1971年イタリア、フランス合作 / 上映時間:1時間55分 / 日本語字幕:岡枝慎二
1972年10月28日日本公開
2012年8月2日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2020/04/14)
[粗筋]
遺伝子研究所に侵入者があり、警備員が重傷を負わされる事件が起きる。乱暴な手口だが、盗まれたものが確認出来ず、捜査陣は困惑した。
直後、第二の事件が起きた。研究所に勤務するカラブレジ博士(カルロ・アリゲイロ)が駅のホームから転落、進入してきた列車に轢かれて亡くなったのである。
その報道を新聞で知ったフランコ・アルノ(カール・マルデン)は、その内容に違和感を覚え、記事を書いたカルロ・ジョルダーニ(ジェームズ・フランシスカス)に接触する。盲目となる前は新聞記者だったアルノは、記事には掲載された事故の決定的瞬間を捉えた写真にカットされた部分があり、そこに重要なものが写っていた可能性を指摘する。ジョルダーニが現場に居合わせた写真家に確認すると、確かに写真はトリミングしており、カットした部分にカラブレジ博士を突き落としたと思われる手が写っていた。
ジョルダーニとアルノ、彼のもとで同居する姪のローリー(チンジア・デ・カロリス)の3人は、実際の写真を確認するために写真家のもとを訪ねるが、写真家は何者かによって殺害され、肝心の写真は奪われていた。
実は研究所に侵入者があった夜、近所に住むアルノとローリーは、車中で誰かと話をしているカラブレジ博士を目撃していた。恐らく侵入者は何らかの目的をもって研究所に踏み込み、その秘密を握る博士を抹殺したと考えられる。
果たして、事件の背景には何があるのか? 犯人捜しに熱中するアルノとジョルダーニだったが、それはあまりにも危険な冒険だった――
[感想]
ダリオ・アルジェント監督の長篇映画としては、『歓びの
『サスペリア』以降はオカルトを扱ったホラー、傷口も生々しい残虐な描写がトレードマークのようになっていくが、本篇はまだそれほどどぎつさはない。それゆえに、監督がこだわる“スリラー”の様式がくっきりと明瞭になった作品と言える。
但し、率直に言って、手際は悪い。全体的に、犯人側の動機が弱く、しかも“なぜこのタイミングで実行するのか?”という疑問を催す犯罪が多い。終わってみると解るが、最初のケースなどはむしろ荒々しい行為自体が犯人の設定と矛盾してしまっている。
用意されている背景を考慮すればあり得る、とも言えるが、そもそも本篇で用いられる背景じたいに、かなり危うい科学的知見の捏造と偏見がある。フィクションのなかで科学上の発見を創造するのは悪いことだとは思わないし、それがのちのち現実に発見された事実と齟齬を来すのは致し方のないことだと思うが、本篇の場合、そこに偏見が色濃く出てしまったのがマイナスになっている。しかも、結果的に、ではあるが、そこまでリスクを冒して採り入れた設定が、実際の犯行と矛盾しかねないのはやはり肯定しづらい。
他にも、このタイミングで動機が生じるはずがない、という犯行、こういうやり方を選ぶのは不自然ではないか、と思われる犯行があるなど、検証していくとあまりに不備が多い。
しかしそれは恐らく、ダリオ・アルジェントという監督が謎解きとして隙のない整合性を保つよりも、映画としての見せ場を作り、観客を惹きつける展開を組み込むことを優先しているが故なのだろう。
実際、そうした欠点を意識しながら鑑賞しても、アルジェント監督らしい魅力は横溢している。思わぬタイミングで起きる新たな事件によって捜査が行き詰まり、やがて絵に描いたようなピンチが訪れる。不自然さを意識していても、惹きこまれずにいられない。
とりわけ本篇で際立つのは、ほぼ全篇で“犯人側の目線”による描写を採り入れている点だ。犯人が見ている映像をそのまま使うことで、犯行現場の描写を自然に加えるとともに、犯人と探偵の接近を感じさせサスペンスを高めていく。写真家を殺害するくだりや、終盤で中心人物に魔手を伸ばす場面などはこの趣向がとりわけ有効に働いている。
途中の描写で犯人の姿があまり描写されていないせいで、意外性も充分に演出しきれず、その顛末にある後味の悪さにモヤモヤを残すかたちになってしまったことも惜しまれる。しかし、そんな欠点があるからこそ、ある意味でダリオ・アルジェントという映画作家の求めるスリラー像というものがよく見える作品となっているのだろう。傑作ではないが、ダリオ・アルジェントという監督を理解するうえでは無視してはならない1本かも知れない。
関連作品:
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』/『歓びの
『アイズ(2008)』/『ブラインドネス』/『ロスト・アイズ』/『名探偵ゴッド・アイ』/『ドント・ブリーズ』
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