原題:“Saw IV” / 監督:ダーレン・リン・バウズマン / 脚本:パトリック・メルトン、マーカス・ダンスタン / 原案:パトリック・メルトン、マーカス・ダンスタン、トーマス・フェントン / 製作:グレッグ・ホフマン、オーレン・クルーズ、マーク・バーグ / 製作総指揮:ダニエル・ジェイソン・ヘフナー、ジェームズ・ワン、リー・ワネル、ステイシー・テストロ、ピーター・ブロック、ジェイソン・コンスタンティン / 撮影監督:デイヴィッド・A・アームストロング / プロダクション・デザイナー:デイヴィッド・ハックル / 編集:ケヴィン・グルタート、ブレット・サリヴァン / 衣装:アレックス・カヴァナ / 音楽:チャーリー・クロウザー / 出演:トビン・ベル、スコット・パターソン、ベッツィ・ラッセル、コスタス・マンディラー、リリク・ベント、ジャスティン・ルイス、アスィナ・カーカニス、サイモン・レイノルズ、マイク・リアルバ、マーティ・アダムズ、サレイン・ボイラン、ビリー・オーティス、ニアム・ウィルソン、ジュリアン・リチングス / ライオンズ・ゲート&ツイステッド・ピクチャーズ製作 / 配給:Asmik Ace
2007年アメリカ作品 / 上映時間:1時間33分 / 日本語字幕:松浦美奈
2007年11月17日日本公開
公式サイト : http://saw4.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2007/11/17)
注:本作はシリーズ旧作『SAW』『SAW2』『SAW3』の内容を踏まえております。なるべくネタバレはしないように心懸けていますが、どうしても抵触せざるを得ない部分、推測する材料を齎してしまう表現が含まれる恐れがあります。今後鑑賞するつもりのある方は、シリーズをすべてチェックした上で御覧になるか、ネタバレが含まれることを覚悟のうえでご覧ください。
[粗筋]
SWAT隊長リッグ(リリク・ベント)は憔悴していた。あの“ジグソウ”(トビン・ベル)に関わってからというもの、身辺で惨劇が相次いでいる。息子を人質に取られたエリック刑事(ドニー・ウォルバーグ)は半年を経ても未だに行方が確認できず、今度はその彼の痕跡を辿っていたケリー刑事(ダイナ・メイヤー)が無惨な骸となって発見された。
事件についてあまりに執着するあまり、リッグはSWAT隊長という本分を逸脱して関わろうとしはじめている。同僚であり一連の事件を担当するホフマン刑事(コスタス・マンディラー)は彼に、しばらく休養を取るべきだ、と諭し、とりあえず帰宅するよう指示する。だが、出迎えるはずの妻は、そんな風に常軌を逸し始めていた夫に嫌気を覚えており、ろくに事情を説明もせず実家へと戻っていった。
沈痛な眠りに就いた彼は、だが何者かの気配に目を醒ます。様子を探る途中で襲撃され――ふたたび覚醒したとき、バスルームに彼はいた。居間に戻ると、そこには異様な細工の凝らされた椅子が設置され、ひとりの女が拘束されていた。バスルームの扉に仕掛けられていた装置によって起動したビデオに映しだされたのは、もはや見慣れたものとなったあのパペット。加工された声が、彼に囁く。
“君は数年間、仲間の死を目撃してきた。生き残った君は、彼らを救おうとすることに執着し、正しい選択が出来なくなっている。救えない者を救おうとする無駄な努力を繰り返している。いま、そんな君に、自らの執念と向かい合う機会を与えよう”
その言葉のあと、モニターに映しだされたのは、どこかの朽ち果てた工場。椅子にはさっき別れたばかりのホフマン刑事が拘束され、その横に吊されていたのは――意外な人物であった。
“彼らの命は君の選択にかかっている。助けたいなら、執念を捨てろ。生か死か、決着は君次第だ”
……そしてまた、新たなゲームが始まった。
[感想]
第1作に衝撃を受けて以来、毎年この時期にきっちりとリリースされるシリーズ新作を追い続けてはや3年となる。前作にぼんやりと存在した違和感をきちんと素材に仕立て上げ、常に前回とは異なる趣向と、結末でのどんでん返しを盛り込む意欲的な作りに魅せられて、可能な限り追っていこうと決意したのだが、今回もある意味で期待を裏切らない出来であった――だがしかし、同時に第1作以来初めて「もう一回観なおしたい」と感じた作品でもある。
やはりきちんと旧作での描写、僅かに感じられた違和感について言及し、それを活かす内容となっていることは無論のこと、いつも以上に複雑な細工が施されているのだが――如何せん、旧作の描写まで押さえた伏線の張りようが巧妙すぎて、人によってはひっくり返された事実に気づかない、或いはその意味が理解できずに終わってしまうこともあるのではなかろうか。かくいう私自身、何を仕掛けたかったのかは承知しつつも、それが本当に正しいのか確信を持てずにいるくらいである。あまりに込み入りすぎて、どこかにミステイクがあるような気がしなくもない。
だが、仮にミスがあったとしても、全篇に蔓延する緊張感、そしてクライマックスの衝撃というシリーズならではの特色を引き継いだうえで、まだ新しいものを提示しようとする心意気を私は評価する。特に今回は冒頭でいきなり司法解剖のシーンを提示し、続いて本編にもちゃんと繋がっていく“ゲーム”を披露、そして警官の屍体の発見からFBIの捜査と“ゲーム”に巻き込まれたリッグの様子とを同時に追い、“ジグソウ”の過去と現在進行形の“ゲーム”とを輻輳させていく叙述の技が巧みであり、余計なことを考える余裕もなく観客を物語に引きこんでいく手法は見事だ。随所に登場する“ゲーム”の趣向も洗練され、残虐さもさることながら、緊張感だけを物語に取り込み、決してえげつなさばかりを強調しない洗練された描き口も実現しており、そうした部分に苦手意識があっても、いつの間にか引きこんでしまう力強さを備えていることにも注目したい――とは言え、オープニングの解剖といい容赦のない拷問の内容といい、やはり痛いものが苦手でかつ想像力が豊かだとかなりきつい代物であることに変わりはないが。
今回の終盤で示される答のひとつは、実のところ第2作で提示された方法論を敷衍したものなので、その意味ではやや意外性に欠くし、別の更に大きな趣向は、恐らく本編を観ただけではそもそも罠にさえかからず、きちんとシリーズを追っている人であっても咄嗟に衝撃を受けず、ただ最後のある描写に戸惑うだけ、という結果になっているのが少々惜しまれる。しかし、そうしてシリーズとして通して観てきた人々を侮ることなく、徹底して工夫を凝らし、スリラーとしての迫力とクライマックスの意外性を追求する意欲は、やはりそれだけで賞賛されて然るべきだろう。ヒット・シリーズとしてハリウッドに安定した地位を築きながら、安易なハッピーエンドに陥らず、虚無的で重々しい余韻を留める結末を常に用意してくるあたりも快い。
第3作で終わってもいいのでは、とは正直私も思っていたが、しかし本編を観ると、まだまだ幾らでも謎を生み出すことも、更なる衝撃を仕掛けることも不可能ではなさそうだ。事実、噂では昨年の時点でトビン・ベルは第5作までの契約を締結したといい、既にスタッフも動いている気配がある――さすがに、このシリーズで注目を高め新たな作品に着手しているダーレン・リン・バウズマン監督が続投する可能性はないようだが、代替わりしてもその意志を受け継ぐことが出来るのは既に証明済みである。いささかの不安もあるものの、大人しく来年の今ごろ届くはずの『SAW5』を待つこととしよう。
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