TOHOシネマズ新宿が入っている新宿東宝ビル壁面に飾られた『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』キーヴィジュアルと、それを見下ろすゴジラヘッド。
原題:“F9 : Fast Saga” / 監督:ジャスティン・リン / 脚本:ダニエル・ケイシー、ジャスティン・リン / 原案:ジャスティン・リン、アルフレド・ボテッロ、ダニエル・ケイシー / 製作:ヴィン・ディーゼル、ジェフ・カーシェンバウム、ジャスティン・リン、ニール・H・モリッツ、ジョー・ロス、クレイトン・タウンセンド、サマンサ・ヴィンセント / 撮影監督:スティーブン・F・ウィンドン / プロダクション・デザイナー:ヤン・ロルフス / 編集:グレッグ・ドゥーリア、ディラン・ハイスミス、ケリー・マツモト / 衣装:サーニャ・ミルコヴィッツ・ヘイズ / スタント・コーディネーター:スパイロ・ラザトス / キャスティング:レイチェル・テナー / 音楽:ブライアン・タイラー / 出演:ヴィン・ディーゼル、ミシェル・ロドリゲス、ジョーダナ・ブリュースター、タイリース・ギブソン、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、ナタリー・エマニュエル、シャーリーズ・セロン、ジョン・シナ、フィン・コール、サン・カン、アンナ・サワイ、ヘレン・ミレン、カート・ラッセル、ルーカス・ブラック、シャド・モス、トゥエ・エルステッド・ラスムッセン、ドン・オマール、シェー・ウィガム / ワン・レース・フィルムズ/オリジナル・フィルム製作 / 配給:東宝東和
2020年アメリカ、タイ、カナダ合作 / 上映時間:2時間23分 / 日本語字幕:岡田壯平
2021年7月9日日本公開
公式サイト : https://wildspeed-official.jp/
TOHOシネマズ新宿にて初見(2021/8/6)
[粗筋]
幼い子供のために平穏な生活を営んでいたドム(ヴィン・ディーゼル)とレティ(ミシェル・ロドリゲス)のもとを、仲間たちが差し迫った様子で訪ねてきた。彼らにたびたび危険な任務を要請してきたミスター・ノーバディ(カート・ラッセル)から、不可解な動画が送りつけられたのだ。ドムたちとも深い因縁のある犯罪者サイファー(シャーリーズ・セロン)を逮捕、飛行機で輸送中、襲撃を受け、墜落したらしい。通信記録の中で、重要な積荷があり、それが狙われていたことを示唆していた。
墜落したのは、敵対的な軍が支配する領域。極限で発せられたメッセージに報いるため、ドムたちは現地に駆けつける。分解した飛行機の残骸のなかで厳重に保管されていたのは、何らかのユニットを半分にした片割れらしかった。
現れた軍の壮絶な襲撃により現地を離脱するさなか、別の武装集団も介入して、現場は混沌とする。そのなかで、ドムは驚くべき顔を見つけた――血を分けた弟ジェイコブ(ジョン・シナ)である。ジェイコブは追跡劇のさなかに取り落としたユニットを掠め取ると、強力な電磁石を搭載した戦闘機に乗用車ごとピックアップされ、去っていった。
ドムのファミリーの一員である有能なハッカー、ラムジー(ナタリー・エマニュエル)らの尽力で、ドムは情報を収集した。問題のユニットは《アリエス》と呼ばれるもので、完全な状態であれば、衛星通信を介して全世界のデジタル機器を掌握する機能を備えている。ミスター・ノーバディは非常事態を考慮してユニットをふたつに分割、更にアクティベーション・キーがなければ起動しないように細工を施していた。そして、アクティベーション・キーの情報を握っているのは、意外にも、ドムたちがよく知る人物だった。
その名はハン(サン・カン)――恋人とともに東京へ移り、そこで自動車の爆発に巻き込まれて死んだはずの、古いドムの仲間だった……
[感想]
2001年に始まったこのシリーズも、20年を経て遂に第9作、スピンオフを含めると10作目となった。4作目でシリーズに正式復帰、製作としても作品を支えてきたヴィン・ディーゼルによれば、本篇含めて残り3作で、少なくともドムを中心とする現在のシリーズは完結させる意向だという。現時点では都合11作に及び、作を追うごとに派手な趣向を盛り込みアクション映画愛好家を熱狂させたシリーズも、いよいよ佳境を迎えた、ということになる。
私自身がリアルタイムで鑑賞するようになったのはディーゼル復帰後の4作目『ワイルド・スピードMAX』からだが、ここからのレベルアップは確かに凄かった。肉弾戦も盛り込みつつ、破天荒なアイディアを盛り込んだカースタント、という根本の魅力を損なうことなく、1作ごとに規模とクオリティを高めていった。第7作『ワイルド・スピード SKY MISSION』の撮影中に、1作目でドムと出会い、4作目の復帰以降は実質もットも重要なファミリーとなったブライアンを演じるポール・ウォーカーを事故により失う、という最大の悲劇に見舞われながらも、ポールの家族の協力も得た工夫によってそんな悲劇の匂いを感じさせないばかりか、追悼の想いも籠めた優れたドラマへと結実させ、高みへと達した。
完全にポール・ウォーカーを失った状態でどこまで続けられるか? が不安要素だった第8作『ワイルド・スピード ICE BREAK』も、そこにブライアンの存在をきちんと感じさせながらテーマ性とドラマを維持、アクション面では潜水艦まで持ちだして更にスケールを増して観客を喜ばせた。
そうして、ヴィン・ディーゼルが残り3作で完結、と明言した頃に、最新作の監督として、第3作から第6作まで携わり、シリーズの成長に貢献したジャスティン・リンが復帰する旨が公表された。一部キャストが関係悪化により姿を消す、という不穏な情報もあったものの、理想の布陣を整えたことで、鑑賞する前は期待しかなかった。
決して期待外れだったわけではない。ただ、やはりポール・ウォーカーという大きな柱を失った痛手と、9作も重ねてきたが故のマンネリズム、作を追うごとにスケールアップしなければならない、という枷の厳しさを、意識せざるを得ない内容だったことも事実だ。
劇中では未だ生きているブライアンを引退させる、という選択のために、ファミリーの重要さを強調したことは、シリーズとしてのテーマに一貫性を持たせる効果もあったが、平穏な生活への憧れをも露わにしたドムを、戦いの場へと連れ出す難しさに繋がってしまった。前作もそうだったが、今回もドムが任務に立ち上がるまでの成り行きには強引な印象が強い。
そしてやはり、どんどんスケールアップさせる、という方法には、どうしても行き詰まりがある。前作で潜水艦まで引っ張り出してしまったことで、本篇に至って荒唐無稽の感が強まってしまった。既に『スカイミッション』の時点でちょっと空は飛んでいたが、本篇は戦闘機を駆使し、挙句宇宙まで飛び出した。ただ、そこまではまだいいのだ。問題は、途中から登場する電磁石である。
あくまでフィクションなのだから、多少あり得ない技術が登場するのも、実際の機能を大幅に水増しするのも構わない、とは思う。だが、そのルールに恣意が強く見えると、観ている方は笑うか醒めてしまう。笑うくらいならまだ興奮を損ねはしないだろうが、醒めてしまうのは望ましくない。今回登場した電磁石の挙動は、かなりこの境を危険なところまで攻めてしまっている。初登場の際、周囲の鉄製のアイテムを等しく吸い寄せてしまうが、その後の描写の通りであれば吸い寄せられて然るべきものが普通に残っていたりする。かと思うと、この電磁石をドムたちが利用しているくだりでは、必要なアイテムを狙い通りに引き寄せることに成功している。他のシーンでの能力が正しいなら、恐らくあの場面でも余計なものを引き寄せてしまうので、あんな風にはうまく運ばないはずだ。
恐らく、劇中の表現が非現実的であることについて、スタッフもある程度は自覚している。不自然さを承知の上で映像的かつ解り易いインパクトを狙ったのだろうが、それにしても本篇は恣意が強い。映像として面白いので、派手で見応えはあるのだが、これを許容できるか否か、でアクション映画としての評価は大きく割れてしまうだろう。
構成的にも、悪い意味でマンネリが強まってしまった。戦いとは距離を置こうとしているドムたちが何らかの理由で日引っ張り出される、というのはここ数作のお定まりのパターンだが、本篇の場合、その構造が直前の『ワイルド・スピード ICE BREAK』に似通ってしまったのも勿体ない。むろん細部は異なっているし、本篇では大きな眼目として、『ワイルド・スピード EURO MISSION』以来のハンの復活、という要素はあるが、シリーズとしての大きなテーマである、“ファミリー”というものを巡る表現、趣向が完全にパターン化してしまって、続けて観ているほどに感動も爽快感も薄くなってしまう。なまじ、劇中のドムも製作としてシリーズを献身するヴィン・ディーゼルも、仲間を疎かにしないひとであるせいで、終盤のまとめ方が似たり寄ったりになってしまうのはある程度致し方のないところだが、大事な要素であればこそ、もう少し違う切り口を見せるなり、何らかの変化が欲しかった。
宣言通りであれば、ドムとファミリー物語は遺すところ、あと2本でひとまず完結する。恐らくそこでは更なるトラブル、大きな機器が待ち構えているはずで、シリーズとしてのパターンを体現する最後の機会だった、と考えると、本篇のつくりは間違ってはいない。しかし、もはや映画史に残るレベルで成功したアクション映画のシリーズであることを思えば、守りに入るところと攻めるところの判断は重要だった。あくまで私の印象だが、本篇の判断は、あまり正解だったようには思えない。
――と、だいぶ辛めに書いてしまっているが、それもこれも、このシリーズに対する期待値が大きいせいだ。ヴィン・ディーゼル復帰後の成長は目覚ましいものがあったし、ポール・ウォーカーの死を乗り越えてリリースされた『スカイミッション』は一種、奇跡のような出来映えだった。作り手に、シリーズに対する愛情も意欲も充分窺えるだけに、どうしてももっと突き抜けたものを期待してしまう。
実際のところ、観ていて退屈することはない。序盤から幾度も凄まじい見せ場が用意されていて、その都度スリルを存分に味わえる。シリーズを通して観てきたものには、ハンの名前が挙がった瞬間は(知ったうえでも)衝撃だったし、彼がさも死んだように振る舞った背景は、少々強引ではあるが、ドムのファミリーらしい信念に裏打ちされたもので、なかなかに感じ入るものがある。
やたらと鏤められたユーモアや、お約束となった終盤のパーティのひと幕も、きちんとツボを押さえていて、それこそ“ホーム”の安心感と心地好さがある。ここで安易な揺さぶりをかけない潔さそのものは、むしろ評価すべきポイントだろう。
更なる新境地を欲していると肩透かしに感じる、しかし、もはや押しも押されもせぬ大ヒットシリーズとしての矜持は確かに貫いている。なまじ、凄まじい高みを見てしまったあとでは物足りなく映るが、芯が通った仕上がりであることを否定するひとはいるまい。
関連作品:
『ワイルド・スピードMAX』/『ワイルド・スピード MEGA MAX』/『ワイルド・スピード EURO MISSION』/『ワイルド・スピード SKY MISSION』/『ワイルド・スピード ICE BREAK』/『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』/『トリプルX:再起動』/『マチェーテ・キルズ』/『テキサス・チェーンソー ビギニング』/『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』/『GAMER』/『スノーホワイト』/『ニンジャ・アサシン』/『くるみ割り人形と秘密の王国』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』/『ジャーヘッド』/『ジョーカー』
『トップガン』/『ライトスタッフ』/『トータル・リコール(2012)』/『ゼロ・グラビティ』
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