『ズーム/見えない参加者』

新宿ピカデリー、スクリーン7入口前のデジタルサイネージに表示された『ズーム/見えない参加者』キーヴィジュアル。
新宿ピカデリー、スクリーン7入口前のデジタルサイネージに表示された『ズーム/見えない参加者』キーヴィジュアル。

原題:“Host” / 監督:ロブ・サヴェッジ / 脚本:ジェンマ・ハーレイ、ロブ・サヴェッジ、ジェド・シェファード / 製作:ダグラス・コックス / 製作総指揮:ロブ・サヴェッジ、ジェド・シェファード / 編集:ブレンナ・ランゴット / 衣装:アレクシ・コトコウスカ / 視覚効果スーパーヴァイザー:マイク・ナイツ / 出演:ヘイリー・ビショップ、ジェマ・ムーア、エマ・ルイーズ・ウェッブ、ラディーナ・ドランドヴァ、キャロライン・ウォード、アラン・エリス、パトリック・ウォード、エドワード・ライナード、ジニー・ロフトハウス、セイラン・バクスター / シャドウハウス・フィルムズ製作 / 配給:TWIN
2020年イギリス作品 / 上映時間:1時間8分(特典映像含む) / 日本語字幕:大城哲郎
2021年1月15日日本公開
公式サイト : http://zoom-mienaisankasha.com/
新宿ピカデリーにて初見(2021/1/16)


[粗筋]
 2020年、新型コロナウイルス感染症が世界中に蔓延したことで、ロンドンも隔離政策が採られた。
 不要な往来が禁じられるなか、ヘイリー(ヘイリー・ビショップ)たちは余興として、Webコミュニケーションツール《ZOOM》を介した交霊会を催すことにした。ヘイリーがかねてから交流のある霊能力者セイラン(セイラン・バクスター)に連絡を取り、友人たちはそれぞれの自宅からPCやスマートフォンを用いて儀式に参加する。
 幾度か交霊会に参加した経験のあるヘイリーは真面目に臨んだが、しかし友人たちは興味本位の態度を隠さなかった。それでも出来るだけセイランの指示に従っていたが、ジェマ(ジェマ・ムーア)がふざけ半分で、実在しない人物を持ち出してしまったところから、事態はにわかに不穏さを帯びていく……。


[感想]
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大は映画界にも甚大な影響を及ぼしている。とりわけ深刻だったのが、ハリウッドから供給される大作が、アメリカ本国で映画館の営業規模が縮小していることに伴い公開を先送りにしており、その煽りで日本にも新作が届きにくくなってしまった点だ。不幸中の幸いと言おうか、日本では『鬼滅の刃』が歴史的なヒットを遂げたことで映画業界全体がいくぶん活気づき、アニメと国内の実写作品は比較的コンスタントに供給が継続しているが、海外の大作は明らかに目減りした。撮影そのものも、厳格なルールを敷くことで辛うじて行われているようだが、なにせ2020年に封切られるはずだった大作が軒並み公開延期になっていルので、これらの作品も日本に届くのがいつになるのか、いまはまったく読めない状況にある。
 だが一方で、この事態を逆手に取った作品がしばしば発表されてもいる。本邦でも、大勢の同時コミュニケーションを可能にする《ZOOM》を駆使したドラマや、お笑いの配信ライブが実施されていたが、やはり海外でも同じようなことを考えるひとはいたらしい。本篇はハリウッド、ではなくイギリスの作品ではあるが、日本よりも厳しいロックダウンが実施されたロンドンを舞台に、それぞれのネット環境を利用して撮影されている。スタッフ、キャスト共にいっさい接触なく――というわけではないのは、本篇中の描写、演出からも推測出来るが、それでも最小限の編成で実現した作品が、製作から1年と経たずに日本に届くのは、こういう状況だからこそ、だろう。
 内容的には、“リモート環境で交霊会を催した面々が、同時に怪奇現象に見舞われる”というアイディアのみで成立している、と言っていい。何らかの裏事情が明かされるようなことはないし、途中で劇的な逆転が起きることもない。
 しかしそのぶん、《ZOOM》というツールならではの趣向が細かにちりばめられており、制約を逆手に取った創意工夫には目を惹かれる。同じ人物がふたり表示されるトラブルや、交霊会の中心人物だけ回線が途切れてしまう、など、普通にやっていても起きそうな奇妙な出来事から、本格的な怪奇現象まで、いずれもこの手法、ツールだからこその見せ方を活かしている。恐怖、というのは観る側の感性にも依存するので、誰しもが恐怖を味わうことはないにせよ、その工夫と努力には舌を巻くはずである。
 観る側の感性による、とは書いたが、しかし本篇を鑑賞したひとは、多かれ少なかれ、しっかりと恐怖を体感できるはずだ。《ZOOM》ならではの、しかしもし現実に起きれば充分に怖いはずの出来事を、本篇はあまり過剰に装飾することなく、シンプルに提示している。しかも本篇は、効果音や、雰囲気を高めるための低く唸るような音を入れてはいるが、BGMの類はほぼ用いていない。それゆえに、随所で挟まる沈黙が、こうした事態に陥った場合に訪れる、不安を催す間を生み出すことにも繋がっている。
 またこの作品の場合、怪奇現象に焦点を絞り、その背景などをあえて掘り下げなかったことで、「何故、この字容共で、この人物が怪奇現象に見舞われるのか」「この現象の意味は何だったのか」という疑問を、観客に過剰に意識させなくなっている。なまじ背景が明瞭になってしまうと、無関係な人物に累が及んだり、必然性のない怪異が紛れていることに不自然さを感じさせてしまうが、説明をしてしまうことを省いたのは賢明だった。恐らく、表現上の制約で、そこまで加えるのが難しい、という事情もあった、と推測されるが、翻って、制約があったことが本篇には幸いした、と言えるだろう。
 まさにこうした状況だからこそ作り得たホラー映画である。早いところ騒動が収束し、迫力充分な大作も、技の効いた小品も同じように映画館で楽しめるときが来ることを願うが、こういう作品を楽しめる心の余裕も持っておきたい。

 ……と、作品の内容にはけっこう満足しているのだが、ただ、個人的には本篇そのものよりも、日本での劇場公開で特別に添えられた映像の方が興味深かった、というのも正直なところだ。
 スタッフとキャストは制作に先立ち、実際に《ZOOM》を用いて、リモート環境での交霊会を試みたらしい。特典として上映されたのは、その際に録画された映像なのだが、これがほぼほぼ本篇の元ネタ、と言えるくらいに、劇中でこちらの心をざわつかせたのと同じ現象が幾つも記録されている。
 いわゆる“心霊映像”のたぐいと異なり、明確におかしな物体が画面上に現れた、というものではないが、通常ではあまり起きないようなトラブルが頻出する映像は、これ自体でなかなかの見応えがある。怪奇ドキュメンタリーの類や、『怪談新耳袋殴り込み』のような作品が好きなひとは、この特典映像のために本篇を観てみてもいいくらいだ、とさえ思う。


関連作品:
アンフレンデッド』/『アンフレンデッド:ダークウェブ』/『search/サーチ(2018)
怪談新耳袋Gメン2020

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