『ブライアン・シンガーのトリック・オア・トリート』

ブライアン・シンガーのトリック・オア・トリート [DVD]

原題:“Trick‘r Treat” / 監督・脚本:マイケル・ドアティ / 製作:ブライアン・シンガー / 製作総指揮:トーマス・タル、ジョン・ジャシュニ、ウィリアム・フェイ、アレックス・ガルシア、アショク・アムリトラジ、マイケル・ドアティ、ダン・ハリス / 撮影監督:グレン・マクファーソン / プロダクション・デザイナー:マーク・フリーボーン / 編集:ロバート・アイヴィソン / 衣装:トリッシュ・キーティング / 音楽:ダグラス・パイプス / 出演:ディラン・ベイカー、ロシェル・エイツ、レスリー・ビブローレン・リー・スミス、ターモー・ペニケット、ブリット・マッキリップ、イザベル・ディリュース、ジャン=リュック・ビロドー、アルベルト・ギーシ、サム・トッド、ブレット・ケリー、コナー・クリストファー・レヴィン、リチャード・ハーモン、クイン・ロード、アンナ・パキンブライアン・コックス / バッド・ハット・ハリー製作 / 映像ソフト発売元:Warner Home Video

2008年アメリカ・カナダ合作 / 上映時間:1時間22分 / 日本語字幕:北村広子

2009年10月21日DVD日本盤発売 [bk1amazon]

DVDにて初見(2009/10/21)



[粗筋]

 ハロウィンの夜。あちらこちらに、化物に仮装した人々がお祭り騒ぎを繰り広げるなか、密かに本物の化物たちが跳梁を始めていた。

 ウィルキンス(ディラン・ベイカー)は学校の校長として、厳格さと優しい人柄で子供たちからも慕われていたが、もうひとつの顔を隠し持っていた。手段も相手も選ばない、凶悪な殺人鬼なのである。誰もが化物に扮装し、悲鳴を聞いても笑い飛ばしてしまうこの夜こそ、彼にとってお楽しみの時間であった。ひとり息子を喜ばせたあと、ウィルキンスは“デート”のため夜の街に繰り出していく……

 ダニエル(ローレン・リー・スミス)は妹ローリー(アンナ・パキン)のことを心配していた。いささか晩熟なところのある彼女は、未だに経験していない。友人たちと結託して男を引っかけ、あてがうことも厭わない覚悟だったが、当のローリーは姉たちと離れ、ひとりで街を彷徨った。そんな彼女の背後に、ひとつの影が忍び寄る……

 マーシー(ブリット・マッキリップ)、サラ(イザベル・ディリュース)、シュレイダー(ジャン=リュック・ビロドー)、チップ(アルベルト・ギーシ)の4人は、家々で“トリック・オア・トリート”の問いかけをするついでに、余っているカボチャのランタンを集めて歩いていた。やがて一同は、サヴァン症候群のある少女ロンダ(サム・トッド)の家に大量のカボチャが飾られているのを見て、カボチャと一緒に彼女も連れて行くことに。向かったのは潰れた採掘場――ここは昔、ある悲劇が起きた場所であった……

 ハロウィンで浮かれる街を醒めた目で見やり、飼い犬のスパイトと孤独な時間を過ごす老人クリーグ(ブライアン・コックス)。ドアを叩く子供たちにも当然、門前払いを食わせるクリーグだったが、そんな彼の前に、恐るべき訪問者が現れた……

[感想]

 題名に“ブライアン・シンガー”と冠しているが、彼は製作のみで、『X-MEN2』や『スーパーマン・リターンズ』で脚本を手懸けたマイケル・ドアティという人物が監督している。ただ、仮にブライアン・シンガー監督の持つ丁寧さ、手の込んだ作りを期待して鑑賞したとしても、裏切られることはないだろう。いや、ある意味、心地好い裏切りの感覚を味わえるはずだ。

 プロローグこそ、いわゆるスラッシャー物の趣だが、話が進むに従って印象は変わってくる。善人の顔のまま訪れた子供を殺す校長を描いたかと思うと、脳天気にハロウィンの夜を楽しんでいると思しい女性陣の様子や、家々でカボチャを分けてもらおうとする子供たちの姿を挿入する。普通のスラッシャー物なら、冒頭でカップルの女性を襲撃した“何か”がこれらの登場人物をも餌食にしていくところだが、まったくそんな展開にはならない。

 基本、それぞれの視点のエピソードは独立して進行していくのだが、この発展ぶりが実に見事だ。はじめに想像した通りにはならないし、お約束通りに個々のエピソードが少しずつリンクしていくのだが、それぞれの繋がり方、タイミングが絶妙で、非常に効果的なのである。個々のエピソードの持つ雰囲気、余韻を受け継ぎ、あるいは拡張して、如何にもホラーらしく、しかし悪趣味な流れを構築している。

 各エピソードも、何らかの“毒”が籠められているのだが、本篇は単純なひねり、揶揄に留まらず、そこにもうひとつ“毒”を上乗せしてくる。ベースとなっている“毒”だけでもニヤリとさせられるところを、更に頭の上からバケツでトッピングを仕掛けられるようなもので、さながら全身毒まみれにされるこの感覚は、いっそ快いほどだ。

 ハロウィンという状況を利用して、徹底してどぎつい色遣いの中で繰り広げられる殺戮劇は、直接描写こそ少ないものの、ホラー映画を得手としていない人には充分な怖さを味わわせてくれるはずだが、しかしホラー映画に耽溺しているような人にとっては、笑いどころの非常に多い作品に仕上がっている。狙いすましたようにお約束を覆す話運びは、おぞましさを掻き立てつつもブラックな笑いを醸成し、強烈な印象を観る者に与える。ネタを仕掛けている部分は決してマニアックではないが、終始巧みにツボを突いてくる趣向の巧みさは、マニア心を確実に擽るはずだ。

 意表をついた展開を繰り返した挙句に辿り着く結末も実に人を食っていて、一瞬ぽかんとするが、妙に痛快な余韻も味わえる。コメディ感覚のホラー映画として極めて優秀な出来だ。パッケージには“ハロウィン映画の決定版”という評を誇らしげに掲げているが、それも納得の傑作である。

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ハロウィン

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