TOHOシネマズ日比谷のロビーから、日比谷公園をバックに撮影した『キャプテン・マーベル』パンフレット。
原題:“Captain Marvel” / 監督:アンナ・ボーデン&ライアン・フレック / 脚本:アンナ・ボーデン、ライアン・フレック、ジェネヴァ・ロバートソン=ドゥレット / 原案:アンナ・ボーデン、ライアン・フレック、ニコール・パールマン、メグ・ラファーヴ、ジェネヴァ・ロバートソン=ドゥレット / 製作:ケヴィン・ファイギ / 製作総指揮:ヴィクトリア・アロンソ、ルイス・デスポジート、スタン・リー、メアリー・リヴァノス、ジョナサン・シュワルツ、パトリシア・ウィッチャー / 撮影監督:ベン・デイヴィス / プロダクション・デザイナー:アンディ・ニコルソン / 編集:デビー・バーマン、エリオット・グレアム / 衣装:サーニャ・ミルコヴィック・ヘイズ / キャスティング:サラ・ハリー・フィン / 音楽監修:デイヴ・ジョーダン / 音楽:パイナー・トプラク / 出演:ブリー・ラーソン、ジュード・ロウ、サミュエル・L・ジャクソン、ベン・メンデルソーン、アネット・ベニング、ラシャーナ・リンチ、クラーク・グレッグ、ジャイモン・フンスー、リー・ペイス / マーヴェル・スタジオ製作 / 配給&映像ソフト発売元:Walt Disney Japan
2018年アメリカ作品 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:高内朝子
2019年3月15日日本公開
2019年9月4日映像ソフト日本最新盤発売 [MovieNEX|4K UHD MovieNEX]
公式サイト : http://marvel-japan.jp/captain-marvel
TOHOシネマズ日比谷にて初見(2019/3/26)
[粗筋]
惑星ヘラを拠点とするクリー人は、長年にわたり、スクラル人と戦争を繰り広げていた。他の種族に擬態することの出来るスクラル人は狡猾な罠を仕掛けてくるため、最前線に立つ者は理性と観察力とが要求される。
精鋭部隊スターフォースに所属するヴァース(ブリー・ラーソン)には過去の記憶がない。しかしその代わりに、《フォトンブラスト》という特殊な能力を得ており、部隊長であるヨン・ロッグ(ジュード・ロウ)からも期待されている。彼女の弱点は、しばしば感情に踊らされることが多く、自らの能力を制御し切れていないことだった。
クリー人を統治する人工知能《スプリーム・インテリジェンス》はヴァースを試すべく、スターフォースに新たな任務を命じる。奇襲作戦を指揮したあとで行方をくらましたソー・ラーの救出である。
だがそれは、スクラル人が仕掛けた罠だった。確保したソー・ラーは擬態したスクラル人であり、ヴァースは捕らわれ、装置によって脳の奥深くに刻まれた記憶を探られる。
そのなかでヴァースは、何故かC-53という惑星で、軍用機のテストパイロットを務めていた。同僚と共に競い合うように高みを目指していた彼女は、ウェンディ・ローソン(アネット・ベニング)という開発者に最大の敬意を払っていた。
辛うじて装置から脱出したヴァースだったが、スクラル人の司令官タロス(ベン・メンデルソーン)は損傷を受けた宇宙船を脱出、C-53を目指していた。ヴァースも脱出用ポッドで追跡するが、損傷していたポッドは大気圏で大破し、ヴァースはC-53のとある建物に墜落する。
ほどなくして現地の警察と、捜査官が駆けつけてきた。一部始終を目撃していた警備員は、現場の公衆電話を改造してヨン・ロッグに報告している最中のヴァースを指さした。
それが、当時S.H.I.E.L.D.の一介の捜査官であり、のちに長官として前代未聞のプロジェクトを指揮するニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)と、そのプロジェクトの鍵を握る存在となる彼女との、初めての出会いだった――
[感想]
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の衝撃的な結末を経て、“マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース”は次の『アベンジャーズ/エンドゲーム』で最初の大きな括りを終えようとしている。本篇はそれに先んじて、シリーズ完結への鍵を握るもうひとりのヒーローの過去を描いた作品である。
如何せんシリーズ化を打ち立ててから10年を超え、作品世界は大きく広がってしまった。そのために、各シリーズを結ぶ『アベンジャーズ』のタイトルはある程度旧作に接していないと内容が把握出来ない、という状況になっているが、恐らく製作者サイドにもそのことへの反省があるのだろう、それぞれのヒーロー個別作では、なるべく他のシリーズの知識がなくとも楽しめるように作ろう、という意識が窺える。アカデミー賞候補にも掲げられるほどの成功を収めた『ブラックパンサー』が好例だが、本篇もまた、仮にこれまでの“マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース”を1本も観ていなかったとしても楽しむのに問題はないはずだ――もちろん、観ていた方が楽しさも驚きも倍増するのは間違いないけれど。
基本、他のヒーローたちの物語に触れていないことも単品で鑑賞させるための方策だが、本篇の場合、観客には《キャプテン・マーベル》と呼ばれるヒーローだ、と解る人物がどのようにヒーローとして覚醒するか、を彼女が失った過去を軸として見せる、謎解きめいた構成で綴っているのもその工夫のひとつと言える。
謎解きとしての難易度は高くない。フィクションに慣れているひとならかなり早い段階で色々と察しはつくはずだ。しかし、構成を考慮し、いちばん効果を上げるかたちで情報を提示しているので、充分すぎるほどの牽引力を発揮している。背景を薄々察しながらも、最後まで惹きつけられてしまうはずだ。
その上で本篇は、これまでのマーヴェル・ヒーローたちとは微妙に異なる個性をしっかりと発揮している。いちばん目につくのは、単独でメインを張るヒーローとしては初めての女性である、という点だが、しかし安易に女性らしさを盛り込むことはしていない。特徴的なのは、男性ヒーローにしばしば滲む、マッチョ的思考がほとんど含まれていないことだ。人間関係にどこかドライでありながら、しかし親友とは心を寄せ合いつつ適度な距離を保つ。何よりも、クライマックスである人物から持ちかけられる駆け引きを、清々しいほどの割り切りで拒絶するあたりが如実だ。恐らく他のヒーローなら駆け引きに乗り、むさ苦しい展開に持ち込むだろう――それも決して悪くはないが、この割り切り方が《キャプテン・マーベル》という、初めて単独でメインを張る女性ヒーローとしての矜持と言えよう。
極めて特徴的で興味を惹かれるヒーロー像で魅せられる作品だが、もし観ている者に引っかかるところがあるとすれば――非常識なくらいに“強い”という点だろう。中盤あたりまではそこまで意識させられないが、ある意味で“覚醒”を果たすクライマックスの強さは思わず笑ってしまうほどだ。10年前にスタートした“マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース”においては初登場であり、他のヒーローたちと直接並べてみる機会はまだないのだが、それでも解るくらいに強すぎる。その圧倒的パワーが発揮されるクライマックスは痛快ではあるが、「やりすぎじゃないの?」と心配したくもなる。
しかし、だからこそ来たる“マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース”の集大成となるはずの『アベンジャーズ/エンドゲーム』で鍵を握る人物である、というのも納得がいく。単独で観ても楽しめるように配慮しつつも、やはりあくまで『~エンドゲーム』に繋がる一連のサーガのなかで捉えるのが最善の楽しみ方なのだろう。
関連作品:
『アイアンマン』/『インクレディブル・ハルク』/『アイアンマン2』/『マイティ・ソー』/『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『アベンジャーズ』/『アイアンマン3』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』/『アントマン』/『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』/『ドクター・ストレンジ』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』/『スパイダーマン:ホームカミング』/『マイティ・ソー バトルロイヤル』/『ブラックパンサー』/『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』/『アントマン&ワスプ』
『キングコング:髑髏島の巨神』/『ブラック・シー』/『ミスター・ガラス』/『とらわれて夏』/『ワイルド・スピード SKY MISSION』/『リンカーン』
『雨に唄えば』/『ライトスタッフ』/『ゴーストバスターズ(1984)』/『トップガン』/『レインマン』/『羊たちの沈黙』/『ザ・シークレット・サービス』/『日の名残り』/『理由(1995)』/『マトリックス』
『ワンダーウーマン』/『ワンダーウーマン1984』/『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
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