。ただ、先行する描写が観客に抱かせた疑問を吹き飛ばすほどではなかった。どんな表現をしていれば正解だったか、というのは挙げにくいが、なまじ選んだ表現がアクション映画としては正解であっただけに、ここにわずかにミスマッチが残ってしまったのが、とにかく惜しい。
もともと本篇のテーマは厄介だ。最後の決戦のあとの描写に、爽快感と同じくらい煮え切らぬものを感じさせるのは仕方ないし、むしろそういう余韻が相応しい、と私は評したい。またアクションへの誠実で挑戦的な姿勢を最後まで保ったのは天晴だと思う。しかし、ここまで出来ているからこそ、大一番での違和感が非常にもったいない。
……と、最後で微妙なことを書き連ねてしまったが、本篇が日本のアクション映画としては異例の規模と高い水準で実感した、極めて重要な作品であることは間違いない。公開から1年半が経った現段階ではまだ本篇にいい意味で追随する作品は現れていないが、いつか日本に本格的なアクション映画が陸続と誕生するようになったとき、本篇はその第一歩として記憶されるはずだ――そうなることを信じたい。
関連作品:
『るろうに剣心』/『るろうに剣心 京都大火編』
『サンブンノイチ』/『カイジ2 人生奪回ゲーム』/『清須会議』/『渇き。』/『春を背負って』/『妖怪大戦争』/『釣りキチ三平』/『47RONIN』/『許されざる者(2013)』/『隠し剣 鬼の爪』/『武士の家計簿』
『プロジェクトA』/『必死剣鳥刺し』/『超高速!参勤交代』/『スペシャルID 特殊身分』
コメント