原題:“The Hurricane Heist” / 監督:ロブ・コーエン / 原案:アンソニー・フィングルトン、カルロス・デイヴィス / 脚本:スコット・ウィンドハウザー、ジェフ・ディクソン / 製作:カレン・ボールドウィン、ロブ・コーエン / 撮影監督:シェリー・ジョンソン / プロダクション・デザイナー:ケス・ボネット / 編集:ニーヴェン・ホウイー / キャスティング:ケイト・ダウド、ナンシー・フォイ、マリアンヌ・スタニチェヴァ / 音楽:ローン・バルフ / 出演:トビー・ケベル、マギー・グレイス、ライアン・クワンテン、ラルフ・アイネソン、メリッサ・ボローナ、ベン・クロス、ジェイミー・アンドリュー・カトラー、クリスチャン・コントレラス、ジミー・ウォーカー、エド・バーチ / 配給:KLOCKWORX
2018年アメリカ作品 / 上映時間:1時間44分 / 日本語字幕:金澤葵
2019年1月4日日本公開
公式サイト : http://klockworx-v.com/wildstorm/
[粗筋]
その日、アメリカ・アラバマ州のある町は騒然としていた。ハリケーン“タミー”の襲来に備え全町民に避難指示が出たのだ。保安官のディクソン(ベン・クロス)らが誘導して住民を町の外へと送り出すなか、3台のトレーラーが町にやって来た。
この町には財務省管轄の紙幣処理施設があり、このハリケーンのさなか、6億ドル分の紙幣が破棄されるために運び込まれたところだった。ハリケーン到来前に作業を済ませたいところだが、この状況でシュレッダーが故障し、止まってしまう。財務省の職員ケイシー(マギー・グレイス)は紙幣を一時的に収容した金庫のパスコードを変更したうえ、町にまだ残っているという修理工のもとへと赴く。
その頃、修理工ブリーズ(ライアン・クワンテン)のもとを、弟で気象学者のウィル(トビー・ケベル)が訪ねていた。幼少の頃、共に遭遇したハリケーンで父親を失って以来、ふたりの関係はぎこちなかったが、ウィルは今回のハリケーンが史上最大レベルに成長することを予測、この場にブライスを残していくことは出来なかった。揃って窓を塞いでいるところにケイシーが訪ねてきたため、けっきょくブリーズはウィルを残し、施設へと赴いた。
その頃、施設では異変が起きていた。新たなトラックが現れ、麻酔銃で衛兵を昏倒させると、一気に施設に潜入する。手引をしたのは、ケイシーと共に紙幣を輸送してきた財務省職員のパーキンス(ラルフ・アイネソン)だった。
詰所がもぬけの殻になっていたことで異常に気づいたケイシーだが、その場で強盗団の銃撃に遭う。ブリーズの機転で辛うじて逃走するも、ブリーズの方はあえなく捕らえられ、発電機の修理を強要される。
ウィルは町中で銃撃戦を繰り広げるケイシーを発見すると、乗っていた災害対策車“ドミネーター”の装甲を駆使して彼女を救出した。外部に連絡を取って救援を求めねばならない場面だったが、カーチェイスのさなかにドミネーターの通信機能が故障してしまっている。修理を終えたブリーズが生きて帰されるとは限らない。ウィルには強盗団、そして迫りくるハリケーン、双方と戦う道しか残されていなかった――
[感想]
火事場泥棒、ならぬハリケーン強盗、である。邦題は監督の代表作にかこつけたのか『ワイルド・ストーム』となったが、原題はズバリそのまま、“The Hurricane Heist”となっている。そして、ほぼほぼその題名からイメージされるそのまんまの内容である。
実際の強奪計画において、ハリケーンという不確定要素を考慮するのはリスクが高いのだが、しかし本篇においては、方法として考えられるレベルにまで組み立てられている。この舞台、これだけの条件が整えば、確かに敢えて嵐の中を狙う理由にはなるだろう。
そうして用意した舞台で、万人の想定を大幅に上回るハリケーンが到来したことを、きちんと物語の上でもアクションの上でも活用している。それ故に、およそ見たことのない趣向、シチュエーションが含まれていて、観ていて退屈することはまずない。
ハリケーンと並び立つ本篇の主人公は、気象学者が駆る災害対策車“ドミネーター”だ。暴風による圧力、飛び交う危険物から乗員の安全を保つために作られた車両は、カーアクションにおいて最強と言っていい。武装こそしていないが、銃撃されても影響はなく、ハリケーンの猛威から素速く逃れるためのスピードで敵を振り切り、その耐久性を活かした方法でこの車両ならではの“攻撃”を見せるなど、見事な活躍ぶりを披露している。
また当然ながら、“ハリケーン”というタイトルロールもそれに相応しい活躍ぶりを見せる。町を無人にして舞台を整え、やって来た強盗団や彼らと戦わざるを得なくなった気象学者と財務省職員を翻弄する一方で、その性質を知り尽くした気象学者は最終的に武器として活用されたりもする。終始吹き荒れる暴風雨が異世界めいた雰囲気と、それ故の緊迫感は他のアクション映画とはまたひと味異なる面白さを演出している。
少々惜しまれるのは、犯行に携わる人間の数が多く、観ているうちに人間関係を把握しきれなくなる点だ。計画の成り行き上致し方ないところではあるが、計画の性質上、人数が増えれば増えるほど犯人たちが抱えるリスクは増大するわけで、実際的ではない、という問題も抱えている。また、そのせいで終盤に物語を進める変化が起きる一方で、誰がどんな行動をしているのかが解りにくくなり、雑然とした印象を与えてしまっている。
犯行計画に緻密さを欠き、シチュエーションが派手である分、却ってアクションの傾向が制約されてしまった難もあって、お世辞にもレベルが高い作品とは言えない。しかし、このシチュエーションだからこそ求められる要素は可能な限り拾っているし、気象学者と修理工の兄弟が過去に抱えた因縁や、彼らの果敢な反撃によって敵方が計画には不要な復讐心を抱く、というドラマの組み立てもそつがない。
キャストも知名度としてはいまいちながら堅実な面々が揃っており、B級アクションとしては満足度の高い作品である。変に重々しい余韻を残す作品よりも、観て爽快感を味わいたい、というひとにはお薦め出来る。
関連作品:
『猿の惑星:
『イントゥ・ザ・ストーム』br>
コメント