原題:“Fast & Furious Presents : Hobbs & Shaw” / 監督:デヴィッド・リーチ / 脚本:クリス・モーガン、ドリュー・ピアース / 製作:ドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサム、ハイラム・ガルシア / 製作総指揮:ダニー・ガルシア、ケリー・マコーミック、イーサン・スミス、エインズリー・デイヴィス、スティーヴン・チャスマン / 撮影監督:ジョナサン・セラ / プロダクション・デザイナー:デヴィッド・ショイネマン / 編集:クリストファー・ラウズ / 衣装:サラ・エヴリン / スタント・コーディネーター:クリス・オハラ / ファイト・コーディネーター:グレッグ・リメンター / 音楽:タイラー・ベイツ / 出演:ドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサム、ヴァネッサ・カービー、イドリス・エルバ、クリフ・カーティス、エイザ・ゴンザレス、エディ・マーサン、ジョー・アノアイ、ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ / 配給:東宝東和
2019年アメリカ作品 / 上映時間:2時間16分 / 日本語字幕:岡田壯平
2019年8月2日日本公開
公式サイト : https://wildspeed-official.jp/
TOHOシネマズ日比谷にて初見(2019/8/3)
[粗筋]
元FBI外交保安部捜査官のルーク・ホブス(ドウェイン・ジョンソン)が愛娘と外食していると、CIA捜査官のロック(ライアン・レイノルズ)が訪ねてきた。イギリスの諜報組織MI6の極秘任務のさなかに女性エージェントが裏切り、ほかの隊員を殺害して消えた、というのである。ロックはホブスに、ある人物と協力したうえで、女性エージェントを確保して欲しい、と依頼した。
娘の後押しもあって引き受けたホブスは、ロンドンで引き合わされた協力者を見て憮然とする。現れたのはデッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)――もとは腕利きのMI6エージェントであり、ホブスの肩書きに“元”のつく原因の一つになった因縁のある人物だった。ショウのほうにしても、ホブスに対して少なからず含むところがある。けっきょく2人は別々のルートで女性エージェントを追い始めた。
ホブスは監視カメラ映像を辿って女性エージェントの行方を捜し出し、待ち伏せを図った。思いのほか激しい抵抗を受けるがどうにか確保し、ホブスはエージェントを本部で訊問する。拳を交えたホブスは、女性エージェントが裏切りに及んだ、という結論に疑問を抱いていた。彼女の実力なら、仲間を殺害せずとも機密を奪えたはずだった。彼女は罠にはめられた可能性が高い。
そこへ舞い戻ってきたショウが、ホブスに銃を向けた。ショウいわく、その女性エージェントは彼の妹ハッティ(ヴァネッサ・カービー)なのだという。ショウとホブス、そして居合わせたMI6の職員とのあいだに緊張が走ったとき、謎の集団が彼らを襲撃した。MI6の職員を倒すと、集団はハーティを拉致して逃送を図る。ホブスとショウは、これまでの遺恨をさておき、ハッティ奪還に走った――
[感想]
作を追うごとに成績を伸ばし続ける、恐らく現代屈指のフランチャイズ『ワイルド・スピード』初のスピンオフである。
本篇制作の背景にはシリーズを牽引したヴィン・ディーゼルとドウェイン・ジョンソンとの確執がある、とか、本篇が挟まれたことでオリジナル・シリーズの新作が先送りにされてしまった、など不穏な噂も聞こえてくるが、しかし観る側が気にする必要はない話だろう。仮にどんな背景があったとしても、『~MEGA MAX』で初登場以来、敵として、或いは味方として存在感を発揮してきたドウェイン・ジョンソン=ルーク・ホブスと、当代随一のアクション・スターでありシリーズ最強ともいえる悪役として『~SKY MISSION』に参加、続く『~ICE BREAK』でも意表をついた活躍を見せたジェイソン・ステイサム=デッカード・ショウという、劇中では対抗心剥き出しにするふたりを組ませたミッション、という魅力的な題材が現実のものとなったのはファンとして喜ばしい。
そして内容的にも、決してファンの期待を裏切らない作りだ。たぶん、このふたりの組み合わせと聞いたとき、シリーズのファン、アクション映画の愛好家なら想像する要素はほぼ的確に詰めこんでいる。
序盤からアクション・シーンの出し惜しみはしていない。顔見せ的に大人数を圧倒的なパワーとテクニックで翻弄する主人公ふたりの姿をお披露目すると、それそれに異なる本題へのアプローチの合間にも趣向を凝らしたアクションが挟まり、ふたりが合流した辺りからはシリーズのお約束とも言える“過剰”なカーアクションも始まる。その後も、両者や史上最強と言っていい敵、それぞれの個性を明確にしながら、実に多彩なアクションを鏤めている。クライマックスのカーアクションでは、とんでもない趣向のなかにシリーズお馴染みの“ニトロ”も登場してきて全く抜かりがない。
他方で、このシリーズは細かなユーモアをちりばめ随所で笑いを誘うのも常套手段だったが、この作品では、終始相容れるつもりの毛頭ないホブスとショウの、お互いに対する暴言や挑発で笑いを生み出している。冒頭の、基本似たり寄ったりの朝の風景もそうだが、罵りの言葉がいちいちシンクロしたり、同じ目的で戦いに臨んでも、相手を挑発したり揶揄ったりすることは忘れない。ハッティを攫いビルから降下して逃げる敵を飛び降りて追おうとするホブスを尻目にショウが悠然とエレベーターで下っていくくだりや、敵地に潜入した際、その意趣返しのような展開が盛り込まれ、本筋の緊迫感、アクションの迫力にも拘わらず絶えずニヤニヤさせられてしまう。
このシリーズは初期から気心の知れた仲間を“ファミリー”と捉え、その強い絆を象徴するような出来事を織り込んでクライマックスを昂揚させていくのも定番の流れとなっているが、この点も本篇はきっちり踏襲している。弟のためにドムたちに牙を剥き、『~ICE BREAK』では意外なマザコンっぷりを垣間見せて、悪役ながら家族愛を露わにしていたショウは今回も家族のために暴走し、一方のホブスも登場済の娘に加え、これまで描かれていなかったルーツに言及、困難を前に断絶していたファミリーとの再会でクライマックスに彩りを加えている。こういうバディものに相応しく、最後にはホブスとショウも見事なコンビネーションを披露するが、そのきっかけの役割も果たしていて、構成的にもそつがない。
監督はこのシリーズ初起用ながら、『ジョン・ウィック』『アトミック・ブロンド』『デッドプール2』とアクション映画好きを唸らせる作品を相次いで発表してきた人物である。もともとはスタントマンだったそうで、アクションに対する理解の深さと、アクションを活かすための物語作りと呼吸の表現に優れているのも納得がいく。シリーズ先行作に対するリスペクトを籠めながら、主要スタッフは自身の作品に携わった者を多く配し、のびのびと制作していることが窺える。
事件の焦点となる“モノ”の扱いはいかにも乱暴だし、強すぎる男ふたりにぶつけるためとは言い条、ライヴァル役がほぼSFみたいな有様になっていて、シリーズ全体がいよいよ一時期の『007』めいたチープなスパイものの趣を強めているのが少々気懸かりだが、とりあえず本篇でも未だド派手なカースタントを見せ場としたアクションとしての面目を保っている。少なくとも、スピンオフといえどもシリーズのファンをまったく裏切らない出来映えであることは間違いない。
しかしそれと同時に、本篇はシリーズに接したことのないひとでもすぐに入り込める作りにもなっている。シリーズのキャラクターを登場させながらも、過去の事件が直接関わってくることはないし、本篇で基本的にストーリーも完結している。なまじ作を重ねているだけに、なかなか観に行く踏ん切りがつかなかった、というひとは、本篇から鑑賞してみてもいいと思う。
関連作品:
『ワイルド・スピードMAX』/『ワイルド・スピード MEGA MAX』/『ワイルド・スピード EURO MISSION』/『ワイルド・スピード SKY MISSION』/『ワイルド・スピード ICE BREAK』
『デッドプール2』
『カリフォルニア・ダウン』/『MEG ザ・モンスター』/『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『アリータ:バトル・エンジェル』/『フィルス』/『くるみ割り人形と秘密の王国』/『デンジャラス・ラン』
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