『アイス・ロード』

TOHOシネマズ錦糸町 オリナス、スクリーン7入口脇に掲示された『アイス・ロード』チラシ。
TOHOシネマズ錦糸町 オリナス、スクリーン7入口脇に掲示された『アイス・ロード』チラシ。

原題:“The Ice Road” / 監督&脚本:ジョナサン・ヘンズリー / 製作:アル・コーレイ、ユージン・マッソ、リー・ネルソン、シヴァニ・ラワット、バート・ローゼンブラット、デヴィッド・ティッシュ / 製作総指揮:デヴィッド・ビューロウ、ジョナサン・ダナ、コナー・フラナガン、ジュリー・ゴールドステイン、アダム・ルボウィッツ、モニカ・レヴィンソン、マイルズ・ネステル、キース・レイ・プットマン、アンドリュー・C・ロビンソン、ジャレッド・D・アンダーウッド、リサ・ウィルソン / 共同製作:カーリー・デイヴィス、ジョン・レオネッティ / 撮影監督:トム・スターン / プロダクション・デザイナー:アーヴィンダー・グレイウォル / 編集:ダグラス・クライズ / 衣装:ヘザー・ニール / キャスティング:リンセイ・グラハム、メアリー・ヴェルニュー / 音楽:マックス・アルジ / 出演:リーアム・ニーソン、ローレンス・フィッシュバーン、マーカス・トーマス、ベンジャミン・ウォーカー、マット・マッコイ、アンバー・ミッドサンダー、ホルト・マッキャラニー、マーティン・センスマイヤー、マット・サリンジャー / コード・エンタテインメント/シヴハンズ・ピクチャーズ/エンヴィジョンメディア・アーツ製作 / 配給:GAGA
2021年アメリカ、カナダ合作 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:林完治
2021年11月12日日本公開
公式サイト : https://gaga.ne.jp/iceroad/
TOHOシネマズ錦糸町 オリナスにて初見(2021/11/18)


[粗筋]
 カナダの北部、カトカにあるダイアモンド鉱山で、ガス爆発事故が発生した。2度にわたる崩落で、26人の作業員が坑道に閉じこめられてしまう。閉鎖空間で酸素が尽きるまで、考えられる猶予は30時間。
 問題は、救助に必要となる坑口装置の輸送であった。装置は30トンを超え、着陸可能な滑走路のない事故現場まで空輸は出来ない。しかし陸路はその大半が、凍った湖や川の上に出来た《アイス・ロード》で構成されており、4月を迎えて既に閉鎖されている。まだ氷は残っているが、装置を搭載するトラックの安全も保証できない状態だった。
 空軍からこの難しい仕事を任された運輸会社のオーナー、ジム・ゴールデンロッド(ローレンス・フィッシュバーン)は、《アイス・ロード》での走行に慣れたドライバーが必要と考え、急遽人員を募る。そのなかに、マイク・マッキャン(リーアム・ニーソン)とガーティ(マーカス・トーマス)という兄弟がいた。戦争の後遺症によりウェルニッケ失語症を患ったガーティは職場でからかわれることが多く、血気盛んなマイクがそんな同僚と揉めることが多いため、ふたり揃って職場を転々としていたが、マイクは《アイス・ロード》走行の経験が豊かで、ガーティは整備士として優れた技術を持っている。ジムはふたりの経験を買い、雇うことを決める。
 更にジムは、軽犯罪で留置所に入れられていた元部下のタントゥー(アンバー・ミッドサンダー)を保釈してメンバーに加えた。彼女もまた問題行動が多く、ジムともたびたび衝突しているが、運転技術には優れている。加えて、彼女の兄コーディ・マントゥース(マーティン・センスマイヤー)は鉱山の作業員であり、爆発によって閉じこめられている被害者のひとりでもあった。
 危険な道中で、資材を放棄せざるを得ない事態になっても、誰かが辿り着けば救助活動が可能になるよう、ジムは3台のトラックに同一の資材を積み込んだ。マッキャン兄弟が1台、タントゥーと保険会社のトム・ヴァルネイ(ベンジャミン・ウォーカー)が1台、そして最後の1台にジム自身が乗り込み、同時に現地へ向けて出発した。
 だが彼らは知らない――行く先に待ち受ける危険は、《アイス・ロード》だけではない、ということを。


[感想]
 設定を聞いた途端に「『恐怖の報酬(1953)』みたいだな~」と思ったが、どうやらその通りだったらしい。パンフレットの監督コメントによれば、幾つか触発された作品のなかでも、やはり『恐怖の報酬』の影響がいちばん強いという。
 むろんそのままではなく、あちらは激しい振動を与えればすぐに爆発するニトログリセリンの運搬だったのに対し、本篇はいつ割れるとも知れない氷の道を、積載限度ギリギリの資材を搭載した30トントラックで走る、というものだ。対処は近しいような気もするが、おのずと見せ方は変わってくる。応用としては巧い。
 しかし、その設定を活かして全篇を心理サスペンスさながらの緊迫感で覆ったあちらと比較すると、率直に言って本篇は緩い。思ったほどに“氷の道”の恐怖を主軸にしていないこともそうだが、エンタテインメントとしての軸として仕込んだ“陰謀”や、マイクとガーティの“兄弟の絆”が、結果的に作品としての焦点をブレさせてしまっている。その気になれば、いつ重みで割れるかも知れないという恐怖、それに対処するための工夫、この状況だからこその生死を巡るドラマで充分に魅せられたと思うのだが、恐らくは脚本も兼ねた監督の、娯楽映画に対する素養や愛着が結果的に、作品の奥行きを浅くしてしまったように感じる。なにせ、キャッチーな作りで大ブームを巻き起こした『アルマゲドン』の脚本を手懸けた人物であるから、作風としてそちらに流れるのは致し方のないところかも知れないが、どうにももったいない。
 しかし、観ていて退屈させない作りはさすがだ。事故の発生から、救出のための過酷な条件が明示され、メインキャラクターの登場が促される。本筋に入るなり大きなトラブルが生じ、この任務が命懸けであることが明白になると、以降の緊迫感が増していく。氷の道そのものの怖さ、具体的な脅威はなかなか描かれないが、整備されていない経路ならではのシチュエーションと、背後にある企みがもたらす不穏な気配が、終盤まで緊張を保つ。
 クライマックスでは、さまざまなトラブルと激しいアクションが続き、事態も目まぐるしく変転する。マイクたちが対決する敵が少々現実離れしてしぶといことに苦笑も漏れてしまうが、手に汗握る展開に釘付けにされてしまうこともまた事実だ。序盤ではしばし、描写にブレをもたらしていた“兄弟の絆”も、アクションやトラブルと巧みに絡みあい、熱い展開を生んでいる。
 発想の原点となった『恐怖の報酬』が深遠な文芸作品にまで昇華されているのと比べると、本篇はあまりにも娯楽性が強すぎる。しかし、そのぶん尾を引く幕切れである『恐怖の報酬』よりも爽快感のある作品であり、スッキリと楽しむなら本篇のほうが間違いなくいい。


関連作品:
ザ・ロック』/『NEXT ネクスト
96時間 レクイエム』/『アントマン&ワスプ』/『リンカーン/秘密の書』/『サンシャイン・クリーニング』/『キャッシュトラック
恐怖の報酬(1953)』/『恐怖の報酬【オリジナル完全版】(1977)』/『激突!』/『ワイルド・スピード MEGA MAX』/『ワイルド・ストーム

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