『東京伝説 彷徨う街の怖い話』
判型:文庫判 レーベル:竹書房文庫 版元:竹書房 発行:2005年11月5日 isbn:4812423791 本体価格:552円 |
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角川春樹事務所から刊行されているものから数えると通巻七冊目、著者の命を削りつつ前巻から半年というハイペースで刊行されたシリーズ最新刊。無認可保育園の知られざる実態を綴る『風船ごっこ』、近所付き合いの歪んだ末路『おでかけですか?』、新型ドラッグの度を超えた依存性を語る『いってもどっていってもどる』など、全35編を収録する。
もともと『「超」怖い話』の取材の過程で蒐集された、超自然的な出来事に由来しない、生きている人間の狂気が齎す類の体験談を、落ち穂拾い的に纏めたものがシリーズの始まりだったはずなのだが、著者の弁によれば近年はいわゆる“怪談”よりもこういう人間の狂気に纏わる話のほうが集まりやすくなっているのだという。『「超」怖い話』や他の様々な怪談本と併せて読んでいる私のような人間には、それは多分に著者の資質に起因しているとしか思えないのだが――しかし、耳を疑うような話題が従来よりも多くあちこちに転がるようになった、というのは多分本当だろう。 パターン化したエピソードが増えている、というのは前巻の感想でも指摘したとおりだが、今回収録された話はそのパターン化の枠の中でもえげつない代物が多い。援助交際や女あしらいの巧みな男によって感染させられたもの、ほんの僅かな油断を衝いて家に侵入してくる狂気、知られざる裏稼業のおぞましい実態を描いたエピソード、それぞれに白眉とさえ呼びたくなる強烈な作品を収録している。とりわけ『いってもどっていってもどる』なんて並大抵のホラー映画が裸足で逃げ出すぐらいの代物だ。 ただ惜しむらくは、構成が配慮に乏しい。似たような話を狭い範囲で詰め込んだり、“異常な出来事”の本番がここから始まるところで切ってしまうようなエピソードが幾つかあって、文学的な色気を出して逆に興を削いでいる部分が多々認められることだ。締め括りに置かれた作品も、変に演出効果を狙った構成になっているため、特にハードだった今回の余韻を悪い形で弱めてしまった。 またわずか二本ほどだが、これは『「超」怖い話』に含めてもいいのでは、と感じられる話が混ざっているのも気に掛かる。まったく異なる読者層にアピールしているのであれば兎も角、もともと『「超」怖い話』の落ち穂拾いとして企画され、現在も同じ版元で進行している以上、取材したエピソードの分類にはもう少し繊細に対処してほしい。 ネット上でこの感想に興味を持って読むような方は、本シリーズや『「超」怖い話』などが刊行される直前の非人道的なスケジュールをかいくぐって記事がアップされる著者のブログも御覧になっているだろうから今更説明の必要はあるまいが、本書もまた、信じがたい執筆スケジュールを経て刊行されている。そういう事情を知っているとつっつきにくいのだが、しかし折角粒が揃っているのにこの締め括りでは、さすがに「ちょっと冷静になってください」と言いたくなる。今のところこういうスタンスで執筆されているのは著者ひとりだけなので、今後とも旺盛な執筆活動を続けられることを願ってやまないのだが、だからこそやはり、もう一ヶ月でいいから余裕をもって仕事をしてくれんだろうか、とも思ってしまう。 エピソードそれぞれのクオリティは決して低くない。愛読者を満足させるレベルにはあるだろう。だが、多分だからこそ、その構成の杜撰さなどに、個人的にはどうにもやりきれないものを感じる最新刊だった。 |
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