TOHOシネマズ上野、スクリーン1入口脇に掲示されていた……のがタイトルを印字した紙だけだったので、下に『プロジェクトV』パンフレットを添えてみた。
原題:“急先鋒 Vanguard” / 監督&脚本:スタンリー・トン / 製作:スタンリー・トン、バービー・タン / 撮影監督:クリス・リー / プロダクション・デザイナー:ジェームズ・チョン / 編集:ヤウ・チーワイ / 衣装:ミリアム・チャン、コニー・レオン / サウンドデザイン:スティーヴ・バージェス、ワン・ジェウユエン / アクション指導:スタンリー・トン、ハン・クワンホワ、JCスタント・チーム / 音楽:ネイザン・ウォン / 出演:ジャッキー・チェン、ヤン・ヤン、アレン、ムチミヤ、シュ・ルオハン、ジュー・ジャンティン、ジャクソン・ルー、エイヤード・ハウラニ、サイード・バトレヤ、カン・エイディン、アイルズ・バドゥルゴフ、ブラヒム・シェブ / 配給:TWIN
2020年中国作品 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:小木曽三希子
2021年5月7日日本公開
公式サイト : https://projectv.jp/
TOHOシネマズ上野にて初見(2021/6/3)
[粗筋]
春節に沸くイギリスの中華街で、名士のチョン・クォックラップ(ジャクソン・ルー)とその妻が拉致された。警報でそれを察知した民間の国際警備会社《ヴァンガード》のトップ、トン・ウンテン(ジャッキー・チェン)はすぐさま、連れ去られた地点にいちばん近い場所にいたスタッフ2名、ロイ・ジャンユー(ヤン・ヤン)とチョン・ホイシュン(アレン)のふたりの派遣を指示する。ふたりとも当日は非番で武装もしていなかったが、躊躇なく出動、ホイシュンがダメージを負ったが、見事にチョン夫妻の救出に成功する。
だが、事態はこれでは終わらなかった。チョンを狙ったのは、中東過激派のリーダー、オマル(エイヤード・ハウラニ)。オマルは先代の指導者であり、自身の父であるマシムを空爆で殺した米軍への復讐心に燃えており、兵器調達のための資金を必要としている。チョンはかつてマシムのビジネスパートナーだったが、マシムの裏の顔を知ると預かっていた資金を隠蔽した。オマルは、マシムのものだったはずの資産をチョンから取り戻さなければならない。
オマルの指示を受けて拉致を実行していた犯罪組織がチョンのひとり娘ファリダ(シュ・ルオハン)を狙ってくる、と察したトンは、ロイとホイシュン、ミヤ(ムチミヤ)、コンドル(ジュー・ジャンティン)の4名とともに、ファリダが野生動物保護運動のために滞在しているアフリカへと赴いた。
推測通り、組織の刺客と雇われたハンターがファリダを発見したところだった。激流での追跡劇の果てに、ファリダとロイははぐれてジャングルのなかに退避する。トンとミヤが救援に向かうが、敵も既にその位置を把握していた――
[感想]
2013年の『ライジング・ドラゴン』公開時に「ジャッキー流アクションはこれで最後」とか謳っていたはずなのに、それから8年経ってもまだやってるやん、とお思いの方も多いだろう。だが実際、、『ライジング・ドラゴン』以降のジャッキー・チェンの出演する作品は、明らかに傾向が変わってきている。
確かにジャッキーらしいアクションも盛り込まれているが、作品のなかでアクションが占める割合は小さくなっている。『ポリス・ストーリー/レジェンド』にしても近年の快作『ザ・フォーリナー/復讐者』にしても、アクションを披露しつつもドラマ性を補助するために用いていて、その危険性や迫力を売りにしないものが増えてきた。客演扱いだが、『ナミヤ雑貨店の奇蹟 -再生-』や『クライマーズ(2019)』のように、アクションの一切ない作品も出てきた――あいにく、こうした作品はなかなか日本に届きづらいのが実情だが。
そしてそれ以上に明確になってきたのが、世代交代への意識だ。ジャッキーも60代に入り、アクションに対するリスクが増大してきた、というのもあるだろうが、アクション映画を愛するからこそ、次世代の育成の必要性を強く感じているのだろう。『ライジング・ドラゴン』からしてその傾向はあったが、ジャッキーの絡まない、若手俳優のみの見せ場が増えている。チームひとりひとりの個性を際立たせた『レイルロード・タイガー』が特に象徴的だが、本篇はその方針をいっそう押し進めている。ジャッキーがアクションを披露する場面にしか興味がないひとは嘆きそうなくらい、見せ場が少なめだ。なんなら、従来ならば派手なアクションに繋がりそうな場面ですら、あえてすかすような趣向を入れて動きを避けていたりする。
しかしそのぶん、若手が演じるキャラクターに、ジャッキーが体現してきたアクションの要素を分散してちりばめていて、“これこそジャッキー・チェンの映画”と頷きたくなるような雰囲気をうまく作り上げている。水陸両用車からボートに乗り移り、激流を流されるような身体を張った場面に臨んだムチミヤ、手数の多さと切れ味で魅せるヤン・ヤン、手に唐辛子を擦り込んだり、調理器具を利用したアクションでジャッキーのコミカルさを踏襲したアレン、といった具合に、ジャッキー・チェンを想起させるアクションの要素が各人の見せ場に盛り込まれている。ジャッキーにとって長年の盟友であるスタンリー・トンが監督とアクション指導を兼任、ジャッキー・チェンが率いるスタント・チームも加わっていればこそ、ジャッキー自身が出しゃばらずともジャッキーらしさを感じる映画になっているのだろう――とは言いつつ、本篇でも水上バイクから落ちたあとに45秒浮上してこない、というトラブルも起きたり、身体はそれなりに張っているらしい。
それでは、クオリティや満足度が全盛期のジャッキー作品に匹敵するか、と問われると、残念ながら首を横に振らざるを得ない。
ジャッキー作品に限らず、香港のアクション映画はストーリーについては細部が杜撰で大味になりがちだったが、その悪癖も受け継いでいる印象だ。ワールドワイドに物語が展開するのは楽しいが、移動距離の長さや採算性を考慮しない戦いっぷりは、アクション映画にはありがちなこととは言え、度を過ぎていて気になってしまう。
《007》を彷彿とさせる、実在の技術の延長上にあるようなギミックも、それはそれで面白いが、作品そのものの空想性を強めてしまい、結果的にほかの描写に浮ついた印象を与えてしまっている。アクション自体は基本、肉体を活かしたものが多いのだが、1人乗りのホバーや、虫や鳥に擬した偵察用ドローンのような、未だ実現に至っていないアイテムの登場が、随所に特殊効果やCGを用いていることをあからさまに示唆してしまい、身体を張ったアクションの説得力を損なっている。使ってはいけない、とまでは思わないが、なまじ往年のジャッキーを彷彿とさせるアクションを若手に振り分けているのに、その魅力、鮮やかさの印象を薄れさせてしまっているのが惜しい。
アクションやSF的ギミック、それを世界各地で展開し、ジャッキー以外の若手を積極的にアクションに関与させる、という発想が先行して、全体で眺めると不格好で大味な印象を残してしまう。意図してそうあろうとした、とも取れるからこそ、本篇に対しては、「良くも悪くも大味な大作アクション映画」という評価がいちばん適当であるように思う。
切れ味鋭く激しく、それでいて笑いや爽快感もあるアクションが堪能出来る、というジャッキーらしさが光る一方、当のジャッキーの見せ場が抑え気味なので、どうしても彼の華麗な立ち回りが観たい、というひとにとっては満足はいかない仕上がりだろう。だが、その作品群の変化、常々ジャッキーが口にしている信念を知っているひとならば、方向性としては納得がいくはずだ。ジャッキー・チェンのテイストを留めた娯楽作であると同時に、彼なりに次世代のアクション映画を見据えた布石なのである。
……もちろん、その上で単独の映画としてクオリティが高ければ理想的なのだけど。
関連作品:
『ポリス・ストーリー3』/『ファイナル・プロジェクト』/『レッド・ブロンクス』/『ライジング・ドラゴン』
『ポリス・ストーリー/レジェンド』/『ザ・フォーリナー/復讐者』/『ナミヤ雑貨店の奇蹟 -再生-』/『クライマーズ(2019)』/『ライジング・ドラゴン』/『ポリス・ストーリー/REBORN』/『ナイト・オブ・シャドー 魔法拳』
『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』/『メカニック:ワールドミッション』
『ワイルド・スピード SKY MISSION』/『007/スカイフォール』/『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』
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